レアチーズケーキと図書室と数理物理 | 数学を通して優しさや愛を伝える松岡学のブログ

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アドラー心理学的な世界観のコラムやエッセイを書いています

私は数学の研究をしたいと思い、
大学院の博士課程に進学しました。

当時の大学院は、院生の主体性を重んじる
空気で満たされていました。

 


ただ、

 

数学の研究といっても、私はあまりイメージがわかず、
新しい発見なんてできるのだろうか?

と不安な気持ちがありました。



そんなとき、

大学院の先輩の次の言葉に、救われたような気持ちになりました。

「論文を読むとよいですよ。
自然と未解決な問題も分かるし、そちらに意識が向くようになります。」

 

私は、”なるほど!”  と心の中で思いました。

それまでは、専門書で数学を学んでいたのですが、
起承転結がしっかりしているというか、

本というのは、完成された理論が理路整然と解説されているわけで、
未解決問題に意識がいきにくいのです。

 


しかし、論文だと、まさに開拓中のテーマを扱っているので、

どこまでが分かっていて、
どんなことがまだ分かっていないか、

自然と未解決の事柄に意識がいくようになり、
研究テーマもみつけやすくなります。


そんなことから、私は論文を読むように心がけました。


といっても、

論文は、本のように詳しい説明が書いてあるわけではないので、
読むのに苦労します。


論文を読んで、分からない部分がでてきたら、
本に戻り、しばらく本から知識を吸収して、
また論文に戻ります。


そんなペースで数学を深めていきました。
 

 


私はあいかわらず、自分の部屋にこもって勉強をしていました。

私は音楽が好きで、音楽をかけながら、ハーブティーを飲みながら、
数学の勉強に没頭していました。


当時、アパートの近くに、小さなケーキ屋さんがありました。

私は数学の勉強に疲れたら、息抜きとして、
よくレアチーズケーキを買いにいきました。

ほんのりレモンの香りがする上品な味が好きでした。

 


普段は、ちらかった部屋でひたすら数学をして、食べて、寝る、
というようなまったく上品でない生活をしていましたが、

なぜか、上品なレアチーズケーキの香りにひかれました。

 


 


この頃の私は、共形場理論の論文をいつも持ち歩いていました。

これは、数学と物理の融合した理論で、
数理物理学といわれる分野です。



私は高校時代から、数学だけではなく、
物理にもとても興味がありました。


素粒子、宇宙、5次元など


数学だけでなく、
物理学のテーマを数学的にアプローチできたらいいなぁ
と考えていました。


当時、数理物理学者のヴィッテンが、
トポロジカルな場の理論や超弦理論の論文をいくつも発表して、
物理学者や数学者から脚光を浴びていました。

私は、ヴィッテンの研究に憧れていたのかもしれません。

大学院生の頃、私の心にはいつも 「数理物理」 があったように思います。
数学科図書室で、ヴィッテンの論文をよくコピーしていました。

 

 

 

 

数学図書室にこもっては、

数学や数理物理の勉強をしていました。

 

 

そんな風に、物理の世界に憧れながらも、

自分には数学の方が向いているとも気づいていました。

 

 

そこで、

 

やっぱり、自分本来の数学の世界に戻ろう、

 

と思い、


数学の世界を探究することにしました。



私の本来の数学のテーマ(興味)は、

幾何学的な対象と代数的な手法の接点

にありました。


そんなことから、リー代数、微分幾何、複素多様体など、

代数学と幾何学の接点に焦点を当てて、
数学を幅広く学んでいきました。


この時期から、

研究を意識した学びとなり、
数学の論文に触れるようになり、
各地の学会にも定期的に参加するようになり、

私の数学研究のスタイルが確立したように感じます。



今はネットで簡単に論文がダウンロードできて、
その場で印刷して、読み始めることができます。

とても便利になったけれど、なんだか味気ないようにも感じます。

図書室にこもって、雑誌のページをめくって、論文を探してはコピーする

そんな日々が懐かしく思います。

 

 

 

 

◆ 数学エッセイ

私と数学の関わり

 

ミルフィーユと層の理論

 

柔らかさの芽生えとトポロジーとの出会い

 

 

 

 

◆ 私の本 『数の世界』 について。

 

   自然数から実数、複素数、四元数、八元数への

  「数」 の広がりについて紹介しています。

 

 

数の世界 自然数から実数、複素数、そして四元数へ (ブルーバックス)

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