子宮外妊娠の新たなリスク因子:子宮内膜厚 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2015.12.9「子宮外妊娠の新たなリスク因子とは?」(オーストラリア)の記事で、子宮外妊娠(正式には異所性妊娠)の新たなリスク因子として、子宮内膜が薄いことを紹介しました。本論文は、中国からの報告で、子宮外妊娠のリスク因子としてやはり子宮内膜が薄いことを示しています。

 

Fertil Steril 2020; 113: 131(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.09.003

Fertil Steril 2020; 113: 78(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.10.033

要約:2010〜2017年単一施設のART治療で凍結胚移植により妊娠した16,556名、17,244周期を対象に(子宮内妊娠16,701周期、子宮外妊娠+子宮内外同時妊娠543周期、3.1%)、子宮外妊娠のリスク因子を後方視的に検討しました。なお、初期胚移植(85.2%)、2個移植(86.1%)、自然周期移植(75.1%)が中心の治療方針であり、基本的に良好初期胚を凍結し、不良のものを胚盤胞へ継続培養します。有意差の見られた項目は下記の通り。

 

         オッズ比

妊娠歴あり     1.32

卵管因子      1.88

男性因子      0.36

2個移植      1.36

分割胚移植     2.87

プロトコール

 自然排卵      〜

 自然排卵+刺激  1.47

 ホルモン補充   2.25

子宮内膜厚

 <8.0mm     2.70

8.0〜9.9mm    2.06

10.0〜11.9mm   1.66

12.0〜13.9mm    NS

 14mm〜      〜

 

解説:子宮外妊娠(異所性妊娠)は約1.5%の頻度で認められます。子宮外妊娠のリスク因子として、喫煙、アルコール(10g以上/日)、ピル使用開始が16歳未満、子宮内避妊具挿入中、不妊症既往(特に卵管因子)、卵管手術既往、子宮外妊娠既往、母体子宮内でDES暴露が報告されており、「凍結」「胚盤胞」「単一胚移植」の場合に低下し、「新鮮」「分割胚」「複数胚移植」の場合に増加することが知られています。

 

2015.12.9「子宮外妊娠の新たなリスク因子とは?」(オーストラリア)の記事では、8120周期(新鮮胚移植6920周期、凍結融解胚移植1200周期)を対象にした検討であり、平均子宮内膜厚は、子宮外妊娠8.5mm、子宮内妊娠9.6mm。子宮外妊娠率は、子宮内膜が9mm未満の方と比べ、9~12mmで0.44倍、12mm以上で0.27倍と有意に低下しました。本論文は、子宮外妊娠のリスク因子として、従来から報告されている、妊娠歴あり、卵管因子あり、男性因子なし、2個移植、分割胚移植に加え、ホルモン補充周期、薄い子宮内膜を挙げています。

 

コメントでは、子宮外妊娠率が諸外国よりも圧倒的に高い中国(2〜5%)の特殊事情を考慮すべきであり、本論文の結果をそのまま鵜呑みにしないよう注意喚起を促しています。確かに本論文では、初期胚移植(85.2%)、2個移植(86.1%)、自然周期移植(75.1%)が中心であり、現在日本をはじめ欧米で実施されている、ホルモン補充周期での単一胚盤胞移植とは真逆の治療戦略です。わざわざ子宮外妊娠率の高い初期胚2個移植を選択しているのは理解に苦しみます。本論文では、良好初期胚を凍結し、不良のものを胚盤胞へ継続培養していますので、この戦略も通常の戦略とは真逆で、子宮外妊娠率を高くすることになります。また、データ不備のため廃棄されたものが785周期あるため選択バイアスがかかること、喫煙や飲酒のデータが欠如しているため交絡因子の除外ができていないこと、通常は子宮内膜が7.0mm未満で定義される薄い子宮内膜を8.0mmとしていることなど、数々の不備を指摘しています。子宮外妊娠のリスク因子として子宮内膜が薄いことを示した研究はこの2論文(後方視的検討)しかありませんので、結論づけるためには前方視的検討が必要です。

 

なお、子宮外妊娠率は、凍結胚盤胞移植では0.8%(当院では0.3%)ですので、中国の現状は別世界のように思います。

 

子宮外妊娠については、下記の記事を参照してください。

2019.8.17「初回子宮外妊娠の方の次回の妊娠予後

2019.1.7「☆子宮外妊娠のリスク因子

2017.8.4「子宮外妊娠のリスク

2016.7.28「子宮外妊娠のリスク因子
2015.12.9「子宮外妊娠の新たなリスク因子とは?」
2015.9.5「子宮外妊娠のリスクを低下させるには」
2015.4.17「凍結融解胚移植で子宮外妊娠率低下」
2014.12.3「凍結融解胚移植で子宮外妊娠が減少」
2013.1.17「凍結融解胚移植では子宮外妊娠のリスクが低下」