男性は携帯電話をズボンのポケットに入れないで! | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

携帯電話を持っていない大人は居ないという時代になりました。ほとんどの若者は携帯電話をズボンのポケットに入れています。下記の論文は、携帯電話の無線電磁波が精子に及ぼす悪影響について示したものです。待機モードより通話モードの方が多くの電磁波を発するため、本研究では通話モードのパワーで行われました。ズボンのポケットに入れたまま通話するとは、ハンズフリーでの会話を想定しています。日本ではこのような使い方をする人は少ないと思いますが、待機モードでも影響する可能性は十分あります。

Fertil Steril 2009; 92: 1318-25
要約:携帯電話の無線電磁波(通話モード)に、ヒト射出精液(健常男子23名、不妊男子9名)を、2.5cmの距離で1時間暴露した群としない群に分け、精子運動率•生存率、活性酸素、抗酸化作用、精子DNAダメージにつき検討しました。無線電磁波群では、精子運動率•生存率が低下し、活性酸素が有意に増加しました。電源の入った携帯電話をズボンのポケットに入れるのは、精液所見を悪化させ男性不妊の原因となる可能性を示唆します。

解説:携帯電話の爆発的な普及につれ、無線電磁波が人体におよぼす影響が懸念され、WHOは30Hz~300GHzの電磁波の影響につき1996年から調査を開始しました。その影響については賛否両論あり未だ結論は出ていません。近年の疫学調査では精液所見を悪化させるという報告がいくつかあります。しかし、この場合に対照群の設定(携帯電話を使用していない群)は極めて困難です。一方、動物実験では携帯電話の無線電磁波により種々の臓器で酸化ストレスが発生することが報告されています。これらの動物では、メラトニン、ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化剤が酸化ストレス軽減に効果的であることが示されています。しかし、動物実験では限界もあり、ヒトin vitro(体外)でのデータの必要性をWHOが要望しました。本研究はそれに基づく研究であり、携帯電話を精巣の近くにキープすることは男性不妊の一因となるかもしれません。