小児癌の治療と妊孕性 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2013.3.21「抗がん剤の影響(卵巣毒性)」では、抗癌剤の種類別に卵巣毒性(卵巣予備能低下=AMH低下)の強弱を示し、アルキル化剤が最も問題であることを示しました。本論文は、小児期に罹患した癌に対する治療により将来どの程度妊娠しにくくなるかについて述べています。

Fertil Steril 2013; 99: 1469(英国)
要約:小児期の癌の種類あるいは治療別にみた、妊孕性(妊娠できる力)低下のリスクは次の通りです。
高リスク:全身放射線治療、骨盤放射線治療、骨髄移植前の化学療法、転移性ユーイング肉腫、ホジキンリンパ腫(骨盤部放射線治療)
中リスク:急性骨髄性白血病、骨肉腫、ユーイング肉腫、軟部組織肉腫(ステージ2•3)、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、脳腫瘍(放射線治療24Gy以上)、ホジキンリンパ腫(高ステージ)
低リスク:急性リンパ芽球性白血病、ウイルムス腫瘍、脳腫瘍(手術、放射線治療24Gy未満)、軟部組織肉腫(ステージ1)、ホジキンリンパ腫(低ステージ)
高中低リスクのそれぞれの治療の前後でのAMHの変化を調べると、いずれも治療によりAMHが低下し、中低リスクではAMHは治療後半年で治療前のレベルに回復しますが、高リスクではAMHが低いまま回復することはありません

解説:子宮は老化しないので何歳でも妊娠可能であると考えられています。また、抗癌剤による影響もほとんどありません。しかし、子宮への放射線治療後は、早産増加や低出生体重児増加が多くなり、子宮の機能を損ねることが知られています。
一方、卵巣への放射線治療は、全身放射線照射であれば10~15.75 Gyで90%が、骨盤放射線照射であれば20~30Gyで97%早発卵巣不全(早発閉経、POI)になることが報告されています。

現在では、小児癌の生存率はかなり高くなっています。抗がん剤の卵巣毒性のみならず、放射線による卵巣と子宮への影響も考慮する必要があります。また、高リスクの場合には、AMHが復活することはありませんので、妊娠の可能性を残せるとすれば、治療前しかありません。思春期前の卵巣凍結や卵子凍結については、現在研究が進められています。

放射線を当てると臓器は固くなることが知られていますが、子宮への影響がこれほど出現するという事実は余り知られていません。