「冗談ではないわ」

 

魔王パルフェはいつものように不機嫌な顔で言った

 

彼女が不機嫌なのは日常で魔物たちももう慣れている

 

それでも魔物たちが彼女について行くのは

 

彼女の優しさを知っているからだ

 

魔王パルフェは毒舌、嫌味で魔物たちを時には傷つけることはあるけれど

 

魔物たちが困った時には献身的に助けている

 

口でいう程彼女は魔物たちを嫌っているわけではない

 

「魔王なんてなりたくてなったわけではないわ、できれば返上したいところよ、あなたたちは問題ばかり起こして、その尻拭いをするのも飽き飽きしてきたわ」

 

問題が起こるたびに不機嫌に言うけれど

 

傷だらけの魔物を見れば懸命に治療を施す

 

命に関わる時には何日も寝ずにその魔物に寄り添っている

 

魔物が亡くなった時には、涙を流しながら

 

「私を困らせる魔物が減ってせいせいするわ」

 

なんて毒を吐く

 

だが、彼女の背中は悲しみに暮れているのが魔物たちには痛い程感じられる

 

そんな姿を見れば、魔物たちも彼女から離れるなんて考えられなくなる

 

魔王パルフェを支えたい、力になりたい、いつの間にか魔物たちはそう思いながら

 

彼女に寄り添って生きるようになる

 

魔王たちの個性がそれぞれ違うように

 

それに呼応して魔物たちの性質も変化しているようだ

 

彼女の魔物たちは、彼女を支え守ろうとする気持ちが強くなっている

 

そんな魔物たちに囲まれていても

 

魔王パルフェが自分でもどうしようもないほど素直になれないのは

 

幼少の頃よりコンプレックスを抱き続けてきたからだ

 

それを跳ね除けるために努力に努力を重ねて実力を構築してきた

 

魔王種として生まれてしまった以上

 

他の魔王種たちを殺して生き残り魔王に成るという宿命を背負うことになる

 

一体何体の魔王が生き残り魔王と認められるのだろうか

 

魔王種を魔王として認るのは実は魔物たちである

 

魔物たちが魔王だと認め命懸けでその魔王種に従う

 

それが一定数を超えれば魔王と認められる

 

魔王種のパルフェは決して社交的ではない、頭は良いが不器用な質で

 

魔物からも誤解を生み彼女に従う魔物は殆どいない

 

魔物が従わない魔王種は淘汰されてしまう

 

手っ取り早く魔物を慕わせる方法は他にもある魔力の強さや剣技の強さを示すことだ

 

その為しばしば魔王種たちは決闘をしては自分の強さを誇示する

 

魔物たちは強い魔王を求めているのは間違いない

 

魔物たちは自分が慕っている魔王を誇りたい性質が強い

 

つまり誇れる魔王種を自然と選ぶようになる

 

強大な力を持っていても慕われない魔王種もいる

 

それは魔物を愛さない魔王種だ

 

魔王を愛する生物を魔物と称するように

 

魔王もまた魔物を愛する深い愛情がなければ魔物は従わない

 

必然的に魔物たちは魔王種の愛情に対する受容体が発達している

 

これにより口下手で上手く愛情を表現できない魔王種でも

 

深い愛情を持っている魔王種ならそれを感じて魔物たちは集まって行く

 

愛あるところに全てが集まる法則は魔物の世界でも働いているようだ

 

魔物が魔王種を愛するように、魔王種もまた魔物たちを愛する性質が組み込まれている

 

だが時としてその性質が欠落した魔王種も生まれる

 

また魔王種も一つの種族ではなく、いくつもの種族が生まれたが自然淘汰されている

 

強大な魔力に身体が維持できなかった魔王種は殆ど消えた

 

結局人間の姿にそっくりな今の魔王種と

 

時間を止めることで生き残った亜魔王種だけが生き残る

 

亜魔王種は子供の姿のままであり魔王種に匹敵する魔力を持ちながらもその力を使えない

 

結局魔王種から脱落した種族となってしまった

 

そのため魔物扱いされることになる

 

更に多くの魔王種たちは戦うことで魔物を獲得して行く中数を減らし続けた

 

過酷な魔王種の宿命を前に魔王パルフェも多くの魔王種と戦い生き残ってきたが

 

戦うたびに自分の能力の限界を思い知らされる

 

「私には才能がない」

 

そう思わざるを得ない、それほどまでに他の魔王種たちは強く

 

いつもギリギリのところで辛うじて勝利を手にしてきたのだ

 

このままではいつか殺されるそう感じた魔王パルフェは剣技を鍛え抜く

 

自分より強い魔力を持った魔王種はごろごろしている

 

魔王種にとって魔力はいわば才能であり、魔王となる適性を問われる

 

ところが魔王パルフェは決して弱くはないが、ずば抜けてはいない

 

魔力がそれほど強くないのに、戦えば勝ち続ける

 

そんな魔王パルフェを不思議に思い多くの魔王種が彼女に戦いを挑み続けた

 

魔王パルフェは必死で戦い辛うじて勝ち続ける

 

魔力が足りないところは剣技で補い、剣技でも勝てないと悟れば知恵を巡らせ

 

知略で戦略を練って作戦勝ちをする

 

魔力も剣技もずば抜けたところを見つけられない魔王パルフェが何故勝ち続けるのか

 

いつの間にか彼女は他の魔王種たちに一目置かれる存在になって行く

 

当然魔物たちも彼女に注目することになる

 

.ところが、魔王パルフェに集まる魔物は一体も現れなかった

 

魔物たちからすれば彼女に魅力を感じないのだろうか

 

このままでは自分は淘汰されてしまう

 

彼女は今まで以上に努力を積み重ねた

 

勝てば勝つほど強い相手と戦うことになる

 

何故なら魔王種は毎日のように戦い勝ち続けた者だけが生き残っているからだ

 

結局魔王パルフェはギリギリ鎬(しのぎ)を削って生き残っている

 

そんな中で、劣等種と噂され魔王種から侮蔑されているミューヤという魔王種と出会う

 

彼女は何をやっても上手くできない

 

頭も悪く戦略を練ることも、剣技の腕前も最弱とさえ言われた

 

力も無ければ魔王となる要素は何一つないと思われる

 

ところが、戦えば必ず勝つ

 

何故彼女が勝ち続けて来たのか

 

それは計り知れない魔力を保有しているからである

 

つまり天才級の才能の持ち主ということになる

 

彼女は魔力に特化しているため他のところが欠落しているようだ

 

また彼女の発想も突飛な発言も愚かにしか見えない

 

だが馬鹿にした魔王種が戦いを挑み軽く倒してやるつもりが返り討ちにあう

 

しかも体がバラバラにされて跡形もなく消されるのだから凄まじい魔力である
 

他の魔王種の妬みも含まれているのだろうか

 

彼女への侮蔑は日増しにエスカレートして行き

 

陰湿な嫌がらせも日常で起きているのはパルフェにも見て取れる

 

さぞかし心が荒んでいるのだろうと思ったが

 

彼女は全然気にしている様子はない

 

「日頃どんなに偉そうなことを言っていても戦えばこの様でしょ、こんな奴らの言動など気にするに値しないわ」

 

あっけらかんらとした態度に驚かされた

 

もちろんどんなに才能があり天才と呼ばれる存在であっても

 

それを認められなければ存在しないのも同じであるとパルフェは考えている

 

彼女がどんなに勝ち続けても、魔物たちが彼女に集まらなければ淘汰されてしまう

 

当然魔物たちはミューヤに魅力を感じないため一体も魔物が集まらない

 

恐らく他の魔王種がミューヤの悪口を魔物たちに吹聴して広めているに違いない

 

陰湿極まりないやり口ではあるが

 

弱者と呼ばれる者たちが生き残るために必死でしていることだと思うと

 

むしろ、ミューヤを陰湿に陥れている魔王種に哀れを感じてしまう

 

そういう魔王種がミューヤと戦えば一瞬で塵となりこの世からいなくなるだろうから

 

正々堂々と戦うのが怖くて逃げているとしか見えない

 

その点ミューヤはどんな仕打ちをされようと決して逃げたりはしない

 

次第にパルフェもミューヤに好意を感じるようになる

 

「もしこのままどの魔物があたしを認めなくても問題ないわ」

 

ミューヤはいつものように突飛に言い放った

 

「それは淘汰されることと同義なのに?」

 

不愛想にパルフェが返す

 

「逃げれば良いのよ」

 

そう言うと彼女は満天の夜空を指差して言う

 

「あの星の一つを実行支配すれば良いだけ」

 

「それはすでに淘汰された後のことでしょう」

 

パルフェは呆れた

 

「そうじゃないわ、要は他の魔王種を皆殺しにすれば必然的に私は生き残る」

 

ミューヤの不敵な笑いが響くがパルフェは悲しい気持ちになった

 

彼女も自分もこのままでは淘汰される運命だ

 

そんな折ドットと呼ばれた強大な魔力と剣技を身に着けた魔王種が

 

何万体という魔物たちを従えていて、魔王候補随一と呼ばれていた

 

そのドットは魔物たちに横柄で時には虐めを思わせる行為に及ぶこともあった

 

それでも彼の強さに集まる魔物たちは後を絶たない

 

ある日パルフェが目の前で

 

数体の魔物をドットが痛めつけ次々に殺している所を目の当たりにした

 

自分ではとても勝てない相手である

 

それはパルフェ自身本能的に感じていたが

 

無意識に魔物たちを庇ってしまった

 

「貴様、俺様の邪魔をしたな」

 

「不当に魔物を痛めつけるのは止しなさい」

 

「こいつらは俺の機嫌を損ねた、殺されても仕方がない」

 

「自分の機嫌など自分で何とかすれば?」

 

「では貴様がこいつらに代わってお仕置きを受けるが良い」

 

ドットは決闘ではなくお仕置きと言った

 

これは魔王種にとって侮辱以外の何者でもない

 

「今お仕置きと言われたか」

 

「言ったがそれがどうした、貴様と俺様では力の差があり過ぎる、最早決闘にすらなるまい、だから貴様が唯一こいつらにできることは、お仕置きを引き受ける以外あるまい」

 

魔王種にとって誇りは自分の命よりも大切である

 

パルフェはこの時覚悟を決めた

 

たとえ敵わなくとも一矢報いてやると

 

「魔物たちへの不当な仕打ちに対して私はドット貴様を断固許しはしない、魔王種の風上にも置けない所業だ」

 

これはドットへの決闘申請ではなく、成敗してやると言っているのと同じである

 

「面白いでは、その言葉を実現して見せるが良い」

 

ドットは立ち上がり剣を抜いた

 

多くの魔物たちが初めて本当の意味でパルフェに目を向ける

 

もちろん力の差は歴然でパルフェは打ちのめされた

 

だが彼女は何度も立ち上がって少しも怯まない

 

次第に魔物たちからパルフェへの声援が響き始める

 

「なんだこれでは俺様が悪者ではないか、まぁ貴様を両断すれば問題ない」

 

上段に構えると凄まじい剣圧に振り下ろされた剣を剣で受け止めたパルフェの身体が

 

大地に埋め込まれ、そのまま倒れ込んだ

 

更にドットは斬り殺そうと剣を振り上げると

 

夥(おびただ)しい魔物たちがパルフェを庇うようにドットの前に立ちはだかる

 

「お前たちは自分が何をしているのかわかっているのか」

 

「我々の為に戦ってくれたパルフェを守っている」

 

一体の魔王が叫ぶように言うと、次々に他の魔物たちもパルフェを庇うように立つ

 

「良いだろうお前ら諸共に斬り殺すまでだ」

 

ドットの一振りで数体の魔物の首が飛ぶ

 

そこへミューヤが魔物たちを庇うように立ちはだかった

 

「あなたねぇ魔物を殺すなんて魔王種として最低なことをしている自覚あるの」

 

「なんだ貴様」

 

「私はパルフェの親友よ、親友をここまでボコられて黙って見ていると思う?」

 

辛うじて意識のあるパルフェが

 

「誰がいつ貴様を親友にしたの」

 

「あたしが今決めたの文句は言わせないわよ」

 

「ついでだお前の首も刎ねてやる」

 

「あんたのような魔王種は消えた方が良い、魔王とは魔物たちの幸せのために存在するのだからそこを履き違えているバカは消えなさい」

 

ミューヤの言葉に魔物たちの歓声が上がる

 

「力こそすべて、その減らず口もずくに聞けなくしてやる」

 

上段から振り下ろされた剣がミューヤの剣を叩き斬りミューヤの肩に食い込む

 

鮮血が辺りを真っ赤に染めるがミューヤはドットを見つめにやりと笑う

 

突然ミューヤから雷のようなものが肩に食い込んだドットの剣を経由してドットを焼き尽くす

 

叫び声をを上げると彼は倒れ込んだ

 

まだ死んではいないが体が痺れて動けないようだ

 

ドッドはそのまま目だけでぎろりとミューヤを睨む

 

そんなドットを足て踏みつけて

 

「力こそ全てなのでしょ、これがあなたの力よ、あまりにも弱すぎて話にならないわ」

 

「貴様、覚えていろよ」

 

「あなたに次なんてあり得ないわよ」

 

更に雷がドッドを襲い、焦げ臭い悪臭と煙がドッドから放たれる

 

「やっ止めろ」

 

「そう言った魔物たちをあなたは一体何体助けたかしら」

 

そう言うとまた雷をドットに喰らわせる

 

「止めてくれ」

 

ドッドの顔が恐怖に歪んだ

 

「あなたが助かる確率は、そんな顔をした魔物を何体助けたかで決まるわ」

 

そう言うと何度も雷をドッドに放ち続け

 

やがてドッドの体がバラバラに飛び散り跡形もなくなった

 

フラフラになりながら立ち上がり歩いて来たパルフェがこの光景を見て

 

「あなたねぇ残酷な殺し方するわね」

 

「ご挨拶ね親友を助けたあたしに労いの言葉すらないの、それにこんな魔王種は惨めな死をがお似合いよ」

 

パルフェの気持ちは複雑だった

 

あのドットですらあっという間に倒したミューヤの魔力を目の当たりにして

 

助けられた感謝と計り知れないコンプレックスが彼女を襲う

 

すると魔物たちから歓声が上がり、パルフェとミューヤの周りに集まった

 

ドットに集まった三分の二の魔物たちの半数がパルフェに、もう半数がミューヤについた

 

残りの三分の一の魔物はその場を去って行く

 

この頃の魔物たちは今とは違い平気で魔王種を捨てて違う魔王種へ寝返る

 

それは魔王に対しても変わらない、魔王が魔物を選ぶのではなく

 

魔物たちが魔王と認めて従って行くスタイルこそこの世界の自然な摂理のようだ

 

パルフェはミューヤに対して拭いきれない嫉妬心とコンプレックスを抱くことになる

 

だが、同時に好意を感じているため複雑だった

 

またドットを倒したミューヤに従いついて行くのは理解できるが

 

半数の魔物が自分に集まっているのは理解できなかった

 

「私はドットにボロ負けしたのに、なぜお前たちは私について来る、私には理解できないわ」

 

「あなたは負けるとわかっていても我々の為に戦ってくれた我々は目が覚めた強さだけが魔王の素養ではないと」

 

「私は強くないということね」

 

「あなたには我々が付いています、我々はあなたの生きざまに惚れ込んだ」

 

パルフェは同情心で彼らは自分についてきているのではないかと思った

 

魔王種を鞍替えするのが当たり前の魔物たちの中で

 

その後この魔物たちは決してパルフェの元を離れなかった

 

決して同情心などではないとパルフェも理解した

 

こうなれば自分の魔物たちがかわいくて仕方がない

 

それでもその気持ちを素直に表現できないパルフェは憎まれ口しか出てこない

 

ついてきてくれる魔物たちが愛おしいと思う気持ちが溢れそうなのに

 

この魔物の為に勝ち抜いてついに魔王となる決めて、見事魔王として選ばれた

 

更に魔王大戦が勃発したが、魔物たちを守るために勝ち抜いた

 

楽勝とは行かない、いつもギリギリのところで辛うじて勝ってきたのだ

 

自分の能力の無さに嫌気がさす

 

ミューヤの魔力は魔王大戦でも揺ぎ無く、多くの魔王を葬って行く

 

これほどまでの力の差を見せつけられればコンプレックスを抱くなと言っても無理な話である

 

ミューヤが相性の悪い嫌いな相手ならまだ良かったが

 

日増しに彼女への好意は強く深くなってしまう

 

それがパルフェの心を傷付けることも気が付かないパルフェは親友としてべったりだ

 

好意とコンプレックスの狭間でパルフェの口から出る言葉は嫌味ばかりである

 

それでもミューヤはパルフェへの愛情が揺ぎ無い

 

複雑な気持ちはパルフェの心を歪めて行く

 

そんなとき、魔王テチカを認識することになる

 

剣帝と呼ばれる程の剣技に卓越した魔王だが

 

彼女の知略はすでに自分を超えている

 

剣技でも知略でも魔王パルフェは魔王テチカに勝てないと自覚した

 

コンプレックスの対象が魔王ミューヤから魔王テチカへ移行する

 

そんなコンプレックスと嫉妬心に塗れたパルフェに対して魔物たちは

 

「あなたには我々が付いています」

 

もう何世代にも渡り彼女についてきている魔物たち

 

その魔物たちの最大の危機が訪れたのはホムンクルスの出現である

 

ホムンクルスは何体もの魔王を殺している

 

魔王大戦で生き残った魔王たちですら殺せる戦闘力に驚かされる

 

自分より明らかに強いと思われる魔王が次々に殺されて行く中で

 

魔王パルフェは自分が本当の意味で魔王になっているのだと自覚することになる

 

たとえ戦って殺されることになっても、魔物たちを守る

 

理知的な彼女がこんな不合理な考えに走るのは

 

「私は魔王たちのなかで決して強くはない、奴ら(ホムンクルス)と戦えば間違いなく殺されるでしょう、あなたたちはミューヤの元へ身を寄せなさい」

 

考に考え尽した末の決断だったが

 

「そんなことを仰(おっしゃ)るくらいならどうか、その剣で我らの首を全て刎ねてください、ここに居る魔物たちは決してあなたの元を離れません」

 

「あなたたは本当に馬鹿ね、それに一体どんな意味があるというの、死んでしまえばそれで終わりなのよ」

 

「それでも我々はあなたと共に運命を共にします、もしあなたが奴ら(ホムンクルス)に殺されるなら奴らに一矢報いて我らもこの世界から消えるまでです」

 

この時から魔王パルフェは死ねなくなった

 

この頑なな魔物たちを守るためには、ホムンクルスを倒し尚且つ生き残らなければならない

 

たとえホムンクルスを絶滅させたとしても自分が殺されてしまえば

 

この魔物たちは一体も残らず命を絶つに違いない

 

何故か魔王テチカはホムンクルスを討伐することに反対した

 

聡明な彼女に一体何が見えているのか魔王パルフェにはわからない

 

だが暴走するホムンクルスをこのまま放置するわけには行かない

 

結局魔王テチカの意見はかき消され、押し切られる形でホムンクルス討伐は決行された

 

この時魔王パルフェは「良いきみだわ」と思って少しは気持ちが晴れた

 

彼女の知性がいつも勝つとは限らないと知ったからだ

 

あらゆる意味で魔王パルフェは魔王テチカが嫌いだった

 

ところが蓋を開けてみれば、魔王の中で最もホムンクルスを倒したのは魔王テチカだった

 

彼女の剣技はホムンクルスに掠り傷すら負わせられない程極められていた

 

「あれだけ討伐に反対しておきながら、戦えば随分と潔くホムンクルスを倒しているわね」

 

「好き好んで戦っている訳ではない、貴様にはこの哀れなホムンクルスのことなど見えていないのだろう」

 

魔王すら殺せる恐るべきホムンクルスを哀れな存在と認識する魔王テチカの感覚が

 

魔王パルフェにはどうしても理解できない

 

その哀れだと思っているホムンクルスたちを無残にも斬り伏せているのは魔王テチカだ

 

「こいつらを哀れだと思うなら、救ってやったらどうなの」

 

「今やっている」

 

そう言うとホムンクルスを一体、また一体と斬り伏せる

 

斬りかかるホムンクルスの剣をほんの僅か数ミリだけで交わすとまた斬り殺した

 

「今となっては消してやることだけが奴らの救いとなるだろう」

 

多くの魔物たちを殺した、魔王テチカの魔物たちでも犠牲は出ている筈だ

 

そんなホムンクルスを哀れに思うことすら理解できない

 

まして斬り伏せることが救いとなるという意味もわからない

 

魔王テチカは得体が知れないという印象が魔王パルフェの脳裏に焼き付いた

 

「私はやはり魔王テチカが嫌いだわ」

 

生還した魔王パルフェを魔物たちは泣きながら喜んで迎えてくれた

 

この時どんなことがあってもこの魔物たちは守ってやろうと魔王パルフェは誓いを立てた

 

その誓いを揺るがす問題が魔王界に起こっている

 

「元をただせば、人間(シーラン)の口車に乗って亜魔王種討伐を先導した魔王テチカが悪いのよ」

 

魔王大戦で魔王たちは懲りている

 

生き残った12体の魔王たちはいずれも相性は最悪で

 

直ぐにでもケンカが起こっても不思議ではない

 

お互いに干渉しない距離感で生きて行くと暗黙のルールを守ってきたのに

 

「亜魔王種討伐のために力を合わせるなんてするからこんなことになるのよ」

 

魔王同士の亀裂があちこちで起こり始めている

 

魔王ロドリアスと魔王グラードの統治する魔物たちが争いはじめ

 

それが今では魔王ロドリアスと魔王グラードの争いにまで発展してきている

 

単なる二体の魔王の争いだと割り切ることが出来ないのは

 

魔王グラードを快く思わない魔王の存在である

 

それは魔王テトに限ったことではない

 

かといって魔王ロドリアスに肩入れする魔王も少ない

 

魔王グラードに手を貸すくらいなら魔王ロドリアスに肩入れする

 

そんな傾向を魔王パルフェは感じている

 

ところが、魔王ロドリアスに肩入れする魔王に対して反感を感じている魔王が

 

奴が魔王ロドリアスに肩入れするならと今度は魔王グラードへ肩入れする魔王も出て来た

 

それが真っ二つに分かれ今魔王界は真っ二つに分断されつつある

 

この両者がもし決闘するとなれば

 

そのまま分断された魔王たちと戦う可能性が高い

 

「これでは事実上魔王大戦の再来じゃない」

 

頭ではバカバカしいと思いつつも、決して低い可能性ではない

 

「あの魔女はどうするつもりかしら、あれから音信不通みたいだけど」

 

こんな時最も頼りになるのは魔王テチカだ

 

魔王パルフェは魔王テチカが大嫌いだが、彼女の知略は認めている
 

しかし、魔王テチカは未だに沈黙を守り続けている

 

「あの魔女を当てにした私がバカだったわ」

 

そう言うと魔王パルフェは魔王ミューヤを誘い魔王サーマイオスの城へ行くと決めた

 

彼は魔王の中では紳士的で物事を公平に見る性質が強い

 

また魔王ミューヤに好感を抱いている

 

魔王界に訪れたこの危機的状況を打開する道を共に模索しようと思ったからだ

 

恐らく魔王サーマイオスなら理解してくれるだろう

 

「まったく、この世は理不尽で不平等に出来ているわね」

 

不機嫌な顔で言うと魔王パルフェは魔王ミューヤと魔王サーマイオスに使いを送った

 

魔王が統治する森を離れることはとても危険なことである

 

求心力を失くした魔物たちは途端に争い起こすことも少なくない

 

身を潜めている亜魔王種たちが何か仕掛けて来る可能性だってあるのだから

 

とは言え魔王パルフェが何の仕掛けもせずに出かけることはないだろう

 

「何か仕掛けるなら仕掛けてごらんなさい亜魔王種たち、ただですむと思わないことね」

 

魔王パルフェは笑わない

 

ただ魔物たちが楽しそうに笑う声が聞こえると、ほんの少し柔らかい表情になる

 

「あいつら(魔物たち)が、再び笑えるようにしてあげなきゃね」

 

 

 

第一話「二人の英雄」

 

第二話「出会い」

 

第三話「作られたモノ」

 

第四話「静寂の闇の門が開くとき」

 

第五話「理性と感情の間で」

 

第六話「裁判と判決の間」

 

第七話「境界線その1」

 

第八話「珍客とバルード将軍の日常」

 

第九話「ケネス・ブラッドリーの弟子」

 

第十話「これは最早、戦術と呼べない」

 

第十一話「人間たちの希望の砦」

 

第十二話「人間の勇者~謎~」

 

第十三話「人間の勇者~真相~」

 

第十四話「ケネスの考察ともう一人の弟子」

 

第十五話「魔物たちとケネスの古傷」

 

第十六話「魔物たちとの合戦・前日」

 

第十七話「シラスター王とマーリア」

 

第十八話「魔物たちとの合戦その①」

 

第十九話「ある魔物のこころ」

 

第二十話「ケネスとマーリアの時間稼ぎ」

 

第二十一話「闇の真相と森の勇者の生き様」

 

第二十二話「奇跡の王」

 

第二十三話「魔物たちとの合戦その②」

 

第二十四話「魔法使いと魔術師」

 

第二十五話「リュエラの予言」

 

第二十六話「禁忌の申し子」

 

第二十七話「険しき道を行く者たち」

 

第二十八話「南の森のへそ曲がり」

 

第二十九話「人間の勇者の謎」

 

第三十話「氷の魔女」

 

第三十一話「こころ」

 

第三十二話「こころ・その2」

 

第三十三話「岐路・その1」

 

第三十四話「岐路・その2」

 

外伝「デラシーズ国の異端児」「二人の数奇な出逢い」

 

第三十五話「デラシーズ国の奇跡の王・片鱗」

 

第三十六話「ネオホムンクルスの涙」

 

第三十七話「デラシーズ国の奇跡の王・片鱗その2」

 

第三十八話「百尺竿頭(ひゃくせきかんとう)」

 

人間たちの落日 落日の兆し 第三十九話「旅立ち」

 

第四十話「人間への道・はじめの一歩」

 

第四十一話「人間への道・慟哭」

 

第四十二話「サイコパス」

 

第四十三話「バーハス地域領戦線前夜・前編」

 

第四十四話「バーハス地域領戦線前夜・後編」

 

第四十五話「リュエラとラス」

 

第四十六話「ジランの足跡」

 

第四十七話「奇妙な出逢い」

 

第四十八話「思いと罪過」

 

第四十九話「リュエラとラス・結末」

 

第五十話「魔導師の行方」

 

第五十一話「バーハス地域領戦線」

 

第五十二話「バーハス地域領戦線その2」

 

第五十三話「わかれ道」

 

第五十四話「リーザ・師匠との出逢い」

 

第五十五話「リーザ・穏やかな日々」

 

第五十六話「リーザ・本当の強さ」

 

第五十七話「リーザ・師匠の心」

 

第五十八話「宿命の戦い」

 

第五十九話「魔王デスカラード」

 

第六十話「偵察」

 

第六十一話「新種覚醒」
 

第六十二話「握った手を」

 

第六十三話「カムイ将軍の出陣」

 

第六十四話「この壁の向こう側」

 

第六十五話「通わぬ心」

 

第六十六話「魔導師ナタル(毒薬)」

 

第六十七話「共感」

 

第六十八話「夕暮れの紫苑」

 

第六十九話「振り子が止まる瞬間」

 

第七十話「別れ道」

 

第七十一話「二人の魔導師と盟約」

 

第七十二話「異端児と内助の功」

 

第七十三話「人族への道」

 

第七十四話「Rain」

 

第七十五話「淘汰されゆく者たち」

 

第七十六話「剣如聖人」

 

第七十七話「Strangie」

 

第七十八話「混沌(カオス)が生まれる理由」

 

第七十九話「変革の兆し」

 

第八十話「青い炎の意味」

 

第八十一話「魔王世界の異変」

 

第八十二話「道を切り開く者たち」

 

第八十三話「将軍誘拐と革命の兆し」

 

第八十四話「試練の向こう側に」

 

第八十五話「12魔王一堂に会する」

 

第八十六話「魔王会議・竜族の正体」

 

第八十七話「ドルトエルン国・落日の兆し」

 

第八十八話「ドルトエルン国・膿(うみ)」

 

第八十九話「戦慄・ソールトの逆襲」

 

第九十話「芽生えた希望の光という名の国」

 

第九十一話「師弟の縁」

 

第九十二話「ラスティ」

 

第九十三話「神風という名の国」

 

第九十四話「風が世界に吹くとき・前編」

 

第九十五話「風が世界に吹くとき・後編」

 

第九十六話「ソールトの決意/晩秋の実り」

 

第九十七話「選択の向こう側/時を知る瞬間」

 

第九十八話「戦火のはじまり」

 

第九十九話「戦術と策略と見えない心」

 

第百話「ランドの実力」

 

第百一話「遠交近攻(えんこうきんこう)を逆手に・前編」

 

第百二話「遠交近攻(えんこうきんこう)を逆手に・後編」

 

第百三話「邂逅(かいこう)」

 

第百四話「電光石火」

 

第百五話「初志貫徹と生々流転」

 

第百六話「デュカルト王の逆襲とブラスト将軍の息子」

 

第百七話「赤い炎の城壁」

 

第百八話「カムイ元帥出撃とデラシーズ国軍の脅威」

 

第百九話「シラスター王の覚悟」

 

第百十話「世界大戦の予兆」

 

第百十一話「最初の奇跡」

 

第百十二話「トリメキア国誕生」

 

第百十三話「カムイ元帥の悪巧み」

 

第百十四話「メシア(救世主)とは」

 

第百十五話「丘上の同盟」

 

第百十六話「ゲリラ戦」

 

第百十七話「ロンギヌスの槍」

 

第百十八話「デラシーズ国軍兵士の性質」

 

第百十九話「Turning Point」

 

第百二十話「ラスティの選択」

 

第百二十一話「変革」

 

第百二十二話「運命を変える道」

 

第百二十三話「決別の真意」

 

第百二十四話「亜魔王種」

 

第百二十五話「魔王ロドリアス」

 

第百二十六話「生還と選択」

 

第百二十七話「ラスティの歩く道」

 

第百二十八話「待雪草が芽吹く場所」

 

第百二十九話「不思議な縁」

 

第百三十話「脱出と戦況」

 

第百三十一話「類似性と共感」

 

第百三十二話「革命児のこころ」

 

第百三十三話「混迷と伝わる心」

 

第百三十四話「革命的発想と違和感」

 

第百三十五話「何者にもなれない王」

 

第百三十六話「天賦」

 

第百三十七話「デラシーズ国軍の危険性」

 

第百三十八話「マルカスト元帥とチグリット国」

 

第百三十九話「魂の友」

 

第百四十話「亜魔王種に勝った人間」

 

第百四十一話「チグリット国の性質」

 

第百四十二話「窮地がチャンスに変わる瞬間」

 

第百四十三話「マーリアと魔王テチカの仲違い」

 

第百四十四話「ゴルダーオの崖」

 

第百四十五話「マーリアの残像」

 

第百四十六話「分岐点に影が射す」

 

第百四十七話「新たなる人間の勇者誕生 前編」

 

第百四十八話「新たなる人間の勇者誕生 後編」

 

第百四十九話「リュエラの予言とナタルの予言」

 

第百五十話「人間の勇者と審判者」

 

第百五十一話「空は青く晴れ渡り」

 

第百五十二話「マーリアの知略」

 

第百五十三話「責務と情け」

 

第百五十三話「ガッパの消息」

 

第百五十四話「真相と打開策」

 

第百五十五話「シラスター王との謁見」

 

第百五十六話「時代が変わろうとする兆し」

 

関連記事 ガッパの消息 12魔王ラフ画

 

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あとがき

 

暫く、魔王たちをそれぞれの視点から描きながら

 

ゆっくりと魔王界の危機的状況を描いて行きます(=◇=;)

 

12体の魔王たちのうち、まだ描き切れていない魔王たちの素顔を描くことができるか

 

そのうえで話もゆっくりながら進めることが出来るように描こうと思います

 

次は魔王ミューヤの視点で描こうと考えていますが

 

違う魔王になった場合はごめんなさい・・・(。_。;)゜:。アセ 

 

時々キャラが自分を描きやがれヾ(。`Д´。)ノと主張されることもあるので

 

この場合止む無くそのキャラを描くことになります(((゜д゜;)))

 

ここ数日魔王パルフェのイメージが何故か脳裏から離れず

 

観念して外伝を描くことにしました

 

ただ外伝を描くだけでは話が進まないので

 

話を進めつつ描いて行く描き方を模索中です(=◇=;)

 

できるかしらヽ(;´ω`)ノ

 

まる☆