【登場人物】

・会長(佐藤)…町内会長。段取り命。

・田中さん…回覧板を止めがち(悪気なし)。

・鈴木さん…事情通。噂の回収係。

・若林…若手。合理派だが雪には勝てない。

【場面】

大雪の翌週、町内会館。

「回覧板が戻ってこない」緊急会議が開かれている。

会長「えー、本日の議題ですが……回覧板が行方不明です」

若林「紛失ですか? それは困りますね」

鈴木さん「会長、それ“冬の風物詩”ですて」

会長「先週の日曜、確かに“回覧板スタート”しました。

 A班→B班→C班……のはずが、C班で止まってる」

会長「田中さん、C班ですよね?」

田中さん「えっ、うち……ですか?」

(全員の視線が集まる)

田中さん「あっ……玄関の下駄箱の上に……あるかも……」

会長「“あるかも”じゃないんです!」

田中さん「いや〜、雪がすごくて……

 回覧板を持って出ようと思ったんですよ? でも——」

若林「でも?」

田中さん「玄関開けたら、雪が“玄関まで侵入してきて”……

 回覧板が、びびって戻ってきまして」

会長「回覧板が意思を持つな!」

鈴木さん「田中さんち、回覧板“冬眠”してません?」

田中さん「冬眠……あ、そうか。

 うち、コタツの横に置いて……そのまま……」

会長「コタツ横は“ブラックホール”です!」

若林「じゃあ、デジタルにしません? LINEで——」

会長「それはこの町内会の“来年度の宿題”です」

鈴木さん「LINEも雪の日は返信止まる人いますけどね」

会長「……たしかに」

(田中さん、思い出したように)

田中さん「そういえば、回覧板に雪が付いちゃって……

 乾かそうと思ってストーブの前に立てたんですよ」

会長「やめて!! それ燃えるやつ!!」

田中さん「だから今、新聞紙に挟んで平らにして……」

若林「回覧板、雪だけじゃなくて“リフォーム”されてる……」

【ラスト】

翌日。

会長のもとに、ビニール袋に入った回覧板が届けられる。

田中さん「すみません! 直りました!」

会長「……直ってないけど、戻ってきたから良しとします」

その回覧板の一番上には、メモが貼ってある。

「※大雪のため、回覧板の進行が遅れます」

会長「書いたの誰ですか」

鈴木さん「……回覧板本人じゃないですかね」

(新潟の冬、回覧板は今日もどこかで静かに冬眠している)


いかがでしたか?笑っていただけましたか?


回覧板が「雪で遅れます」じゃなくて、雪で冬眠します――

ここが新潟の強さ(?)

玄関を開けたら雪が侵入、持ち出す気力が吸われ、気づけば回覧板は“こたつ横ブラックホール”に吸い込まれて春まで行方不明。

悪気はないのに、雪と生活の力関係だけはハッキリしていて、結局いちばん強いのは人間でも会長でもなく、冬そのものなんですよね。


そして最後に、回覧板本人(みたいな顔して)「大雪のため遅れます」と書き残してくるあたり、もはや町内会の一員。

新潟の冬は、紙まで人格を持ちはじめる?