八元数の世界 ~ 究極の数を探して ~ | 数学を通して優しさや愛を伝える松岡学のブログ

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アドラー心理学的な世界観のコラムやエッセイを書いています

私たちが普段、何気なく使っている数。

 

 

1, 2, 3 ・ ・ ・ といった自然数、

マイナスの数や

分数、小数

ルートなど、

 

これらをあわせて、実数といいます。

 

また、

 

実数を含むような、複素数 四元数 があることも

このコラムで紹介させていただきました。

 

では、

 

 

究極の数は存在するのでしょうか?

 

 

今回は、そんな壮大なテーマを考えてみたいと思います。

 

 

実は、

 

 

複素数や四元数より大きな、

 

八元数

 

という数が存在することが知られています。

 

 

1843年、ハミルトンが四元数を発見したことに刺激を受け、

同じ年に、ジョン・グレイヴスが八元数を発見しました。


グレイヴスは八元数を octaves と呼びました。

 


それとは独立にケイリーも八元数を発見しており、
八元数のことをケイリー数ということもあります。

 

 

八元数は、それまでの数とは違う、

不思議な性質をもっています。

 

 

どんな数かを具体的に見ていきましょう。

 

 

八元数は、

 

e1, e2, e3 ・ ・ ・ e7

 

という7つの文字を使って、


□+□e1+□e2+□e3+□e4+□e5+□e6+□e7

 

と表される数です。


( □には数字が入り、eの右下に数字を添えます )

 


たとえば、

3+4e1

 

5e2+3e3

 

2+6e1-7e3+9e1
 

のような数になります。

 

 

八元数を、四元数を含む形で書くと次のようになります。

□+□i+□j+□k+□l+□m+□n+□o

これでもよいのですが、扱いやすいように、

普通はeを使って表記します。

 

 

 

つまり、


八元数は、複素数や四元数を含んだ 「数」 ということになります。


かけ算の法則は、次の図のように定めます。



 

 

なんとも不思議な図です。

図の見方としては、

 

矢印のついた線や円にある3つの e の間では、

a×b = -b×a = c

のように定めます。


(これは、四元数の i, j, k と同じ積の決め方です)

 

 

たとえば、
 

e1, e2, e3 の間の積の法則は、

e1×e2 = - e2×e = e3

e2×e3 = - e3×e2 = e1

e3×e1 = - e1×e3 = e2

 

となります。

 

また、


e1×e1 = -1

e2×e2 = -1

e3×e3 = -1

と定めます。


三角形と円の図を組み合わせた
とても巧妙な決め方です。

どうして、こんな方法を思いつくのか不思議でしょうがないです。


ここで、このように積を定めたとき、

重大な性質が分かります。

次のかけ算を計算してみます。

( e1×e2 )×e= e3×e= e7
e1×( e2×e4 ) = e1×(-e6) = -e7

なんと、結合法則が成り立たないのです。

 


最も基本的な結合法則が成り立たないなんて!

 

 

これは驚きです。


まとめると、

複素数から四元数に広がったとき、交換法則が崩れ、

さらに、八元数に広がったとき、結合法則が崩れます。


だんだんと法則が崩れてきましたが ・ ・ ・ 


ここまできて初めて、

 


人間は数の本質に近づいたといえます。


数を次元で考えると、

四元数は4次元
八元数は8次元

もはや人間の感覚の超えた領域に入っています。


果たして、八元数は究極の数なのでしょうか?

 

 



 

 


これは難しい問いかけです。


数学者の立場やその専門分野によっても答えが違ってきますが、

 

ここでは、1つの可能性として、究極の数を探ってみます。

 

 

八元数自体とても不思議な数で、

これを究極の数といってもいいのですが、、、

 

さらに、大きな可能性もあります。

 

 

それは、

 

1つの考え方ですが、

八元数をさらに広げたものを 「数」 とみなす

 

という考えもあります。

 

 

八元数よりも大きな数とは何でしょうか?



数学の世界では、

 

例外リー代数という極めて数に近い対象が存在します。

 

例外リー代数は、結合法則が成り立たない数に近い存在です。

 

 

そして、


例外リー代数は5種類あることが知られています。


あくまで1つの考え方ですが、

 

数のさらなる拡張として、

 


5種類ある例外リー代数を 「数」 とみなす。

 

 

という考えもあります。

 

そう考えると、

 

数の探究は、新たな局面を向かえます。

 

 

例外リー代数は、八元数よりさらに次元が大きいのです。

 

 

5種類の中で最大の E8 型のものを考えると・・・

 


なんと 「248次元の数」 になることが分かっています。


4次元、8次元でさえ、人間が知覚できない空間です。

それが、248次元となると、もはや想像を絶する世界になります。

 


まさにこれこそが、究極の数といえるのだと思います。
 

 

 

■ さらに詳しくは、私の本 『数の世界』 をご覧ください。

 

 

数の世界 自然数から実数、複素数、そして四元数へ (ブルーバックス)

(Amazon)

 

 『数の世界』 では、

自然数から実数、複素数、四元数、八元数への「数の広がり」

について、数学的に詳しく書かれています。

 

 

 

【コラムの執筆者】

 

 

松岡 学

 

高知工科大学 准教授、博士 (学術)

数学者、数学教育学者

 

大学で研究や教育に携わる傍ら、

一般向けの講座を行っている。

 

アドラー心理学の造詣も深く、

数学の教育や一般向け講座に取り入れている。

 

音楽 (J-POP) を聴くのが趣味。

ファッションを意識し、自然な生活を心がけている。

 

出版物:『数の世界』ブルーバックスシリーズ、講談社。 

『5歳からはじめる いつのまにか子どもが算数を好きになる本』スタンダーズ社。

 

 

 

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