妊孕性温存方法による出産率の違い:メタアナリシス | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、妊孕性温存方法による出産率の違いに関するメタアナリシスです。

 

Hum Reprod 2023; 38: 489(フランス)doi: 10.1093/humrep/deac249

要約:2021年までに発表された、妊孕性温存方法(受精卵凍結、卵子凍結、卵巣凍結)による出産率の違いに関する34論文メタアナリシスを実施しました。出産率は、受精卵凍結41%、卵子凍結32%、卵巣凍結19%でした。卵巣凍結の妊娠方法の内訳は、体外受精妊娠で21%、自然妊娠で33%でした。

 

解説:現在、小児、思春期、若年層の癌患者さんの生存率は80%であり、妊孕性温存がクローズアップされています。米国生殖医学会(ASRM)は卵巣凍結も含めて卵子凍結と受精卵凍結を推奨していますが、欧州生殖医学会(ESHRE)は卵巣凍結を試験的な治療に位置付けています。長期的な検討が必要ですが、妊孕性温存方法による出産率の違いについては明らかではありませんでした。本論文は、妊孕性温存方法による出産率の違いに関するメタアナリシスを実施したものであり、受精卵凍結41%、卵子凍結32%、卵巣凍結19%であることを示しています。しかし、それぞれの論文の母集団は多種多様であるため、それぞれの手技を比較することはできません。また、卵巣凍結のメリットは自然妊娠の可能性が残ることです。自然妊娠で成果が出ない場合に体外受精になりますので、体外受精妊娠が少なくなっているものと考えます。

 

小児癌については、下記の記事を参照してください。

2021.12.12「癌サバイバーとその姉妹の出産率は?

2021.8.7「AYA世代の癌と不妊リスク

2019.3.5「☆小児癌生存者の妊孕性

2015.6.17「小児癌治療による卵巣のダメージ
2013.6.22「小児癌の治療と妊孕性」
2013.3.21「抗がん剤の影響(卵巣毒性)」
2015.3.5「卵巣凍結•移植の成績」
2015.3.12「小児期の癌治療による子宮のダメージ」

 

成人癌については、下記の記事を参照してください。

2022.6.23「女性の妊孕性温存:メタアナリシス

2020.6.19「乳癌の方の卵巣刺激法

2020.1.5「☆癌治療の妊孕性温存:ASRMの公式見解

2018.11.25「癌の種類によって卵巣刺激の反応が異なる!?

2018.8.17「抗癌化学療法や放射線療法の際の妊孕性温存:ASRMの見解

2018.5.7「癌患者さんの妊孕性温存には卵子凍結か卵巣凍結か

2017.10.14「採卵により乳癌の術前抗癌化学療法の遅延は起きるか?

2016.10.5「癌の種類によって卵巣反応が異なる?