先月発売されたエルトン・ジョンの新譜『ワンダフル・クレイジー・ナイト』をようやく聴けました。

前作「ダイヴィング・ボード」がピアノトリオ編成の密室的な作品でしたが、今作はその反動なのか、元気いっぱいの明るいアルバムです。タイトルが『ワンダフル・クレイジー・ナイト』で、ジャケットがコレですもの。おバカなノリでちょっと笑っちゃいますが、エルトン本人が楽しんで作ったのが伝わってきます。
一聴した時は正直、メロディの起伏が少くて物足りないな、と思ったけど、二回目に聴いた時には楽曲がグイグイ胸に迫ってきた。ポップなのに素っ気無い。エルトン・ジョンの作るメロディは本当に不思議です。
ライナー解説にも、エルトンは昔みたいに一曲にメロディをいくつも詰め込むような曲作りはしなくなった、と書いてありました。一曲にいくつもメロディを詰め込むって、J-POPの定義みたいですね。
メロディの詰め込みすぎに注意!僕がずっと漠然と思っていて自分に言い聞かせてきたことを、エルトンにも言ってもらえたようで、ちょっと嬉しい。心強いです。
稀代のメロディメイカー、エルトン・ジョンは、実は歌詞が先行でメロディを書いていると気づいたのは最近のこと。確かめたワケではないですが、おそらく間違いないと思います
(メロ先にしては譜割りが不自然。しかし「ダニエル」みたいに綺麗なメロディが歌詞先行の後付けなんて、しみじみ凄すぎる)
エルトンの相棒バーニー・トーピンの作る歌詞は、いわゆる“歌のための収まりの良い詞”でなくて、時に映画のプロットを読むかのような複雑な内容、なんとも独特の世界観を描いていて、心理描写、情景描写のためなら、おそらくは歌詞のお約束(譜割りを揃えるとか韻を踏むとか)は二の次なのでしょう。代表曲「Your Song」からして、Aメロ、一番と二番でメロディが違いますものね。
そのいびつさと内容の多層さが、エルトンの美しいメロディと相まって、美しいのにどこかゴツゴツしているエルトン・ジョン唯一無二の歌世界になるのです。
かつてポール・マッカートニーは、自分の音楽の後継者はエルトン・ジョンとギルバート・オサリバンだと言いました。
ビリー・ジョエルは、自分はエルトン・ジョンとギルバート・オサリバンの次を狙ってきたんだ、と言ったとか。
僕はギルバート・オサリバンは死ぬほど好きなのに、エルトン・ジョンは実はそれほどでもなかった。おそらくはその、歌詞先行のゴツゴツ感にしっくりこないものがあったのではないか、と、今思えば納得します。
僕が本当にエルトンにはまったのは1994年。アルバム『メイド・イン・イングランド』からです

低迷していたエルトンの復活アルバムと呼ばれています。エルトンの声がバリトンがかっていて、その低い声に魅了されて一気にのめり込みました。
聴いていて、自分が洋楽を聴き始めた当初の楽しかった気持ちが蘇ってきた。そうだ、洋楽を聴き始めた頃ってこんな気持ちだった!と思い出させてくれたアルバムです。一時中古CD屋にごそっと並んでましたが、これは手放してはいけません。
どの歌も好きなのですけど、特筆するなら「ペイン」。とにかくご機嫌な歌です(イントロがストーンズみたい)。
この歌は詞がとんでもない。出だしの歌詞がいきなり
what your name?(お名前は?)
MY NAME IS PAIN!(私の名は“痛み”です!)
これですよ。こんな具合に質問と答えがずっと交互に連なってる。こんな詞によくもまぁメロディを付けられたものです。しかも名曲ときてます。
Pain / Elton John
続くアルバム『ビッグ・ピクチャー』は、エルトンが後年に自分の作品のワーストに選んでますが、僕は嫌いじゃない。大名曲「ライク・ホーセズ」が収録されているってだけで買う価値があります。「僕の心に君の太陽」にも迫るくらいの、キャリアの1、2を競う名バラッドだと思う。

Live Like Horses / Elton John
個人的に一番好きなアルバムはこれ。『ソングス・フロム・ザ・ウエストコースト』

本当に良く出来たアルバムです。長くキャリアを重ねて浮き沈みも体験して、ここでこんなにも瑞々しい作品を作れるのか、と感動したのを思い出します。
アルバムから一曲挙げるとしたなら、これしかない。「オリジナル・シン」。
Original Sin / Elton John
マシス