本論文は、癌サバイバーとその姉妹の出産率について国家規模の調査を行ったものです。
Hum Reprod 2021; 36: 3131(フィンランド)doi: 10.1093/humrep/deab202
要約:1953〜2012年に癌と診断された女性8944名(0〜14歳)とその姉妹9848名を対象に、1993〜2012年に採卵(自己卵)を行い新鮮胚移植による出産率を、フィンランドの国家データベース(癌登録、薬剤処方、出産記録)から算出しました。癌でない姉妹と比べ癌サバイバーでは、全体の出産率は0.68倍に有意に低下していました(35.8% vs. 23.7%)。癌でない姉妹と比べ癌サバイバーでは、採卵実施率は0.72倍に有意に低下していました(2.3% vs. 2.0%)。一方、癌でない姉妹と比べ癌サバイバーでは、初回新鮮胚移植による出産率は(有意差はありませんが)1.13倍に増加していました(15.7% vs. 17.2%)。
解説:抗癌剤治療などの進歩に伴い癌サバイバーが増加していますが、癌サバイバーの妊娠率や出産率については大規模な研究が進んでおらず、未だ未解明の分野です。本論文は、癌サバイバーとその姉妹の出産率について国家規模の調査を行ったものであり、ART治療での出産率は癌サバイバーとその姉妹で変わりないことを示しています。しかし全体の出産率は癌サバイバーの女性で低下していますので、ART治療を実施した癌サバイバーは厳選された集団である可能性があります。例えば、抗癌剤の選択をする際に、卵巣毒性の弱いものを選択するなど、妊孕性温存を念頭においた癌治療をされているような女性がART治療を実施された患者さんに多く含まれていることが推測されます。
本論文の問題点は、国家データベースを用いたため、細かい条件が不明であること、新鮮胚移植の結果のみを示しており凍結胚移植の結果が含まれていないこと、出産のみを示しており流産・子宮外妊娠・中絶などが含まれていないことです。
本論文から、癌サバイバーの女性でも、しっかり妊娠治療を行えば妊娠の可能性は十分高いものと考えます。
小児癌については、下記の記事を参照してください。
2021.8.7「AYA世代の癌と不妊リスク」
2019.3.5「☆小児癌生存者の妊孕性」
2015.6.17「小児癌治療による卵巣のダメージ」
2013.6.22「小児癌の治療と妊孕性」
2013.3.21「抗がん剤の影響(卵巣毒性)」
2015.3.5「卵巣凍結•移植の成績」
2015.3.12「小児期の癌治療による子宮のダメージ」
成人癌については、下記の記事を参照してください。
2020.6.19「乳癌の方の卵巣刺激法」
2020.1.5「☆癌治療の妊孕性温存:ASRMの公式見解」
2018.11.25「癌の種類によって卵巣刺激の反応が異なる!?」
2018.8.17「抗癌化学療法や放射線療法の際の妊孕性温存:ASRMの見解」
2018.5.7「癌患者さんの妊孕性温存には卵子凍結か卵巣凍結か」
2017.10.14「採卵により乳癌の術前抗癌化学療法の遅延は起きるか?」
2016.10.5「癌の種類によって卵巣反応が異なる?」