☆クリプトには精巣精子か射出精子か? その2 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

クリプト(cryptozoosperima)は、射精した精液の中に精子がいたりいなかったりする場合で、精巣のごく一部でしか精子が作られていない可能性が想定されています。本論文は、micro-TESEを受ける予定だった方で、手術当日に精液中に精子が見つかった場合の培養成績と妊娠成績を調査したものです。

 

Fertil Steril 2023; 120: 996(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.07.019

要約:2015〜2021年に男性不妊のためmicro-TESEを受ける予定だった727名のうち、69名(9.5%)でTESEをキャンセルしました(TESE翌日に採卵を予定)。これは、手術当日の精液中に顕微授精(ICSI)が可能な精子が見つかったためです。50名(53周期)がこの射出精子を用いてICSIを実施しました。射出精子が見つかった方は見つからなかった方と比べ、FSHが有意に低く、精巣容積が有意に大きくなっていました。射出精子のICSIにより、成熟卵あたりの受精率56%(413/734)、移植あたりの臨床妊娠率45%(20/44)、移植あたりの出産率43%(19/44)が確認できました。なお、キャンセルしたTESE当日(採卵前日)の精子よりもTESE翌日(採卵当日)の精子の方が精子運動率が有意に高くなっていました。

 

解説:クリプトの男性はICSI可能な射出精子が見つかればTESEを回避することができます。手術を回避できる男性がどれだけいるのか、射出精子が精巣精子と同様な培養成績と妊娠成績をもたらすかについて完全には明らかにされていませんでした。本論文はこのような背景の元に行われた研究であり、約10%が手術を回避でき、射出精子による培養成績と妊娠成績は良好であることを示しています。また、連日の射精においても良好な精子が回収できることも併せて示しています。2016.6.17「クリプトには精巣精子か射出精子か?」の記事でもご紹介したように、クリプトの場合には、まず射出精子によるICSIをトライする価値があると考えます。それでも成果が出ない場合には、精巣精子を考慮するのが良いでしょう。

 

下記の記事を参照してください。

2018.7.10「無精子症でない方の精巣精子の使用は?

2017.6.18「厳しい男性不妊の場合の凍結精子と新鮮精子

2017.1.14「☆男性不妊の原因

2016.6.17「クリプトには精巣精子か射出精子か?