本論文は、AUGMENT療法に関する初めてのランダム化試験ですが、本法の効果はないと結論づけています。
Fertil Steril 2019; 111: 86(スペイン、イタリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.09.023
要約:2015〜2017年にスペインの1施設で、42歳以下の女性、BMI<30、AMH>0.55、運動精子>500万/mL、少なくとも1回採卵を行い成熟卵5個以上が採取できたが卵の質が良くない夫婦を対象に、トリプルブラインドのランダム化試験を実施しました。56名(平均年齢36.3歳)から得られた成熟卵503個をAUGMENT群と対照群の半々に分け、培養成績、PGT-A成績、妊娠成績を比較検討しました。なお、AUGMENT群では、腹腔鏡により卵巣皮質を採取し、卵子前駆細胞を分離し、そのミトコンドリアを抽出しました。ミトコンドリア浮遊液を精子と一緒に卵子に注入しました。また、対照群では通常の顕微授精を行いました。結果は下記の通り。
対照群 AUGMENT群 P
成熟卵 250 253
受精率 68.7%(177/250) 62.7%(162/253) NS
胚盤胞率 41.1%(103/250) 23.3%(59/253) 0.0001
細胞採取率 29.6%(74/250) 17.8%(45/253) 0.0001
正常胚率 63.8%(47/74) 43.8%(20/45) NS
出産率 41.2%(7/17) 41.7%(10/24) NS
NS=有意差なし
解説:Autologous Germline Mitochondrial Energy Transfer (AUGMENT) は、ボストンのグループが開発した「自分の卵巣にある卵子前駆細胞からのミトコンドリアを本人の卵子に入れる」という新しい治療です。2015年12月に日本産科婦人科学会でAUGMENT療法の研究が承認されました。しかし、現在のところAUGMENT療法に関する論文は3編しかなく、しかもランダム化試験ではありません。本論文はこのような背景の元に行われた初めてのランダム化試験であり、AUGMENT療法の効果がない(若返り効果はない)ことを示しています。この結果を受けて、本論文の研究グループは、AUGMENT療法を中止したと結んでいます。そもそも、これまでの研究でも卵子内のミトコンドリアが多いと良いという証拠は得られておらず、真逆の結果のみが報告されています。
下記の記事を参照してください。
2018.3.3「ミトコンドリアDNA含有率と胚の関係」
2016.10.12「老化卵子モデルでのミトコンドリア移植の効果は?」
2016.4.18「Q&A1064 卵子のミトコンドリアについて」