母体PCOSはお子さんの心奇形のリスク因子か? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、母体のPCOSがお子さんの心奇形のリスク因子か否かを検討した国家規模の報告です。

 

Hum Reprod 2020; 35: 2348(デンマーク)doi: 10.1093/humrep/deaa168

要約:1995〜2018年に出産した単胎妊娠のお子さん1,302,648名を対象に、母体の多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の有無でお子さんの心奇形のリスクが増加するか否か、デンマークの国家規模のデータベースを用いて前方視的に検討しました。PCOSの母体から出産されたお子さんの心奇形は1.21%(143/11,804)、PCOSでない母体から出産されたお子さんの心奇形は0.99%(12,832/1,290,844)であり、母体年齢と出産年と住居を考慮し補正したオッズ比は1.22(信頼区間1.03〜1.44)で有意差を認めましたが、妊娠前からの糖尿病を考慮し補正したオッズ比は1.16(信頼区間0.98〜1.37)で有意差を認めませんでした。

 

解説:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、生殖年齢の女性の5〜15%に見られる疾患で、インスリン抵抗性(生まれつきあるいは肥満に伴うもの)を合併することが少なくありません。妊娠前から糖尿病を患っている女性では、お子さんの心奇形のリスクが4倍になることが知られています。また、糖尿病のない女性でも妊娠中の血糖値が高いとお子さんの心奇形のリスクが増加するとの報告があります。従って、胎児の心臓は母体の高血糖に敏感に反応することが予想されます。2015年に発表されたオーストラリアからの報告では、母体のPCOSがお子さんの心奇形のリスク因子であることを示しています。本論文は、母体のPCOSがお子さんの心奇形のリスク因子か否かを検討した国家規模の報告であり、PCOSと心奇形の関連は否定的ですが、母体糖尿病と心奇形の関連を認めています。

 

下記の記事を参照してください。

2020.10.25「父親の加齢はお子さんの先天性心奇形と関連する

2020.9.19「PCOSの周産期予後調査

2020.8.25「PCOSは妊娠糖尿病と妊娠高血圧のリスク因子

2019.12.15「Q&A2413 ARTによる先天異常と周産期合併症は?

2019.11.19「Q&A2387 ☆産婦人科医から質問:不妊治療の怖さについて

2019.7.28「PCOSの方の妊娠合併症とお子さんの予後

2019.6.9「☆不妊原因と子供の健康について その1:夫婦の年齢

2019.3.28「☆インスリン過剰は胎盤に毒?

2015.5.26「☆不妊症と赤ちゃんの先天異常の関係