子宮外妊娠の新たなリスク因子とは? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

これまで、体外受精における子宮外妊娠(正式名称は異所性妊娠)のリスク因子として、卵管のダメージ、喫煙、子宮内膜症が知られています。本論文は、子宮外妊娠の新たなリスク因子として、子宮内膜が薄いことを示しています。

Hum Reprod 2015; 30: 2846(オーストラリア)
要約:2006~2014年に体外受精を行い妊娠反応が陽性(βhCG>50IU/L)となった方6465名、のべ8120周期(新鮮胚移植6920周期、凍結融解胚移植1200周期)を後方視的に検討しました。なお、PGS実施周期やドナー周期は除外しました。各種交絡因子を補正後に子宮外妊娠のリスクを有意に増加させる因子として子宮内膜厚のみが残りました(平均子宮内膜厚:子宮外妊娠8.5mm、子宮内妊娠9.6mm)。子宮外妊娠率は、子宮内膜が9mm未満の方と比べ、9~12mmで0.44倍、12mm以上で0.27倍と有意に低下しました。

解説:体外受精における子宮外妊娠のリスク因子として、新鮮胚移植、移植胚数(多い)、移植時培養液量(多い)、移植の位置(奥)が関与することが報告されています。また、人種間の違いもあります。かつては、体外受精により子宮外妊娠が増加するのではないかとされていましたが、凍結胚移植が進んだ現在ではかえって子宮外妊娠は減少しています。本論文は、子宮内膜が薄い場合に子宮外妊娠のリスクが高くなることを示しています。一方、子宮内膜が厚い場合に前置胎盤(子宮下部へ着床)のリスクが増加することが報告されています。子宮外妊娠の多くは卵管妊娠ですので、子宮上部からさらに上に着床することになります。この両者の結果を踏まえると、子宮内膜厚と子宮蠕動運動に関連があるのではないかと推察されます。すなわち、子宮内膜厚増加は子宮蠕動運動が子宮の上から下へ、子宮内膜厚低下は子宮蠕動運動が子宮の下から上へ向かうのではないかという考えです。これはあくまで推論ですので、今後の検討が必要です。

下記の記事を参照してください。
2015.4.17「凍結融解胚移植で子宮外妊娠率低下」
2014.12.3「凍結融解胚移植で子宮外妊娠が減少」
2013.1.17「凍結融解胚移植では子宮外妊娠のリスクが低下」