今月の米国生殖医学会(ASRM)の機関誌「Fertil Steril」に子宮腺筋症の特集が組まれました。本日と明日の2回に分けてご紹介いたします。まず、子宮腺筋症の薬物療法についてです。
Fertil Steril 2018; 109: 398(イタリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.01.013
要約:現在のところ子宮腺筋症の薬物療法に関する確たる指針はありません。
これまでに行われている薬物療法のメリットとデメリットは下記の通りです。
作用 副作用
GnRHアゴニスト製剤 サイズ縮小、出血減少、疼痛緩和 更年期症状
黄体ホルモン製剤* 出血減少、疼痛緩和 破綻出血
レボノルゲストレルIUD サイズ縮小、出血減少、疼痛緩和 不正出血
ピル 無月経 不正出血、頭痛、血栓症
NSAIDs(鎮痛剤) 出血減少、疼痛緩和 消化器症状
*ノルエチンドロン、ダナゾール、ディナゲスト
また、現在検討されている新しい薬物療法には下記のものがあります。
アロマターゼ阻害薬(レトロゾール 2.5mg):サイズ縮小はGnRHアゴニスト製剤と同等
SPRM(ミフェプリストン 50mg、ユリプリスタール 10mg):疼痛緩和
GnRHアンタゴニスト製剤(エラゴリックス 150〜400mg):疼痛緩和
バルプロ酸:サイズ縮小、出血減少、疼痛緩和
抗血小板薬(トロンボキサンA2合成酵素阻害薬):臨床報告なし
また、不妊症の方にはウルトラロング法が良いとのメタアナリシスが報告されています。
解説:本論文は、子宮腺筋症の薬物療法に一定の指針がないことを示しただけなのですが、現在検討されている新しい治療には極めて興味深いものが含まれています。まず、レトロゾールはすぐにでも実施可能です。ユリプリスタールはもともと緊急避妊に使用されていましたが子宮筋腫の治療にも有効性が確認されています。現在子宮腺筋症に対する効果を検討するphase II試験が実施されています。エラゴリックスは経口のアンタゴニスト製剤であり、子宮内膜症の疼痛緩和効果を検討するphase II試験で有効性が確認されています。バルプロ酸は抗てんかん薬ですが、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬としての働きがあることが判明しています。子宮腺筋症はエピジェネティクス関連疾患であると考えられており、症例報告と動物実験ではバルプロ酸の有効性が確認されていますが、臨床試験はまだ行われていません。トロンボキサンA2合成酵素阻害薬は、抗アレルギー作用と抗血小板作用を持っています。子宮腺筋症は組織の損傷と治癒が常に起きている状態であり、血小板の関与により繊維化が生じると考えられており、動物実験ではトロンボキサンA2合成酵素阻害薬の有効性が確認されています。今後の新たな薬物療法に期待したいと思います。