数学エッセイ 数学科のゼミと洋書との出会い | 数学を通して優しさや愛を伝える松岡学のブログ

数学を通して優しさや愛を伝える松岡学のブログ

アドラー心理学的な世界観のコラムやエッセイを書いています

大学4年生になったとき、数学科ではゼミが始まりました。

それまでも、同級生と自主ゼミをしていましたが、
指導教官のもと、授業としてゼミをするのは初めての経験です。


私は代数学の研究室に入り、
代数的な立場で代数幾何学を学ぶことになりました。


指導教官の平野先生と、ゼミで何の本を読むか、
数学科の図書室で相談をしているとき、

平野先生が書棚から1冊の本を
何気なくヒョイと手にとって、

「これを読みましょうか?」

と決めたのが印象的でした。

それは、

Ernst Kunz著の
「Introduction to Commutative Algebra and Algebraic Geometry」

 

 

 

 

環論の立場で代数幾何学について書かれた専門書ですが、
私にとって初めての洋書で、思い出深い本です。


それまでは、自分で専門書を買ってきては、
1人でコツコツと部屋にこもって読んでいた私にとって、

4年生からのゼミは1つの転機のように感じました。


研究室に入り、
指導教官や先輩方のもとでゼミをするようになり、
仲間ができたように感じました。

 


当時、助手の小松先生の部屋に大学院生たちが自由に出入りをして、
勉強をしたり、しゃべったりしていました。

その自由で、数学に包まれた雰囲気が、
なんだか幸せな気持ちになりました。



大学の近くに、安い食堂が何件も連なっていて、
夕方、みんなで食事に行くのも楽しみの1つでした。

学会に行ったときに、休みを利用して、
先生や先輩たちと一緒に観光をしたことも印象的です。

日々、数学に囲まれて過ごしていました。

 

 

 


大学4年生の生活はゼミが中心です。

さっき書いたようにゼミで読む本を選ぶのは、
数学科図書室での数分の出来事でした。

何気ない光景のように見えます。

ただ、

ゼミで講読する本はすごく重要で、

それから1年間、すべてのエネルギーを注ぎ込んで、
その本を熟読することになるのです。


4年生にもなると、ゼミ以外の授業はほとんどないので、


朝、昼、夜、1週間のほとんどの時間を、
この本を読むために費やします。

 


指導教官のもとでゼミをするといっても、


当時の数学科では、

先生が ”教える” ということをあまりしませんでした。

 


専門書を読み進めて、

分からない部分は自分で考える

という風潮がありました。


それでも分からなければ、

 

さらに考える

とにかく考えるか、調べるかをして、
自分自身で解決して、前に進む

そのような姿勢を尊重していました。

 


指導教官の専門分野を引き継がなければいけないとか、
そんな縛りはまったくなく、

自由に勉強をして、研究を深め、
主体的に、研究者として巣立っていく


ことを理想としているのです。


確かに、

丁寧に教えてもらえないというのは、
厳しい側面がありますが、

それはプロの世界ならどこでも同じだと思います。

厳しい側面がありながらも、

自由主体性

を尊重して、

指導教官は自分の学生を温かい目で見守る。


私は、数学科のこのような姿勢が、
素晴らしいなぁ、と感じました。


なんだか、昨今の教育の流れで忘れられている
大切な姿勢が当時の数学科には存在したように思います。


私は大学4年生をきっかけに、

本格的にゼミが始まり、
洋書に触れ、
学会に参加し、

数学の世界に入っていったように感じました。

 

 

続く ・ ・ ・

 

 

 

 

◆ 数学エッセイ

私と数学の関わり

 

雪見だいふくと胞体分割

 

ミルフィーユと層の理論

 

 

 

 

◆ 私の本 『数の世界』 について。

 

   自然数から実数、複素数、四元数、八元数への

  「数」 の広がりについて紹介しています。

 

 

数の世界 自然数から実数、複素数、そして四元数へ (ブルーバックス)

Amazon