黄体ホルモン直腸投与は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ホルモン補充周期移植では、移植当日のP4値が11ng/ml未満の場合に黄体ホルモンの直腸投与を追加すると高い妊娠継続率が得られることを示しています。

 

Hum Reprod 2023; 38: 2221(デンマーク)doi: 10.1093/humrep/dead185

要約:2020〜2022年に実施した488周期のホルモン補充周期移植を対象に、移植当日のP4値が11ng/ml未満の場合に黄体ホルモン(400mgx2回/日)の直腸投与を追加(レスキューP)する前方視的検討を行いました。P4<11は114名、P4≧11は374名が該当しました。なお、子宮内膜の調製には経口エストラジオール (6mg/日)と黄体ホルモン経腟投与(400mgx2回/日)を用いました。また、黄体ホルモン直腸投与は妊娠8週まで、エストラジオールと黄体ホルモン経膣投与は妊娠10週まで継続しました。採卵時平均年齢は30.9歳、移植時平均BMIは25.1。結果は下記の通りで、全て有意差を認めませんでした。

 

            P4≧11      P4<11     P値

妊娠判定陽性率   64%(240/374) 70%(80/114)  NS

臨床妊娠率     53%(198/374) 59%(67/114)  NS

妊娠継続率(12週) 45%(168/374) 46%(53/114)  NS

総流産率      30%(72/240)  34%(27/80)  NS

化学流産率     18%(43/240)  16%(13/80)  NS

NS=有意差なし

 

ロジスティック回帰分析の結果、BMIやday5/6胚盤胞との関連はなく、採卵時年齢と胚盤胞グレードが妊娠継続率(12週)と有意に相関しました。

 

解説:ホルモン補充療法凍結胚移植における最適な黄体ホルモン値には様々な報告があり一定の見解には至っていません。11ng/mlが最適であるとする論文がある一方で、黄体ホルモンの投与経路(腟内、皮下、経口、筋肉内、直腸内)ごとに最適な値が異なる可能性も報告されています。逆に、黄体ホルモン値が高すぎると、妊娠成績が低下することも報告されています。本論文はこのような背景のもとに行われた研究であり、ホルモン補充周期移植では、移植当日のP4値が11ng/ml未満の場合に黄体ホルモンの直腸投与を追加(レスキューP)すると高い妊娠継続率が得られることを示しています。なお、本研究では、植物性硬脂肪中に黄体ホルモンを懸濁させた固形ペッサリーを膣および直腸に使用しています。カプセル、ジェル、錠剤などの他の黄体ホルモン膣剤を直腸内に使用しても同じ効果が得られるかどうかは不明です。

 

下記の記事を参照してください。

2020.8.18「自然排卵周期移植の理想的な黄体ホルモン値は?」自然排卵周期での移植日のP4値は10 ng/mL以上

2018.9.12「新鮮胚移植における理想的なP4値は?」新鮮胚移植でのOPU+2〜3日目のP4値は18.8〜31.4 ng/mL、OPU+5のP4値は47.2〜78.6 ng/mLが良い

2018.5.18「一般妊娠治療における黄体期のE2・P4の最小値は?」タイミングや人工授精の際の妊娠可能なP4値は5.6 ng/mL以上
2016.7.5「☆P4が高いと妊娠率が低下し流産率が増加する!?」ホルモン補充周期での凍結胚盤胞移植日のP4値は<20 ng/mLが良い

2015.9.4「☆黄体ホルモン濃度はいくつあれば良い?」着床との関連が示唆されているNCSは、P4値4.0 ng/mL以上で出現