数学エッセイ ミルフィーユと層の理論 | 数学を通して優しさや愛を伝える松岡学のブログ

数学を通して優しさや愛を伝える松岡学のブログ

アドラー心理学的な世界観のコラムやエッセイを書いています

私は大学院の修士課程の頃、
数学の代数幾何学という分野を勉強していました。

大学院では1週間に1回のゼミが中心でしたが、
同級生たちと一緒に自主的なゼミもしていました。

 


自分で勉強するのが好きな私は、
あまりゼミ以外の授業は取っていませんでした。

1週間に1回のゼミの発表に備えて、

それ以外のほとんどの時間を専門書の熟読にあてました。

 


数学の専門書は、読むのに時間がかかります。

 


たとえば、

そこに書かれているたった3行の内容を理解するために、
何時間も費やして考えたこともありました。

朝から晩まで1日中熟読していても、
半ページしか読み進めないこともあります。

 


ただ、それでもいいのです。

あやふやな理解のまま、急いで読み進めても、
それは本当に理解したことにならないからです。

 

 

 


当時、私は夜遅くまで大学で勉強をしていました。

理系の学部は、実験をしたり、勉強をしたり、
夜遅くでも、誰かがいました。

そんなこともあり、
私はますます不規則な生活になっていきます。


家に帰るのが面倒なときは、


大学院生用の部屋の長イスで横になり
そのまま朝まで寝ていたこともありました。


朝になれば、大学の食堂で朝食を食べれるので、
大学で生活ができるのです。


助手の先生方も夜型の人がけっこういました。

真夜中に、大学院生の部屋にやってきては、
カップラーメンを食べたり、しゃべったりして息抜きをした後、


また自分の研究室に戻り、一晩中
数学の研究をしていた助手の人もいました。


なんだか平和な日々が続いていたように思います。


この頃の私は、数学のことだけを考えて
生きていたように思います。

 

 

 


当時、代数幾何学の専門書で、「層」 という概念を学びました。

これは空間と演算をもつ集合を対応させるという
ややこしい概念なんですが、

ゼミのとき指導教官の向井先生が

「ミルフィーユみたいなイメージですね」

と仰いました。


ミルフィーユはフランス語で 「千の葉っぱ」 を意味します。

確かに、お菓子のミルフィーユは何層にも重なっていて、
葉っぱが千枚重なったようなイメージが似合います。

そして、数学の 「層」 という考え方も、
空間の上に演算をもつ集合が何層にも重なったイメージの概念なのです。

しかも、「層」 はフランスの数学者たちが考えた概念なのです。
(もとは日本の岡潔先生のアイディアです)

 

 

 


私は、「層」について式で理解してゼミに臨みましたが、
向井先生のこの一言で、イメージとして腑に落ちたように感じました。

そして、層やミルフィーユに親しみがわいたことを覚えています。


今思うと、


この頃は、数学のことだけを見つめて、
時間を忘れて打ち込んでいました。

そんな中、

私と数学との関わりの方向性が定まってきて、
数学観が熟成されてきた時期のように感じます。
 

 

続く ・ ・ ・

 

 

 

 

◆ 数学エッセイ

私と数学の関わり

 

数学科のゼミと洋書との出会い

 

レアチーズケーキと図書室と数理物理

 

 

 

 

◆ 私の本 『数の世界』 について。

 

   自然数から実数、複素数、四元数、八元数への

  「数」 の広がりについて紹介しています。

 

 

数の世界 自然数から実数、複素数、そして四元数へ (ブルーバックス)

Amazon