培養液のmiRNAによる胚の予測 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、培養液のmicro RNA(miRNA)による胚の予測に関する検討です。

 

Fertil Steril 2020; 113: 970(ドイツ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.12.028

Fertil Steril 2020; 113: 929(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.01.035

要約:顕微授精を実施する61組の夫婦(女性27.9歳、男性33.6歳)において、精液中および培養液中miRNAと培養成績、妊娠予後を調査しました。day 3初期胚のG1が3個あった場合に移植を行い、G2とG3の場合は培養液のみ採取しました。それぞれ、精液1サンプル、培養液3サンプルずつ(G1、G2+G3)採取しました。372個のmiRNAのうち、miR-19b-3pとlet-71-5pは全ての精液と培養液に認められ、精液と培養液のmiR-19b-3p低下が妊娠予後と最も強く相関しました。

 

解説:miRNAは、細胞内に存在する20~25塩基のRNAであり、他の遺伝子の発現を調節する機能を有すると考えられている「noncoding RNA(ncRNA、タンパク質への翻訳はされない)」です。miRNAは1,000種類以上存在しており、細胞内のexosomeに蓄えられ、細胞外に排出されます。癌細胞やES細胞など、急速に成長する細胞や未分化細胞でより強く発現が認められ、細胞の発生、分化、増殖、がん化およびアポトーシスなどの細胞機能の根幹に関わっていることが知られています。miRNAは極めて安定的な物質であり、凍結融解にも強く、細胞から分泌されたmiRNAを検出することで、様々な疾患の早期発見につながることが明らかとなってきました。また、miRNAは卵胞や卵子形成に関与することや精子からも放出されることが明らかにされています。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、精液と培養液のmiRNAのmiR-19b-3p低下が妊娠予後と最も強く相関することを示しています。なお、miR-19b-3pは細胞増殖や細胞間のコミュニケーションに関与しており、胚発生に関与しています。

 

コメントでは、day 3初期胚を用いていること、初期胚3個移植していることが、単一胚盤胞移植がメインの現在のART治療にそぐわないとしています。従って、胚盤胞でも同じことが言えるのかどうか検討が必要です。

 

miRについては、下記の記事を参照してください。
2019.9.4「太ると卵子が悪くなる理由

2016.1.26「胚盤胞培養液中のmicro RNAによる着床胚の評価

2015.626「卵巣反応不良の方は卵丘細胞のmiRNA発現に異常あり」
2014.8.5「胚からのメッセージ」