本論文は、新鮮胚移植での卵巣刺激は子宮外妊娠(医学的用語では異所性妊娠)のリスク増加になることを示しています。
Fertil Steril 2020; 114: 1198(日本)
Fertil Steril 2020; 114: 1165(米国)
要約:2007〜2015年に日本産科婦人科学会のデータベースに登録した、新鮮胚移植による68,851妊娠を対象に、異所性妊娠1049件(1.46%)のリスク因子を後方視的に検討しました。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。
修正オッズ比
自然周期 基準
クロミッド 3.9倍
クロミッド+HMG 4.5倍
ロング法・ショート法 2.9倍
アンタゴニスト法 3.2倍
採卵数1〜3個 基準
採卵数4〜7個 1.15倍
採卵数8個〜 1.13倍
初期胚 基準
胚盤胞 0.81倍
異所性妊娠のリスクは、刺激周期で有意に増加しました。この傾向は、特にクロミッドを用いた時と採卵数1〜7個で顕著でした。
解説:子宮外妊娠(異所性妊娠)は、凍結胚移植よりも新鮮胚移植で高いことが知られていますが、卵巣刺激法による違いは明らかにされていませんでした。多くの国で刺激周期採卵が実施されている中で、日本では、採卵周期の9.8%が自然周期、15.1%がクロミッド周期、17.9%がクロミッド+HMG周期であり、80%で単一胚移植が実施されています。このため、自然周期を基準とした刺激周期の比較が実施しやすい環境にあります。本論文は、このような背景のもとに行われた日本の統計を用いて検討であり、新鮮胚移植での卵巣刺激(特にクロミッドを用いた周期)で子宮外妊娠のリスク増加になることを示しています。
コメントでは、上記に示した日本の特殊事情を利用した素晴らしい研究であると絶賛しています。卵巣刺激による子宮外妊娠のリスク増加のメカニズムは明らかではありませんが、黄体ホルモン(P4)が増加すると卵管の繊毛運動が低下することが報告(ただしインビトロ研究)されていますので、その可能性はあります。しかし、本論文ではE2P4値などの数値が登録されていませんので、その関連については不明です。本論文は極めて重要な情報を提供しているものの、後視的検討であるため、現在のガイドラインを書き換えるまでには至らないとしています。
なお、凍結胚移植での子宮外妊娠は低く、0.7%です。リプロダクションクリニック での子宮外妊娠はさらに低く、0.3%(およそ300人に1人)です。
子宮外妊娠については、下記の記事を参照してください。
2020.3.9「子宮外妊娠の新たなリスク因子:子宮内膜厚」
2019.8.17「初回子宮外妊娠の方の次回の妊娠予後」
2019.1.7「☆子宮外妊娠のリスク因子」
2017.8.4「子宮外妊娠のリスク」
2016.7.28「子宮外妊娠のリスク因子」
2015.12.9「子宮外妊娠の新たなリスク因子とは?」
2015.9.5「子宮外妊娠のリスクを低下させるには」
2015.4.17「凍結融解胚移植で子宮外妊娠率低下」
2014.12.3「凍結融解胚移植で子宮外妊娠が減少」
2013.1.17「凍結融解胚移植では子宮外妊娠のリスクが低下」