不妊期間が長くなると、エピジェネティック異常が増える? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、不妊期間が長くなると、エピジェネティック異常が増える可能性を示唆しています。

 

Fertil Steril 2021; 116: 309(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.01.040

要約:39歳以下の女性で、移植されなかった3BB以上104個染色体正常胚盤胞を提供して頂き、受精卵のエピジェネティクスを分析し、出産に至った採卵までの期間(TTP = Time To Pregnancy)との関係を後方視的に検討しました。TTPは、0年(ドナー卵子+ドナー精子=対照群)27名、1〜2年24名、3〜4年24名、5年以上29名で分類しました。なお、エピジェネティクスは、Methyl Maxi-Seqプラットフォームを用いました。対照群と比べ5年以上のTTPでは、6,609箇所のCpGでエピジェネティクスに有意な変化を認めました。特に、インプリンティング調節遺伝子、インプリンティング遺伝子、シグナルパスウェイ遺伝子での変化が認められました。TTP2年以下と比べTTP3年以上で、インプリンティング調節遺伝子であるKvDMR遺伝子MEST遺伝子に有意な高メチル化を認めました。

 

解説:疫学研究(統計)では、不妊期間が長くなるとインプリンティング異常が増えることが知られています。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、不妊期間が長くなると、エピジェネティックな異常が増える可能性(特にインプリンティング遺伝子関連領域)を示唆しています。つまり、長期不妊の方では、正常受精卵でもエピジェネティクス異常が高頻度に認められ、その結果なかなか出産に至らないのではないかと考えられます。エピジェネティクスは、遺伝(ジェネティクス)を超える(エピ)異常ですので、遺伝子が正常でもその遺伝子に与える修飾により、遺伝子が正常な機能を行えなくなる状態です。

 

エピジェネティクスは、メチル化の有無で現されます。メチル化=スイッチOFF非メチル化=スイッチONを意味します。よって、遺伝子プロモーターのメチル化増加により、その遺伝子の発現が低下し、メチル化低下により、その遺伝子の発現が増加します。

 

下記の記事を参照して下さい。

2019.6.12「☆不妊原因と子供の健康について その3:夫婦の内分泌疾患

2019.5.17「男性不妊特集 その2:男性不妊の遺伝学的検査

2015.5.11「マウスでのROSI(円形精子細胞による顕微授精)

2013.12.26「☆加齢に伴いメチル化した精子が多くなる

2013.8.13「子宮内膜症と環境ホルモンの関係

2012.12.15「環境ホルモンの影響 女性編 その1

2012.12.7「宇宙生物学

2012.10.21「iPS細胞