ついに経口のアンタゴニスト製剤が登場! | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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「ついに経口のアンタゴニスト製剤が登場!」というタイトルの論文が発表されましたので、GnRH製剤の歴史と今後の展望をご紹介します。

 

Fertil Steril 2019; 111: 30(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.11.024

要約:2018年7月、米国FDAは、初めて経口のアンタゴニスト製剤を認可しました。GnRHは視床下部から放出されるペプチドホルモンpyroGlu-His-Trp-Ser-Tyr-Gly-Leu-Arg-Pro-Gly CONH2)であり、下垂体前葉に作用してFSHとLHを分泌させます。1972年に、Andrew SchallyとRoger Guilleminによって発見され、二人はこの功績が認められ1977年にノーベル賞を受賞しました。GnRHのようなペプチドホルモンはすぐに壊れてしまうため、半減期が極めて短く(2〜4分)作用時間が短いという難点がありました。そこで合成するに当たり、壊れにくく作用時間の長い薬剤の開発が重要でした。まず点鼻薬が開発され(8〜12時間有効)、その後注射製剤が登場(1ヶ月間有効)しました。これらはGnRH受容体にアゴニストとして作用しますので、初めの1週間は刺激に、その後抑制に回るという薬剤です。一方、最初からGnRH受容体に抑制作用を示すアンタゴニスト製剤の開発には大きなハードルがありました。血圧降下作用、血管透過性亢進作用、平滑筋収縮作用、アレルギー反応のメディエーターであるヒスタミンの放出作用がネックになったためです。しかも、やっと開発されたGnRHアンタゴニスト製剤は注射のみでした。今回、経口のアンタゴニスト製剤が開発されたことにより、様々な分野での治療の可能性が期待できます。ピルに代わる新たな避妊法、体外受精などの排卵抑制過多月経や月経困難症の治療、子宮内膜が厚くなり易い方、子宮内膜増殖症の治療などが考慮されます。新しい時代の幕開けと言っても良いでしょう。

 

解説:最近の薬剤開発は、新薬開発のみならず投与方法の改良投与回数の減少を目指したものが増えています。妊娠治療においても、1週間有効なHMG製剤も開発され海外では利用可能ですし、今回の経口のアンタゴニスト製剤により、体外受精の注射に対するハードルが下がることは間違いないでしょう。ホルモン剤には様々な副効用も期待できますので、新しい治療に期待が膨らみます。

 

下記の記事を参照してください。

2018.5.5「子宮内膜症の痛みには経口アンタゴニスト製剤が有効

2018.4.22「子宮腺筋症の治療について:薬物療法