リティアさんは固く閉じていたその口を開いた。
「テトラはこの世界の闇の根源…という事は知っていますか?」
はい。炎狼牙から聞きました。
「それでは、何故そうなったのかは?」
俺は思い当たる節が無かったので、「解りません」と答えておいた。
てっきり最初からそうだったのかと思ってた…。
「じゃあ教えてあげます。漸君をこっちに呼んだ意図もありますから。
昔話になりますが、いいですか?」
はい。お願いします。
リティアさんは、何故テトラが闇の根源になったのかを教えて下さった。
この話も結構長く掛かったので、要約しておこう。
…何?
会話シーンが面倒だから要約するんじゃないかって…?
違うな。俺の疑問も混じっているから解り辛いと思うと見た。
だから要約しておこう。
決して文字数の削減ではない。
夢に出てきた閃と龍とテトラは、仲間だったらしい。
リティアさんと、達也という夢に出てきたあの知らない人も。
閃はアナザーオブアース史上最も強い力を持っていたらしいし、龍は紅い瞳を持ち、魄術は使えなかったけど、力だけでは閃に引けを取らなかったそうだ。
リティアさんは魄術に長け、前衛の援護を主にしていたらしい。
達也という人は、リティアさんが今なっている「創造士」を束ねる力を持っている。
そして今でも世界の断片中を飛び回っているそうだ。
そして…テトラ。
闇に染まってしまう前は、龍より多少強い力を持っていたらしい。
閃を初めとする、龍、達也、リティアさん、テトラの五人は、アナザーオブアースの世界の断片を渡り歩いていた。
そして、「闇の世界」…確か、「ダークネスグランド」って名前だったか。
ダークネスグランドは空気自体に闇が含有され、世界の断片全体が濃い闇に覆われているらしい。
その世界の断片に行く時は、万全の対策を練ってから立ち入るのが常識だけれど、テトラはそれをしなかったそうだ。
強い意志を持つ術士は闇に蝕まれにくい…と言われているそうだ。
テトラの意志の強さは閃達も解っていた。
仲間だからな。信頼があったのだろう。
しかし、テトラは闇に蝕まれてしまった。
先程言ったように、強い意志を持っている術士は闇に蝕まれにくい。
だがそれを逆に言うと、蝕まれた時は絶大的な力が生じる…と言う事だ。
身体も心も闇に蝕まれてしまったテトラは、その瞬間に自我を失い暴走を始めた。
テトラを止めるより、テトラに追い付く方が大変だったそうだ。
そして閃と龍はテトラに追い付いた。
リティアさんと達也は世界の断片中にテトラが、
「闇の力を伴い暴走している」
と言う事を伝える為に奔走していた。
なのでリティアさんと達也は閃・龍とテトラが何処で衝突したのかは分からないそうだ。
調査は続けているものの、確信には至っていない。
死闘の末、閃と龍は自らの身を呈してテトラを封印した。
……らしい。
封印が完了した時、閃と龍とテトラの魄の波動が途絶えたらしい。
今、閃と龍はテトラの傍で半永久の眠りについているそうだ。
封印が行われた世界の断片は特定できていない。
理由は先程言った通りだ。
今現在、テトラは闇の住人達に「神」として崇められている。
ああ、闇の住人というのは、闇に心を蝕まれた人達の事だ。
自我がある奴と自我の無い奴がいるらしい。
心を蝕む闇の量は意志の強さに比例する。
意志の弱い奴は軽く意志は残る。
しかし、意志の強い奴は自我を失い、戦闘マシーンと化す。
その良い例がテトラだ。
テトラを崇める闇の住人は、微かに残るテトラの魄を頼りにテトラの居場所を探し回っている。
闇の住人の数も日々増えているそうだ。
そこで全てを終わらせるべく、この俺、真崎漸がアナザーオブアースに呼ばれた訳だ。
テトラは闇の力を手に入れた時に、「輪廻の呪縛」という呪いが掛かったらしい。
元々アナザーオブアースでは、法律が効いている限り、生命が尽きる事は無いそうだ。
法律の効いている時に生命維持機能が停止した場合は、粒子に分解され、アナザーオブアースに初めて来た時に降り立った世界の断片に戻されるらしい。
俺だったら、この研究所だな。
しかし裏を返せば、法律が効いていない時に生命維持機能が停止したとすると…。
本当の意味で「死」を迎える事になる。
これは普通の術士の場合だ。
しかし、テトラはこの現象を無効化するそうだ。
要は、殺しても殺しても復活するって事だ。
今までは打つ手が無かった。
今まで…はな。
そこで俺の出番らしい。
俺には輪廻の呪縛を無効化する力があるらしい。
もちろん自分では気づかなかったし、リティアさんも気づいたのは最近になってからだそうだ。
理解頂けただろうか。
今更だが、あまり要約出来なかった…。
申し訳ない。
リティアさんから色々と聞かされた俺は発する言葉が見つからず、ただただ黙っている事しか出来なかった。
テトラを本当の意味で倒せるのは、俺だけ。
プレッシャーだなぁ…。
「そういえば…閃という人はどんな人なんですか?」
リティアさんはまた驚いた表情を見せた。
「どんな人…って、あなた、閃に会った事あるでしょう?」
…?
夢の中でなら。
話したことはないけど…。
「閃はあなたの父親でしょう?」
…………え?
「そうなんですか!?」
「ええ…閃はよく漸君の話をしていましたよ」
閃が、俺の親父…。
姿も声も記憶に無い、自分の父親が今、こっちの世界にいる。
今まで行方不明だった父親が、テトラの傍で眠っている…。
ん…?
待てよ?
俺の家の人間はこちらの世界の事を理解している。
と言う事は親父がここにいる事も知っている筈だ。
どうして俺には教えてくれないんだ…?
「教えたとしても、その時の漸君は理解出来ないでしょう?」
そっか…。
俺はその時、初めて家族からの疎外感を感じた。
術士と普通の人間の間にある、壁。
それを実感した。
俺とリティアさんが話していると、部屋の自動扉が開いた。
そこには、ある二人が立っていた。