俺は自分の部屋に入るなり、頭からベッドに突っ込んだ。


………………。


なんか何も考えたくないな…。


けどそんな事は言ってられないし…。


俺は頭の中で炎狼牙の話を自分なりにまとめてみることにした。


今俺がいる世界…まぁ、地球か。


この世界とは別に、炎狼牙が存在している違う世界がある。


その世界には光と闇があって、今現在闇が増えている。


そのせいで闇の根源であるテトラって奴が目覚める。


封印を施した二人も役に立たないって言ってたな…。


その二人っていうのはきっと閃と龍って人だろう。


何と無くそんな気がする。


で、テトラが目覚めたら、こっちの世界にも影響がくるらしい。


悪くて人類の滅亡。


…あくまでも、炎狼牙の予想だが。


テトラが目覚めたらお終いだ。


炎狼牙が言うには俺じゃないといけないらしいな。


…………。


要するに、俺しかテトラを止められないって事か…。


俺は一度思考を停止させた。


…。


……。


…………。


……………………。


…駄目だ。


えーと…あれだ。


…なんだっけ…?


うーん…葛藤?


なんか今そんな状態。


俺が向こうに行かなきゃ人類が滅亡する。


俺が行ったとしてもそんな強大な力を持つ奴を止める自信は悪いけど毛頭ない。


…ふと、あの夢を思い出した。


夥しい量の闇を纏うテトラ。


不敵な笑み。


…勝てるのか…俺は。


テトラの事は夢の話だけど、物凄く鮮明に網膜に焼き付いている。


あそこで目が覚めてよかった。


本当によかった。


向こうの世界に行ったらあの場面がリアルに俺に起こるかもしれない。


いや、かもしれないじゃないな。


絶対に起こるんだ。


俺は徐にベッドを殴る。


「畜生…なんで俺なんだよ!」


そう言っても、誰も答えてはくれない。


ベッドに拳を叩きつける音が空しく部屋中に響く。


…………。


俺がやらなきゃ誰がやる、ってか…?


いや、俺以外には出来ないのか…。


俺は暫くの間、ベッドを殴りながら同じ事を考え続けていた。


すると、窓が叩かれる音がした。


ん…?


俺はベッドから下りて窓の方へ向かった。


そこには人がいた。


ああ、別に怪しい奴ではないよ。


俺の家族だから。


俺は窓を開け放った。


そこには、綾瀬が立っていた。


少し心配そうな顔をしている。


綾瀬は、厳密にいうと血の繋がった家族ではない。


俺がまだ小さい時に、ここに来た。


その時に俺ん家に孤児として引き取られた。


歳は俺と同じ。


何で綾瀬が外にいるかというと、綾瀬は屋根の上が好きだからさ。


俺の部屋は知っての通り二階にある。


綾瀬の部屋は俺の部屋の隣。


下の部屋の屋根を隔てて上で繋がっている。


「今…何をしていた?」


綾瀬はベッドを叩きつける俺の姿を見て、不審に思ったようだ。


まあ、当然か…。


俺は「葛藤していた」と答えた。


「葛藤?」


綾瀬は俺を可哀相な物を見るような目で見た。


「…何かあったのか?」


色々とな。


「私でよければ聞こうか?」


聞いてくれるのか?


じゃあ…言わせてもらおうかな。


綾瀬が屋根の奥の方へ歩いて行ったので、俺も屋根に下りて綾瀬の方に歩いて行った。


屋根の上からは周りの景色が一望できる。


この寺、いい所に建っているからな。


いい所…と言っても山の上だけどね。


綾瀬が座っていたので俺も隣に座った。


体育座りで。


「それで? 何があったんだ?」


「えーっと…」

俺は倉であった事を綾瀬に洗いざらい話した。


炎狼牙の事。


この世界とは違う世界が存在している事。


俺が今、何故だか決断を迫られている、ということ。


「……」


綾瀬は終始無言だった。しかし、興味深そうに俺の話を聞いている。


話が終わった今でも、無言のままだ。


思い切って俺は綾瀬に聞いてみた。


「俺はどうしたらいいんだ?」


綾瀬の返答は簡単なものだった。


「私には解らない」と。


……。


何だよ…


それじゃあ話した意味がないではないか。


「これは私が決める事ではない。漸、お前が決めることだ」


そんな事はわかってる。


だけど…どうしたらいいんだ?


突如現れた見知らぬ人に、「世界を救ってくれ」と依頼された。


しかしそれは容易な事ではない。


かなりの危険を伴う。


しかも行かなくては人類が滅亡する可能性がある。


じゃあ、行くしかねぇじゃないかよ。


「漸の気持ちはよく解っているつもりだ。でも、私がどうこう出来る問題ではない」


…綾瀬の言葉がとても冷たく感じた。


「…だけど、できる限りの手助けはしようと思う」


…ん?


手助け?


俺の問題を手助けする?


……どういう事だよ?


「何、今に解るさ」


………?


綾瀬の言っている事がよく解らない。


「漸、明日炎狼牙に気持ちを伝えるんだろう?」


「ああ」


「なら今日は早めに寝ておいたらどうだ?」


「…ああ。そうさせてもらうよ」


俺はそういうと、窓から俺の部屋に戻った。


綾瀬は何か考えているらしい。


何かはわからないけどさ。


俺はまた頭からベッドに突っ込んだ。


…………。


何か、引っかかる。


俺は、綾瀬があっちの世界について何か知っているような気がした。


思い過ごしかも知れないけど。


…明日、か…。


俺は面倒事が嫌いだ。


今回の件は今迄で一番面倒な部類に入る。


ふと、炎狼牙の言葉を思い出した。


『世界を救ってくれ』


…なんのこっちゃ。


明日は、俺の人生の分岐点だな。


炎狼牙の頼みを断って、普通の高校生活に戻るか。


いや、戻れないか。


テトラが目覚めて、人類滅亡の時を待つか。


それとも、


頼みを引き受けて危険が沢山ありそうな世界に踏み込むのか。


……どっちに転んでも、最悪だな。


俺の平穏な暮らしはどこかに行ってしまった。


まだもやもやした気持ちは残るけど、明日、全てを決断しなくてはならない。


俺次第、か…。


重いな…。


こんなこと考えるのは初めてだ。


誰かのためにこんなデカい決断をするのは。


悩んでも仕方ない、か…。


その時は嫌でもくる訳だ。


もういいや。今日は寝よう。


俺の人生の運命の分かれ道が、もうすぐそこまで近づいてきていた。