クリプトには精巣精子か射出精子か? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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クリプト(cryptozoosperima)は、射精した精液の中に精子がいたりいなかったりする場合で、精巣のごく一部でしか精子が作られていない可能性が想定されています。このような場合に、精巣精子と射出精子のどちらが良いかについては議論が分かれるところでした。本論文は、メタアナリシスの結果を示しています。

Fertil Steril 2016; 105: 1469(米国)
要約:2015年8月までに掲載されたクリプト関連250論文のうちわずか論文5編のみがコホート研究として対象となりました。272周期、4596個の卵子に対して、精巣精子あるいは射出精子を用いたICSIが行われました。臨床妊娠率は精巣精子25.4%(33/130)、射出精子14.5%(21/142)、受精率は精巣精子48.4%(665/1374)、射出精子58.4%(1882/3222)で両群間に有意差を認めませんでした。

解説:精子は精菅を通過する間に酸化ストレスによるDNA損傷を受けると考えられており、精子が少ない場合により顕著になります。そのため、クリプトの射出精子によるICSIより、閉塞性無精子症の精巣精子によるICSIの成績の方が良好です。本論文は、クリプトの場合に精巣精子と射出精子のどちらが良いかについてメタアナリシスを実施したものです。わずか5論文でのメタアナリシスであり、すべてが後方視的検討であるため結論的なことは言えませんが、クリプトの場合に精巣精子が良好であると断定することはできませんでした。症例数を多くした前方視的検討が待たれます。このような結果を踏まえ、クリプトの場合には、まず射出精子によるICSIをトライする価値があると考えます。それでも成果が出ない場合には、精巣精子を考慮するのが良いでしょう。