リティアさんは固く閉じていたその口を開いた。



「テトラはこの世界の闇の根源…という事は知っていますか?」


はい。炎狼牙から聞きました。


「それでは、何故そうなったのかは?」


俺は思い当たる節が無かったので、「解りません」と答えておいた。


てっきり最初からそうだったのかと思ってた…。


「じゃあ教えてあげます。漸君をこっちに呼んだ意図もありますから。

 昔話になりますが、いいですか?」


はい。お願いします。


リティアさんは、何故テトラが闇の根源になったのかを教えて下さった。


この話も結構長く掛かったので、要約しておこう。



…何?


会話シーンが面倒だから要約するんじゃないかって…?


違うな。俺の疑問も混じっているから解り辛いと思うと見た。


だから要約しておこう。


決して文字数の削減ではない。



夢に出てきた閃と龍とテトラは、仲間だったらしい。


リティアさんと、達也という夢に出てきたあの知らない人も。


閃はアナザーオブアース史上最も強い力を持っていたらしいし、龍は紅い瞳を持ち、魄術は使えなかったけど、力だけでは閃に引けを取らなかったそうだ。


リティアさんは魄術に長け、前衛の援護を主にしていたらしい。


達也という人は、リティアさんが今なっている「創造士」を束ねる力を持っている。


そして今でも世界の断片中を飛び回っているそうだ。


そして…テトラ。


闇に染まってしまう前は、龍より多少強い力を持っていたらしい。



閃を初めとする、龍、達也、リティアさん、テトラの五人は、アナザーオブアースの世界の断片を渡り歩いていた。


そして、「闇の世界」…確か、「ダークネスグランド」って名前だったか。


ダークネスグランドは空気自体に闇が含有され、世界の断片全体が濃い闇に覆われているらしい。


その世界の断片に行く時は、万全の対策を練ってから立ち入るのが常識だけれど、テトラはそれをしなかったそうだ。


強い意志を持つ術士は闇に蝕まれにくい…と言われているそうだ。


テトラの意志の強さは閃達も解っていた。


仲間だからな。信頼があったのだろう。


しかし、テトラは闇に蝕まれてしまった。


先程言ったように、強い意志を持っている術士は闇に蝕まれにくい。


だがそれを逆に言うと、蝕まれた時は絶大的な力が生じる…と言う事だ。


身体も心も闇に蝕まれてしまったテトラは、その瞬間に自我を失い暴走を始めた。


テトラを止めるより、テトラに追い付く方が大変だったそうだ。



そして閃と龍はテトラに追い付いた。


リティアさんと達也は世界の断片中にテトラが、


「闇の力を伴い暴走している」


と言う事を伝える為に奔走していた。


なのでリティアさんと達也は閃・龍とテトラが何処で衝突したのかは分からないそうだ。

調査は続けているものの、確信には至っていない。


死闘の末、閃と龍は自らの身を呈してテトラを封印した。


……らしい。


封印が完了した時、閃と龍とテトラの魄の波動が途絶えたらしい。


今、閃と龍はテトラの傍で半永久の眠りについているそうだ。


封印が行われた世界の断片は特定できていない。


理由は先程言った通りだ。


今現在、テトラは闇の住人達に「神」として崇められている。


ああ、闇の住人というのは、闇に心を蝕まれた人達の事だ。


自我がある奴と自我の無い奴がいるらしい。


心を蝕む闇の量は意志の強さに比例する。


意志の弱い奴は軽く意志は残る。


しかし、意志の強い奴は自我を失い、戦闘マシーンと化す。


その良い例がテトラだ。


テトラを崇める闇の住人は、微かに残るテトラの魄を頼りにテトラの居場所を探し回っている。


闇の住人の数も日々増えているそうだ。


そこで全てを終わらせるべく、この俺、真崎漸がアナザーオブアースに呼ばれた訳だ。


テトラは闇の力を手に入れた時に、「輪廻の呪縛」という呪いが掛かったらしい。


元々アナザーオブアースでは、法律が効いている限り、生命が尽きる事は無いそうだ。

法律の効いている時に生命維持機能が停止した場合は、粒子に分解され、アナザーオブアースに初めて来た時に降り立った世界の断片に戻されるらしい。


俺だったら、この研究所だな。


しかし裏を返せば、法律が効いていない時に生命維持機能が停止したとすると…。


本当の意味で「死」を迎える事になる。


これは普通の術士の場合だ。


しかし、テトラはこの現象を無効化するそうだ。


要は、殺しても殺しても復活するって事だ。



今までは打つ手が無かった。


今まで…はな。


そこで俺の出番らしい。


俺には輪廻の呪縛を無効化する力があるらしい。


もちろん自分では気づかなかったし、リティアさんも気づいたのは最近になってからだそうだ。


理解頂けただろうか。


今更だが、あまり要約出来なかった…。


申し訳ない。



リティアさんから色々と聞かされた俺は発する言葉が見つからず、ただただ黙っている事しか出来なかった。


テトラを本当の意味で倒せるのは、俺だけ。


プレッシャーだなぁ…。


「そういえば…閃という人はどんな人なんですか?」


リティアさんはまた驚いた表情を見せた。


「どんな人…って、あなた、閃に会った事あるでしょう?」


…?


夢の中でなら。


話したことはないけど…。


「閃はあなたの父親でしょう?」


…………え?


「そうなんですか!?」


「ええ…閃はよく漸君の話をしていましたよ」


閃が、俺の親父…。


姿も声も記憶に無い、自分の父親が今、こっちの世界にいる。


今まで行方不明だった父親が、テトラの傍で眠っている…。


ん…?


待てよ?


俺の家の人間はこちらの世界の事を理解している。


と言う事は親父がここにいる事も知っている筈だ。


どうして俺には教えてくれないんだ…?


「教えたとしても、その時の漸君は理解出来ないでしょう?」


そっか…。


俺はその時、初めて家族からの疎外感を感じた。


術士と普通の人間の間にある、壁。


それを実感した。


俺とリティアさんが話していると、部屋の自動扉が開いた。


そこには、ある二人が立っていた。

前々から書こうと思っていたのだがしばらく忘れていた事がある。



皆さんは、「お弁当」に対してどんなイメージをお持ちだろうか?


俺は「昼に食べるもの」というイメージが強かった。


バイトの先輩に訪ねてみると、やっぱり皆口をそろえて「昼に食べるもの」と言っていた。

多分、ほっともっととかベントスにバイト申し込む人はそういうイメージがあるんだと思う。


イメージする事は自由さ。だけど…実際は違うんだぜ



昼の方が忙しいと思うだろ?

実際は、夜の方が忙しいんだなこれが


昼のピークは大体12時から13時終わりまで。

だけど夜は17時か18時から19時から20時終わりくらいまで。


まぁ長ぇ日もあれば短い日もある。


でも、統計的に見れば夜の方が忙しいんだ


弁当のイメージは昼だけど、買いに来る人は夜の方が多いんだ。


母さんに聞いたら、

「夜はお父さん方が飲み会に言ってるから、お母さん方が買いに来るんじゃない?」

と言っていた。


…そうでもないな。


まぁ…夜は年配の方とか仕事帰りのリーマンが多いような気がするけど…閉店間際はリア充しか来ねぇ

なんだこれは?

俺に対する当てつけか


まぁ結局何が言いたいかというと、

晩飯に弁当はどうかと思うんだ

弁当屋で働いている俺が言うのもなんだけど…。

あと給料日に弁当屋が混むのはおかしいと思う。

なぜ弁当なんだ?

スペシャルとかデラックス弁当程度の贅沢っておかしくね?

家族連れで人数分のり弁当っておかしくね?



…お客さんに対する愚痴は言っちゃいけないとは思う。

だけどクレームが来て俺らは改善するのに向こうは変化しないだろ?

それが嫌なんだよな…俺は。


あと、オーナーが何を考えているのかわからん。

人がどんどん減っているのに新人を入れようとしない

故に六連勤があったり一カ月に六日しか休みがない高校生がいたりするんだ。


そろそろ、バイト変えたい。

最近バイトしてない奴がうらやましい。

バイトしないでなんで金があるんだ…。

世の中は色々おかしい。

「個性」とかそんな範疇に入らない「差別」がたくさんある


ちょっとばかり、疲れた

書こうと思っていたのにすっかり忘れてしまっていた。


昨日で一週間も続いたから揚げフェアがやっと終わったわけだが。

毎日100食は出たね。日曜日は200食ぐらいでたけどな。


一週間のうち俺は六日間出勤だった。

まぁ、のり弁当のフェアの時は一日しか出なかったからな…。

多分オーナーの陰謀だろう。

いや、先輩のかな…?


もうから揚げはいいや。見飽きたし揚げ飽きた

…と、言いつつも晩飯にから揚げが出たんだけどな。


…久しぶりに店以外でから揚げを見た気がする。

やっぱり母さんのから揚げは旨かった。



そういや、小説を更新したぞ。

二話同時掲載だ。

今続きを考えているんだが…なかなか思いつかない。

言霊なんてめんどくさいの作らなきゃよかった…。

「あ、目が覚めた?」


俺が目を覚ますと、満面の笑みを浮かべているリティアさんの顔が目の前にあった。


不意なことに多少戸惑う俺だったが、落ち着いて今置かれている状況を思い出してみる。



えーと…倉の掃除をしていたら炎狼牙の声を聞いた。


そしてアナザーオブアースの存在と人類が今危機に陥っていることを聞かされた俺はテトラを倒す決意を固めた。


そしてパソコンのディスプレイに吸い込まれ、ケーブルの中みたいな所を通って、この研究所にやってきた。


研究所に着いてすぐに、炎狼牙に「リティアに会え」と言われて、硝子張りの通路を歩き、自動扉をくぐって、巨大なコンピューターのある部屋に入った。


そこに、リティアさんが居た。


多量のデータを捌いていたリティアさんは「手が放せない」といい、それが終わるまで待とうと思った俺は、壁に寄りかかり待つことにしたのだが、知らない間に眠ってしまっていた。


そして夢を見ていた。


仕事を終えたリティアさんは俺の頬を叩いていたらしい。



そして現在に至る。


こう思い返してみると、随分と昔の事の様な気がするな。


殆ど昨日、今日の事なんだけどな…。


…少し思い出し過ぎたか?



俺はまだ確信の持てないリティアさんらしき人に確認を取ることにした。


「あなたが…リティアさんですか?」


「はい。私がリティア=リーフです」


やっぱり。


この女性が炎狼牙の言っていたリティアさんだ。


「お待ちしていましたよ、漸君。早速ですが…どのくらい聞きました?」


…?


「何をですか?」


「こっちの世界の事です」


俺はその後、リティアさんに炎狼牙から聞いたことを話した。



「…ということは、この世界の存在くらいしか分かっていないって事ですね?」


はい…面目ない。


「ふふ、大丈夫ですよ。私が話してあげますから」


俺はこれから、リティアさんにアナザーオブアースのいろはを叩き込まれる事になる。


説明しているリティアさんの様子はなんだかとても嬉しそうだった。


それに、リティアさんの声は高くて透き通っていて、聞いていてすごく落ち着く。


またうとうとしそうになったが、耐えた。


それにルックスも申し分ない。


歳はそれなりにあるはずだけれども、まだ幼さが残る顔立ち。


笑顔がいいな。


まぁ、俺の個人的な意見だけどな。


「この世界…名目上はリティア=リーフ研究所ですけど…」


あれ?


この世界はアナザーオブアースではないのですか?


「アナザーオブアースというのはこちらの世界の総称です」


総称…って事は?


「この研究所を初め、アナザーオブアースには『世界の断片』と呼ばれる数々の独立した世界がある、という事ですね」


へぇ…なるほど。


他の世界の断片には自由に行けるのですか?


「行けると言えば行けますが、行けないと言えば嘘になりますね」


…?


どういう事ですか?


「あなたは今、普通の人間でしょう?」


…まぁ、そうですね…。


「世界の断片間の移動は、術士以外は創造士の許可が無いとできません」


術士と創造士?


「ああ、術士というのは破導士と魄術士の事です」


破導士と魄術士と言うのは?


「魄を用いた戦闘術を使用する人達の事です」


魄?


リティアさんは俺の言葉を聞いたや否や、額に手を当て、大きな溜め息を吐いた。


「本当に何も聞いてないのね…」


…すいませんね、無知で…。


「玲や綾瀬ちゃんから何も聞いていない…ですよね?」


はい。


「……」


リティアさんは何か呟いていたが、俺の耳には届かなかった。


俺は寺に生まれた身だけれども、そういう裏の事には疎い。


こっちの世界の事も、昨日知ったばかりだ。


つーか…寺の事と関係あるのか…?


その後、リティアさんは無知な俺に魄の事を詳しく、解りやすく教えて下さった。


話が思ったより長く掛かったので、要約した事をお教えしよう。


間違っているかもしれないが、そこは大目に見てくれ。



「魄」というのは、生命を持つ物全てに有する目に見えない力だそうだ。


「気」と同じような物だと思ってもらえればよろしいだろうか。


という事で、俺にも魄があるらしい。


魄を使うには、魄術士か破導士になる必要がある。


この二つは纏めて「術士」と呼ばれている。


魄術士か破導士になる為にはプレートかリングを起動させればいいそうだ。


破導士はリング、魄術士はプレート。


起動させるには、プレートかリングを手にとって、「創造」の言霊を唱え、起動した方の士になる。


個人個人で起動する方が違うそうだ。


ああ、言霊というのは呪文のようなもの。


一つ紹介させてもらおうか。


「創造」の言霊を。


形無き力よ 我を媒介に、今一度その姿を創造せしめん」


だったかな。


これはリティアさんから教えてもらった訳ではない。


何?


何故俺がそんな事を知っているかだって?


答えは簡単。


この言霊は、俺ん家の宗教の経の一部だからだ。


日々の座禅を無視している俺でも、自分の家の経の一つくらいは熟知している。


…筈だ。


まだ小さい時に母さんに叩き込まれたからな…。


好きで覚えた訳ではないのだが。


小さい時に教えられた事は、成長した今でも案外覚えている物さ。


理屈は解らん。


それが人間なんだろうさ。


で、術士になった人は世界の断片間を自由に移動できるらしい。


魄についてはこんな所かな。



「そういえば、創造士は?」


「創造士は、世界の断片を管理している術士の事です。この世界では、私」


なるほどなるほど…。


「大体の事は分かってもらえたかしら…?」


はい。なんとなくですが…。


リティアさんは安堵の息を吐いた。



すると、リティアさんのコンピューターにデータが送られてきたようだ。


巨大なディスプレイには「completed」の文字が表示され、けたたましい電子音が部屋中鳴り響いている。


「あ、データが来たみたい。捌くから、少し待っていてもらえるかな?」


はい。分かりました。


リティアさんは微笑んで、キーボードの前に座った。


そして恐ろしいほどのスピードでブラインドタッチを開始した。


俺はディスプレイを見上げる。


文字列が並んでいるだけで、俺には何の事かさっぱり理解出来ない。


「これは何のデータなんですか?」


「研究結果と、他の研究所から来るデータです」


研究結果と言うと…あの下でやっていたやつですか?


「そうですよ」とリティアさん。


「下ではプレートに宿る術士の思念の解析を主にやってもらっています」


…思念の解析をして何になるんですか?


「そうですね…歴史の研究とか、世界の断片間のリンクとか」


リンク…ですか?


「ええ。世界の断片は全てが繋がっている訳ではないですから。

 そのプレートに宿った思念の解析結果から世界の断片の座標を捕捉して、この研究所      

 とリンクを繋ぐ訳です」


なるほど。


「そういえば漸君、炎狼牙に何て言われて此処に来たのですか?」


え?


ご存知じゃないのですか?


「いや…私は連れて来てとは頼んだの。でもこの世界の存在を知らない漸君をどう説得   したのかな、って」


ぶっちゃけ、説得はされてないですね。


決意を固めたのは俺の夢の話です。


「それはどんな夢ですか?」


テトラに無力を嘲笑われました。


「テトラ…?」


ずっと動いていたリティアさんの手が止まった。


俺の方に向けられたリティアさんの顔は、深刻そうな顔だった。


「テトラが夢に出てきたのですか?」


はい。もう何回も。


「……」


リティアさんは顎に手を当て、何かを考え始めた。


急に止まったリティアさんからの情報に、他の世界の断片にいる研究者さん達もさぞか驚いていることだろう。


それは、俺も同じだ。


こんな反応されるとは思わなかった。


知っているんじゃなかったのですか…?



さて…。


いよいよ話がシリアスになってきた。


こういう空気はあまり好きではない。


俺は思案しているリティアさんに何か声を掛けようとしたが、生憎言葉が思い付かない。


俺はリティアさんの前で立ち尽くす事しか出来なかった。

なんか…不思議な気分だ。


モニターが光り輝いた瞬間に、俺は分解されてパソコンのモニターに吸い込まれた。


つまり、俺は今分解されて粒子のままな訳だ。


粒子になっているのに、意識がある事が不思議だ…。


炎狼牙の声が聞こえてくる。


「主よ、元の姿に戻らないのか?」


どうやって?


「自分の姿をイメージしてみてくれ」


俺は言われたとおり、自分の恰好をイメージしてみた。


すると、粒子が集まり、ここに転送される前の俺の姿に再構築された。


流石はデータの世界。


地球じゃできない事が出来る。


つーか…地球上じゃ粒子になんかなれないしな…。


俺は気にしていなかった周辺の景色を改めて観察してみた。


多数の文字列が右往左往している。


俺が想像する「ケーブル」の中みたいだな…。


青白い光に包まれた空間を、データがあちこちに行き交っている。


今は俺もデータの一部なんだっけ。


データになっている俺だけど、特に身体に違和感は無い。


地球にいる時と殆ど変わらない感覚だな。


…空飛んでるけど。


「狼牙、俺たちは何処に向かっているんだ?」


「契約者の所だ」


契約者? ああ、そういえば…。


契約して地球に意識を飛ばしていたんだっけ。


不思議だよなぁ。


俺の知らない所でこんなにも電子機器が発達しているなんてな。


何? そういう問題じゃないって?


まぁ、そうかもな。


ここは地球とは違う世界。


地球にあるけど地球とは違う世界なんだよな。


今の俺にはそれくらいしか解らん。


炎狼牙は、他より光の強い場所を見ていた。


俺もそっちの方向を見た。


「契約者はどんな人なんだ?」


「研究者だ。プレートと世界の断片の研究をしている」


へぇ…。


「プレート」と「世界の断片」らへんがよく解らなかったが、一応頷いておいた。


俺と炎狼牙が話しているうちに、どうやらその場所に辿り着いたようだ。


炎狼牙が言う。


「従者、炎狼牙。研究所に接続指令を発令」


お堅いねぇ…。


「これは掟だから仕方ない事だ」


掟か…俺は言いたくねぇな。


「主よ、足をつけてくれ」


足?


炎狼牙は既に地面に足をつけている。


要するに、普通に立っているって事さ。


俺も床に足をつけた。


…床無いけど。


でも地面の感触はある。


「接続開始」


今までいたケーブルの中から、段々と景色が変わっていく。



あっという間に世界が変わってしまった…。


「接続完了」


そこは、研究所みたいな所だった。


ビーカーやらフラスコやら試験管やらが見渡す限りに置いてあって、フラスコの中の液体がコポコポと音を立てている。


俺は、さっきまでいたはずの炎狼牙が居ない事に気づいた。


「あれ? 炎狼牙?」


頭に直接、重く響く声が聞こえる。


「我は今の主の力では狼の姿を保っていられない。まずはリティアに会って話を聞いてくれ」


…了解。


一瞬寂しいような気がしたが、頭の中に居てくれるならいいや。


まぁ、その後に炎狼牙の声はしなくなった訳だが。


俺は取り敢えず今居る部屋から出ることにした。


まずはリティアさんって人に会うんだっけ…?


俺が扉の前に立つと、ご丁寧に自動で開いてくれた。


流石はパソコンの中。


何でも最先端ってか?


俺の見解では、レトロな物は一つもなさそうだ。


あくまでも推測だけどね。



何処に行くか解らんな…。


とりあえずは歩いてみよう。


研究所の中を歩いていると、床以外全部が硝子張りになっている通路に出た。


上から下の様子が伺える。


…何やってんだありゃ…?


下では白衣を着た研究者が金属製らしき札と向き合って何かをしている。


理解不能だ。


何の為にやっているのかは解らないが、


理解不能だ。


俺は下の部屋の様子は気にしない方向で、先へと急いだ。



硝子張りの通路の突き当たりに部屋があった。


俺は自動扉が開くのを待ち、中に入った。


その部屋は大掛かりなコンピューターがある部屋だった。


見上げるほど大きなサーバーがある。


巨大なディスプレイには夥しい量の文字が行き交っている。


ディスプレイの下を見ると、そのデータを一人で捌いている人がいた。


「すげぇ」の一言しか出ない。


その人の周囲を囲むようにキーボードがあって、あろうことか手元を見ないでデータを捌いている。


もしかして…あの人がリティアさんか?


俺は話しかけてみることにした。


近くで見るとまたすげぇ。


っていうか女の人じゃん!


気になる事は多々あるが、取り敢えず話しかけてみるとするか。



「すいません…」


俺はかなり恐縮した感じで話し掛けてみた。


リティアさんらしき女性は顔だけを俺の方へ向けた。


手はキーボードを打ちっぱなしだ。


「……」


俺のことを四半秒見た。


そしてまたディスプレイの方に顔を向けた。


「もう少し待ってもらえるかな? 今手が放せないの」


まぁ見て分かりますが。


俺は壁にもたれ掛け、リティアさんの作業の終了を待つことにした。


それにしても…凄いな。


ブラインドタッチしているだけで十分凄いのに…あのスピード、そしてあの量。


俺は暫くの間、リティアさんの事を見ていた。


けれども、キーボードの「カタカタ」という音を聞いている所為か、なんだか眠くなってきた…。


うとうとしていた俺だったが、いつの間にかマジ寝に変わっていたようだ。


その時も夢を見ていたような気がする。


けど知らない間に寝ていたから、リティアさんに頬を軽く叩かれて起きるまで夢か現かは

よくわからなかった。



また、閃と龍だ。


それに…リティアさんもいた気がする。あと、テトラも。


知らない人もいたな。 あれは…誰だろう。



俺が完全に目を覚ますまで、少し時間が掛かったらしい。


リティアさんは俺が起きるまで、ずっと俺の頬を叩き続けていたそうだ。

…さて、こっちを更新するのをすっかり忘れているわけだが。

最近は本当に色々あって…。

どっちかというとmixiには書いてる方だけどな…。



あ、テストは大丈夫だったよ。

あと残ってるのは英語Ⅰだけ。

多分…なんとかなるさ。



もう三日前になるか。

高校の時のクラス会に行ってきた。

40人中18人が集まった。

…結構な数じゃね?


俺は生ビール一杯とカシスオレンジを二杯、カンパリオレンジを一杯いただいた。

やっぱりビールはおいしくない

でも楽しかったよ。いろんな話も聞けたし。


飲み会の後は二次会で朝までカラオケ

テンションあがりっぱなし。

まぁ最後は皆ぐったりしてたけど


でも楽しかった。またあれば是非行きたい



で、昨日だ。

ほっともっとで昨日までのり弁当のディスカウントをやっていたわけだが。

夜だけで400食くらいは売ったんじゃないかな。

半端ねぇ。マジで。


そういえば、ドラえもんセットは四日で終売いたしました。

おまけに不備があったらしい。

…多分クライアントには伝わってなさそうだからここに書いておく



小説はep.01が終わったね。

次からはep.02。

続きはまだまだあるからご安心を



こうして書いてみると書くことは結構あるんだな。

…何?

じゃあもっと頻繁に更新しろって?

…わかってるけど、なぁ。

ん?


…何だここ?


俺は何故だか真っ暗な空間にいる。


辺りを見回す。


周辺には何も無い。


ふと前の方(真っ暗だから前かどうかは解らない)を見た。


紫色の火が一瞬灯った。


次の瞬間、俺の目の前にテトラが現れた。


「うわ!?」


俺は内心半端なくビビった。


テトラだ! テトラが出た!


テトラはニヤリと笑った。


俺はテトラに背を向け、走り出した。


……?


あれ?


走っている感覚はあるけど、前に進んでない気がする。


真っ暗だからか?


突然耳元で声がした。


「お前も逃げるのか?」と。


俺は背筋が凍りついた。


このまま走っていても埒が明かないので俺はテトラの方に向き直った。


やはり進んでいない。テトラとの距離はさっきのままだった。


「真崎漸」


名乗っていないのに、テトラは俺の名を呼んだ。


「お前に覚悟はあるのか?」


覚悟?


何の覚悟だ?


死ぬ覚悟はないな。死ぬことは怖いから。


炎狼牙やテトラがいる世界に行く覚悟も無い。


面倒だし、怖いから。


俺はその言葉は口に出さなかった。


自分が惨めになりそうだから。


俺が無言でいると、テトラは呆れた表情をした。


「なんだ…奴の関係者だから強いものだと思い込んでいた私が馬鹿だった…殺す価値も無い」


そういうとテトラは紫色の炎に変化して、俺の前から消えた。


俺は安堵した。


そこで目が覚めた。


……いまいちパッとしない夢だ。けれどもしっかり網膜に焼き付いてる。


テトラが俺に幻滅してたな。


よかった。


……のか?


いくら俺が弱かろうが、テトラが俺に幻滅しようが、テトラを止められるのは俺しかいない。


夢の中でテトラは俺に言った。


「殺す価値も無い」って。


なんでか腹が立った。


俺が弱いのは解ってるさ。


チキンなのも解ってるさ。


けどあの言い方は無いだろうよ。


「殺す価値が無い」=「生きてても死んでても変わらない」と言う事だと俺は解釈した。


テトラがそう言って居なくなった時、確かに俺は安堵した。


けどいざ目覚めて考えてみると、やたら腹が立つ。


悔しい。


いくら夢の中の話とは言え、本当に腹が立つ。


俺はその時気づいた訳だ。


昨日まで行きたくねぇとか思っていたのに、今はテトラに復讐したいと思っている。


あれ…?


俺は向こうに行きたいのか?


……。


なーんだ…「覚悟」ってこんな簡単に決められるのかよ。


俺、何であんなに悩んでたんだ?


こんなに簡単だったのに。


俺はアホか。


…いいじゃん。


行ってやろうじゃん。


テトラだか何だか知らないけど止めてやらぁ。


俺を馬鹿にした事、後悔させてやろうじゃん!


そういう事だ。炎狼牙に伝えよう。


そう決めた俺は、着替えて一階に下りた。


居間のテーブルの上にいつもの如く朝飯が配膳されている。


俺は何も言わず黙々と目の前の飯を食った。


すぐに食べ終わり、「ごちそうさま」も言わずに倉へと向かった。


昨日、俺は扉を閉めずに戻ったので倉の扉は開きっぱなしだった。


俺は倉に入るなり、声を張り上げて言った。


「炎狼牙! 決めたぞ!」


すぐに反応が返ってきた。

「待ち侘びたぞ。では早速聞かせてもらおうか。汝の答えを」


「俺は向こうへ行く。そしてテトラを倒す」


「解っていると思うが、かなりの危険を伴う。それでも…」


「行く」


俺は炎狼牙が言い終わる前に答えた。


炎狼牙は少し間を空けて、言った。


「そうか。覚悟は出来たようだな


「ああ。これからよろしく頼むぜ」


「うむ」


俺と炎狼牙の意志が合致した。


「それでは案内致そう。少し下がっておれ」


炎狼牙の言う通り、俺は二、三歩下がった。


すると倉の床が徐々に開き、地下への階段が現れた。


おお…本格的だな。


「下りて参れ」


俺は目の前の階段を降りていった。


地下には、巨大なサーバーに繋がれたパソコンが一台置いてある質素な所だった。


炎狼牙の声が聞こえてくる。


「電源を入れてくれ」


言われるがままに、俺はパソコンの電源スイッチを押した。


パソコンが起動して、「Windows」のロゴが表示された。


これは普通のパソコンみたいだな。


起動画面が切り替わり、ユーザー名が表示されている画面になった。


アルファベットで書かれたユーザー名が羅列している。


そんな中、一つだけ孤立しているアイコンがあった。


俺はそれをクリックしてみる。


画面が切り替わり、一匹の狼が映し出された。


何だ…これ?


その狼は俺に向かって話しかけてきた。


「やっと会えたな。主よ」


少しビビったが、どうやらこの狼が炎狼牙の正体らしい。


狼だったのか…。


まぁ、炎「狼」牙っていうくらいだからな…当たり前か。


「主よ、これからこちらの世界へ転送する」


おうよ。望むところだ。


「一度ユーザー名の画面に戻す。主の名があるはずだ。それを選択してくれ」


了解。


画面はさっきのユーザー名の画面に戻った。


俺は自分のユーザー名を探すことにした。


画面をスクロールして、名前を探す。


俺の名前、俺の名前っと…。


Shinzaki」という文字を見つけた。


クリックしようとして、それは俺の名前ではない事に気づいた。


んん?


よく見ると「Shinzaki」で始まるユーザー名が二つある。


まず、上。


Shinzaki Rei


そして、下。


Shinzaki Sae


…母さんと冴…?


なんで二人の名前があるんだ?


あれ、冴の下にも知ってる名前がある。


Hasumura Ayase


綾瀬…?


やっぱりな。


綾瀬は向こうの世界の事を知ってたんだ。


俺はまた色々考える事が増えた気がする。


「どうかしたのか、主よ」


炎狼牙の声が聞こえた。


「いや…なんでもない」


けれど今は考えている場合ではない。


スクロールするのが面倒になったので一気に下までドラッグした。


案の定、俺の名前は一番下にあった。


俺は「Shinzaki Zen」のユーザー名をクリックした。


デスクトップの画面に切り替わった。


アイコンが二つある。


一つは「Data」という名前のフォルダ。


もう一つは「to Another of Earth」と名の付いたアイコン。


「主よ、アナザーオブアースのアイコンをクリックしてくれ」


了解。


俺はマウスポインタを「to Another of Earth」のアイコンに重ねた。


そして、力強くクリックを押した。


普段はありえないが、モニターが光り輝いた。


次の瞬間、俺は倉から消失した。



真崎漸こと俺、向こうの世界へ転送完了…


ってか。

いやはや。

テストやらなんやらが被って小説が更新できなかった。

まぁ、なんやらはテストのみなんだけどね。


自分に課せた事なのになぜ全う出来ないのだろう…。

これは俺の短所だな。


去年は留年したけど、今年はもう大丈夫。

「仮」進級は確定だけどね。

英語のせいで。

なぁ、なんで英語はⅦまであるんだ?

どうして理系の学校で英語に悩まされなくてはならないのだ?


謎だ。

謎にもほどがある。



俺のバイト先に有給があればいいのにな。

もう春休みだから毎日一日中寝てたい。

睡眠時間が足りないよ。マジで。

オーナー、早く人入れてよ。

出来れば続く人で。

俺は自分の部屋に入るなり、頭からベッドに突っ込んだ。


………………。


なんか何も考えたくないな…。


けどそんな事は言ってられないし…。


俺は頭の中で炎狼牙の話を自分なりにまとめてみることにした。


今俺がいる世界…まぁ、地球か。


この世界とは別に、炎狼牙が存在している違う世界がある。


その世界には光と闇があって、今現在闇が増えている。


そのせいで闇の根源であるテトラって奴が目覚める。


封印を施した二人も役に立たないって言ってたな…。


その二人っていうのはきっと閃と龍って人だろう。


何と無くそんな気がする。


で、テトラが目覚めたら、こっちの世界にも影響がくるらしい。


悪くて人類の滅亡。


…あくまでも、炎狼牙の予想だが。


テトラが目覚めたらお終いだ。


炎狼牙が言うには俺じゃないといけないらしいな。


…………。


要するに、俺しかテトラを止められないって事か…。


俺は一度思考を停止させた。


…。


……。


…………。


……………………。


…駄目だ。


えーと…あれだ。


…なんだっけ…?


うーん…葛藤?


なんか今そんな状態。


俺が向こうに行かなきゃ人類が滅亡する。


俺が行ったとしてもそんな強大な力を持つ奴を止める自信は悪いけど毛頭ない。


…ふと、あの夢を思い出した。


夥しい量の闇を纏うテトラ。


不敵な笑み。


…勝てるのか…俺は。


テトラの事は夢の話だけど、物凄く鮮明に網膜に焼き付いている。


あそこで目が覚めてよかった。


本当によかった。


向こうの世界に行ったらあの場面がリアルに俺に起こるかもしれない。


いや、かもしれないじゃないな。


絶対に起こるんだ。


俺は徐にベッドを殴る。


「畜生…なんで俺なんだよ!」


そう言っても、誰も答えてはくれない。


ベッドに拳を叩きつける音が空しく部屋中に響く。


…………。


俺がやらなきゃ誰がやる、ってか…?


いや、俺以外には出来ないのか…。


俺は暫くの間、ベッドを殴りながら同じ事を考え続けていた。


すると、窓が叩かれる音がした。


ん…?


俺はベッドから下りて窓の方へ向かった。


そこには人がいた。


ああ、別に怪しい奴ではないよ。


俺の家族だから。


俺は窓を開け放った。


そこには、綾瀬が立っていた。


少し心配そうな顔をしている。


綾瀬は、厳密にいうと血の繋がった家族ではない。


俺がまだ小さい時に、ここに来た。


その時に俺ん家に孤児として引き取られた。


歳は俺と同じ。


何で綾瀬が外にいるかというと、綾瀬は屋根の上が好きだからさ。


俺の部屋は知っての通り二階にある。


綾瀬の部屋は俺の部屋の隣。


下の部屋の屋根を隔てて上で繋がっている。


「今…何をしていた?」


綾瀬はベッドを叩きつける俺の姿を見て、不審に思ったようだ。


まあ、当然か…。


俺は「葛藤していた」と答えた。


「葛藤?」


綾瀬は俺を可哀相な物を見るような目で見た。


「…何かあったのか?」


色々とな。


「私でよければ聞こうか?」


聞いてくれるのか?


じゃあ…言わせてもらおうかな。


綾瀬が屋根の奥の方へ歩いて行ったので、俺も屋根に下りて綾瀬の方に歩いて行った。


屋根の上からは周りの景色が一望できる。


この寺、いい所に建っているからな。


いい所…と言っても山の上だけどね。


綾瀬が座っていたので俺も隣に座った。


体育座りで。


「それで? 何があったんだ?」


「えーっと…」

俺は倉であった事を綾瀬に洗いざらい話した。


炎狼牙の事。


この世界とは違う世界が存在している事。


俺が今、何故だか決断を迫られている、ということ。


「……」


綾瀬は終始無言だった。しかし、興味深そうに俺の話を聞いている。


話が終わった今でも、無言のままだ。


思い切って俺は綾瀬に聞いてみた。


「俺はどうしたらいいんだ?」


綾瀬の返答は簡単なものだった。


「私には解らない」と。


……。


何だよ…


それじゃあ話した意味がないではないか。


「これは私が決める事ではない。漸、お前が決めることだ」


そんな事はわかってる。


だけど…どうしたらいいんだ?


突如現れた見知らぬ人に、「世界を救ってくれ」と依頼された。


しかしそれは容易な事ではない。


かなりの危険を伴う。


しかも行かなくては人類が滅亡する可能性がある。


じゃあ、行くしかねぇじゃないかよ。


「漸の気持ちはよく解っているつもりだ。でも、私がどうこう出来る問題ではない」


…綾瀬の言葉がとても冷たく感じた。


「…だけど、できる限りの手助けはしようと思う」


…ん?


手助け?


俺の問題を手助けする?


……どういう事だよ?


「何、今に解るさ」


………?


綾瀬の言っている事がよく解らない。


「漸、明日炎狼牙に気持ちを伝えるんだろう?」


「ああ」


「なら今日は早めに寝ておいたらどうだ?」


「…ああ。そうさせてもらうよ」


俺はそういうと、窓から俺の部屋に戻った。


綾瀬は何か考えているらしい。


何かはわからないけどさ。


俺はまた頭からベッドに突っ込んだ。


…………。


何か、引っかかる。


俺は、綾瀬があっちの世界について何か知っているような気がした。


思い過ごしかも知れないけど。


…明日、か…。


俺は面倒事が嫌いだ。


今回の件は今迄で一番面倒な部類に入る。


ふと、炎狼牙の言葉を思い出した。


『世界を救ってくれ』


…なんのこっちゃ。


明日は、俺の人生の分岐点だな。


炎狼牙の頼みを断って、普通の高校生活に戻るか。


いや、戻れないか。


テトラが目覚めて、人類滅亡の時を待つか。


それとも、


頼みを引き受けて危険が沢山ありそうな世界に踏み込むのか。


……どっちに転んでも、最悪だな。


俺の平穏な暮らしはどこかに行ってしまった。


まだもやもやした気持ちは残るけど、明日、全てを決断しなくてはならない。


俺次第、か…。


重いな…。


こんなこと考えるのは初めてだ。


誰かのためにこんなデカい決断をするのは。


悩んでも仕方ない、か…。


その時は嫌でもくる訳だ。


もういいや。今日は寝よう。


俺の人生の運命の分かれ道が、もうすぐそこまで近づいてきていた。

俺は今、埃まみれの倉の掃除をしている。モップを手に持って。


さて、もうそろそろいいかな。


埃まみれだった倉の床は、俺のおかげで見違える程綺麗になった。


扉から差し込む光のせいか、やたら床が輝いて見える。


俺はモップを元の位置に戻した。


お次は…棚か。


倉には無数の棚があり、モップで拭けるのは床だけだ。


水が入ったバケツの傍に、俺が持って来た天日でカラカラに乾ききった雑巾が置いてある。


雑巾に水を染み込ませて、俺は棚を拭き始めた。


俺は拭き掃除をしながら、棚に置いてある物を見た。


壺、巻物、何かの棒切れ、書物…。


うーん、流石は真光宗の総本山、得体の知れないものが沢山あるな。


壺の下とかも拭いておきたい所だが、なんかヘマして母さんに怒られるのは嫌だから、そこら辺は母さんや冴に任せておこう。


うん、一通り終わったかな。


掃除を終わらせた俺は雑巾をバケツの中に突っ込み、一応雑巾を潤かしておく。


俺はバケツを持って扉の方へ向かった。


さて、この後はどうしようかなー。


どっか遊びに行こうかなー。


そんな事を思っていた。


…その時だった。


「時は満ちた…」


「…へ?」


俺は驚きと同時に間抜けな声を上げた。


その拍子にバケツを落っことしそうになったが、なんとか持ちこたえた。


…今、声がした。


…よな?


「時は満ちた…」


…って。


俺以外誰もいない筈の倉。


なのに今…男の声がした。


俺は疑問を抱きつつも、その声に話し掛けた。


「…誰?」


その声は答える。


「我が名は炎狼牙。真崎家に仕える守護者である」


…なんだって?

誇らしげに言うその声が酷く馬鹿馬鹿しく思えた。


いきなり現れて、唐突に変なことを言い出す声の主。


ああ、これって真光宗の事と何か関係あるのかな?


俺、宗教のことは何も解らないからこれは母さんに任せたほうがいいな。


「えっと…炎狼牙…だっけ? 俺は宗教的な事はよく解らないから、母さん呼んでくる」


俺はそう言って倉から出ようとした。


しかし、


「無駄だ」


と炎狼牙は言う。


俺は足を止めた。


なんでだよ。何が無駄なんだよ?


「我の声、そして姿は汝しか認識出来ない」


……?


俺だけ?


「そうだ。」


なんで?


「そういった契約だからだ」


契約?


「ああ」


頭がこんがらがって来たぞ…?


炎狼牙という名の主は言う。


「汝を迎えに来た」


俺を?


迎えに?


…は? 何が?


「世界の危機だ。直ちに着いて来てもらおうか」


「待て待て待て待て!」


俺の頭が理解出来ない間にどんどん話が進んで行く。


「ちゃんと一から説明してくれ! 話が全く見えて来ない!」


突然現れ、訳の解らない話を俺の許可無しにどんどん話を進めて行く炎狼牙。


炎狼牙は低い声で唸った。


「むぅ…話が唐突過ぎたか」


当たり前だろ!


「仕方ない。それでは順を追って話そう」


ああ。そうしてくれ。


…つーかあんまり聞きたくないんだけどさ…。


そんな俺の気持ちとは裏腹に炎狼牙は話を始める。


「我は先程言った通り、真崎一族に仕える守護者だ」


ああ。それで?


「それと同時に、我はこの世界には存在しない者でもある」


うん。 …何?


存在しない…?


じゃあ今喋ってるあんたは何?


「我の本体は異なる世界に在る。今の我は意思のみだ」


ふーん…それで?


「此度は汝をこちらの世界に招くように命じられ、参上仕った」


何かそっちで起こってる訳?


「察しの通り。」


炎狼牙は間髪入れずに言葉を繋げる。


「こちらの世界では闇を伴う術士が増え、光と闇の均衡が保てなくなっている」


…。


「もし闇が光を飲み込んでしまったら、奴が目覚める。封印を施した二人も役に立たん。」


……。


「その者の名は、テトラ=ルクシエール。こちらの世界の闇の『根源』だ」


テトラ…。 夢に出てきた奴だ。


あの、夥しい量の闇を纏った…恐ろしい奴。


「もし奴が目覚めてしまったら、この世界にも影響が出る」


なんで? そっちの世界の話だろ?


「我々の世界と此の世界は密接に繋がっている。今は何とかなってはいるが、テトラが目覚めたら終わりだ」


…どうなるんだ?


「人類が滅亡するだろう。あくまでも予想だがな」


………。


「概要はこんな所だ。理解したか?」


「…あ、ああ…なんとか…な」


…正直、納得できない。


今まで何とも無かったのに、テトラって奴が目覚めてしまったら、人類が滅亡する…?


信じられるかよ。


俺はふと気になっていた事を口にした。


「そっちの世界が大変な事になっているのはわかった。けど…何でそれを俺に話すんだよ? 俺以外の奴でもいいんじゃないのか?」


炎狼牙は少し間を空けて答えた。


「…汝でいいのではない。汝でなくてはならないのだ」


俺じゃなきゃいけない…?


なんでまた…俺?


「テトラを止められるのは汝だけだ」


どうしてだよ?


「…理由はあるのだが…今の汝には話す事が出来ない」


……。


俺はその後、暫く話す事が出来なかった。


わかるか…? この気持ち。


「炎狼牙、少し時間をくれないか?」


「…いいだろう。一日の猶予を与える。良い返事を期待しているぞ」


その後、すぐに「プツン」という音が聞こえた気がした。


それからは炎狼牙の声はしなくなった。


俺は倉を出た。


居間を通って、自分の部屋に向かった。


母さんや冴に声をかけられたけど、何を言っていたかは覚えていない。


…俺はそれぐらい思案していた訳だ。