本論文は、携帯電話と男性不妊に関する横断研究です。
Fertil Steril 2023; 120: 1181(スイス)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.09.009
要約:2005〜2018年に徴兵されたスイスの2,886名の男性(18~22歳)を対象に、携帯電話の使用頻度と精液所見について横断調査を実施しました。交絡因子補正後の結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。
精子濃度(95%信頼区間) 総精子数(95%信頼区間)
1〜5回/日 基準 基準
5〜10回/日 -0.075(-0.218〜0.067) -0.099(-0.310〜0.113)
10〜20回/日 -0.063(-0.210〜0.085) -0.129(-0.349〜0.091)
20回/日以上 -0.152(-0.316〜0.011) -0.271(-0.515〜-0.027)
10回/日以上 精子濃度(95%信頼区間) 総精子数(95%信頼区間)
2005~2007年 -0.091(-0.209〜0.026) -0.153(-0.326〜0.021)
2008~2011年 -0.074(-0.163〜0.016) -0.107(-0.240〜0.025)
2012~2018年 -0.047(-0.140〜0.046) -0.096(-0.235〜0.043)
2005~2018年 -0.062(-0.118〜-0.005) -0.108(-0.193〜-0.023)
なお、携帯電話の使用頻度と精子運動率や精子形態に関連はありませんでした。また、携帯電話をズボンのポケットに入れておくことと精液所見の関連も見出されませんでした。
解説:不妊症の原因の約半分は男性に起因することが判明しています。近年、携帯電話の使用頻度が大幅に増加しており、携帯電話が発する高周波電磁場(800~2200MHz)が健康や生殖機能に悪影響を与える可能性についての懸念が高まっています。動物では、高周波電磁場により精子が死滅することや、精巣に組織学的変化を引き起こすことが示されています。ヒト精子では、in vitroの実験により、精子DNA損傷の増加と精子運動率低下が報告されています。これまでの研究では、不妊クリニックへ通院する男性が中心であり、選択バイアスがありました。本論文は、生殖能力について知識が乏しい若い一般男性のデータを用いた研究であり、想起バイアスや選択バイアスが生じる可能性が非常に低い母集団です。また、スマートフォンが普及する前の2005年から開始した調査であるため、極めて貴重なデータです。本論文は、携帯電話使用頻度増加により、精子濃度と総精子数が有意に減少することを示しています。また、年々精子濃度と総精子数が低下することも示しています。文明が進化すると生殖能力が低下する顕著な例とも言えます。
下記の記事を参照してください。
2021.5.17 「携帯電話による男性の妊孕性への影響」
2020.2.17「Q&A2477 ☆電気毛布による電磁波の影響は?」
2013.1.25「☆電磁波の影響」
2012.10.6「男性は携帯電話をズボンのポケットに入れないで!」