Q&A1803 ヘルペス合併妊娠です | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 性器ヘルペスを患っており、妊娠前は再発抑制療法を1年程行い、バルトレックス500mgを1日1錠取っていましたが、胚移植日から現在まで中断しています。現在妊娠8ヶ月となり、今後の分娩、授乳、退院後の日常生活のことを考えると、いくつか疑問や不安に思うことがあり、下記の質問を投稿させて頂きました。お忙しいところ恐れ入りますが、ご回答頂けましたら幸いに存じます。
①分娩、授乳時の再発抑制療法について:
・ 出産予定日1カ月前からは再発抑制療法をして、バルトレックスを1日1錠飲み、帝王切開することなく無事下から産んだという方の情報をネットで見つけましたが、妊娠前に大きな錠剤を1日1錠飲んでいた事を思い出すと、本当に大丈夫なのか心配です。医学的には、赤ちゃんへの薬の影響はないのでしょうか。もし影響がない場合は、妊娠中の服用量、摂取方法も教えてください。
・出産後、母乳で赤ちゃんを育てる場合に、再発抑制療法は赤ちゃんへの薬の影響はありませんか。もし影響がない場合は、授乳中の服用量、摂取方法も教えてください。また分娩、授乳時の再発抑制療法に関する日本語での情報がそもそも少ないのですが、日本の医学界の現状では、こういった処置は一般的ではないのでしょうか。
性器ヘルペス再発の遍歴ですが、妊娠前(再発抑制療法前)は大体1〜2ヶ月に一度、妊娠後は大体2〜3ヶ月に一度、いずれも陰部や肛門の辺りに1〜2箇所発症しています。最近の再発は、再発抑制療法を行う前よりも、前駆症状が軽く、前駆期間も短いようで、患部、局所的に痺れがあって、それに気づいたときにはすぐに痒み、水ぶくれが始まってしまうことが多いです。
 

②退院後の日常生活(最新の英語の医学論文では、どこまで本当に気をつけるべきなのかを確かめたく、先生に質問させて頂きました)
全般:出産後の赤ちゃんの感染については、基本的には手洗いして接すれば大丈夫でしょうか。その場合は、どの程度の手洗いが必要でしょうか。水洗いで充分ですか。石鹸、消毒など必要な場合は、種類を教えていただけると助かります。またそれは、患部を直接触った場合も同じですか。
授乳:授乳は、ヘルペスが発症していても、いなくても、行って大丈夫ですから、母乳を通じての感染はありませんか。
離乳食:食べ物の口移しやかみ与え、またスプーンなどの食器などの共有はしない方がよいですか。
お風呂:
・同じ湯船につかっても赤ちゃんに感染しませんか。赤ちゃんが湯船の中で指しゃぶりをしても大丈夫ですか。
・腰掛いすでだっこしながら、又は、腰掛いすを共有して、赤ちゃんの体を洗ったりしても感染しませんか。
・腰掛いすや体を洗うタオルは、シャワーや風呂桶でお湯なり水なり流せば、ウイルスを完全に洗い流すことができますか。
・バスタオル等の共有はしない方がいいですか。
洗濯:タオルや下着を赤ちゃんのものと一緒に洗濯しても大丈夫ですか。
トイレ:トイレの便座やウォシュレットのノズルは、私の使用後は、アルコールか何かで消毒した方がよいですか。その場合はどの薬剤が有効ですか。


③性器ヘルペスか、口唇ヘルペスかによる唾液感染について
私は初感染時と再発時、共に発症が性器の方だけにあり、診てもらった病院でも特に血液検査などの確定診断を勧められませんでしたので、自分は性器ヘルペスだと思ってきました。しかし、初感染の時にお付き合いしていた相手は口唇ヘルペスを患っていたように記憶しており、ふと疑問に思ったのですが、性器の方にしか発症していなければ、性器ヘルペスと思って間違いないでしょうか。もしそうであるなら、唾液からの感染は注意しなくてもいいですか。くしゃみなどは気をつけなくてもいいでしょうか。それとも感染の経緯から、無症状の口唇ヘルペスの可能性もあり、唾液感染にも注意したほうがよいのでしょうか。

A ヘルペスは患部の接触がキーポイントです。「
産婦人科 診療ガイドライン ―産科編 2014」をご覧いただくと上記のほとんどの疑問が解決すると思います。水泡状の部分にヘルペスウイルスが存在しますので、その部分への直接的あるいは間接的な接触で感染するる可能性があります。なお、水泡のことをヘルペスと呼びます。

 

①帝王切開すべき場合は、分娩時に外陰部にヘルペス病変がある場合、初感染から1ヶ月以内に分娩になる場合、再発から1週間以内に分娩になる場合です。ヘルペス治療に使用する薬剤のアシクロビル=ゾビラックス(200mgx5Tab/日x5〜10日間)もバラシクロビル=バルトレックス(500mgx2Tab/日x5〜10日間)もFDA分類でBになります。FDA分類のAとBは妊娠中の投薬が可能ですが、胎児への安全性は確立されていないとの表記があります。しかし、実際には胎児への障害は報告されていません。米国ではアシクロビル(400mgx3Tab/日)を妊娠36週から分娩まで服用することで帝王切開率が低下したとの報告を受けそれを実践しています。一方英国では、再発型の感染率は3%未満と低いことから帝王切開は勧めないというスタンスです。日本は上記のガイドライン通りです。つまり、世界各国で方法が定まっていません。

また、授乳中の投薬に関しては、ほとんど全ての薬剤で投薬をしないようにとの記載がされています。その理由は、妊娠を止めることはできませんが、授乳は止めることができるからです。従って、薬剤を使うなら授乳を中止し、使わないなら授乳を続けるというスタンスです。内服薬は間違いなく乳汁中に排出されますので、赤ちゃんは母体が服用した薬剤をおっぱいを通して飲むことになります。

 

②性器ヘルペスは、症状がない時はウイルスが出ている量が少なく、感染する可能性は低いとされています。ヘルペスウイルス自体は熱や乾燥に弱く、通常の環境中ではあまり安定しないため、感染リスクに対して過度に神経質になりすぎる必要はありません。患部を触らない、患部を触った際はよく手を洗う(できれば石けんで)、洋式トイレの便座から感染しないように患部をガーゼなどで覆うか消毒用エタノールで便座を拭く、使うタオルを分けるといった対策で感染を予防できますが、これ以上の詳しい情報はありません。

なお、ヘルペスがあっても授乳は大丈夫です。ヘルペスの患部が性器に存在する場合には、一緒の入浴は避けた方が無難でしょう。ヘルペスの患部が口唇に存在する場合には、食べ物の口移しやかみ与え、またスプーンなどの食器の共有はいけません。一緒に洗濯して良いかやウォシュレットの消毒についての情報はありません。

 

③元々のウイルスが性器ヘルペスか口唇ヘルペスかの区別は不要で、どちらも性器にも口唇にも感染します。従って、対策は一緒です。

 

なお、このQ&Aは、約4〜5ヶ月前の質問にお答えしております。