シーランは少し呆れた顔をして岩に座り見下ろした

 

その目線の先には、傷だらけのシラスター王が倒れ込んでいる

 

奥義の一つでも会得してくれれば良いと考えていたが

 

シラスター王があまりにも呑み込みが早く

 

一を教えれば十を悟るように次々に応用を利かせてくるものだから

 

シラスター王の剣技の才が底なしだと勘違いしてしまい

 

危うく命を落とさせるところだった

 

どんなに剣技の才に恵まれた相手でも

 

いきなり自分と同じレベルで修業させては命に関わるのだと思い知らされた

 

とは言え、どん欲なシラスター王はついに三つの奥義を会得してしまった

 

たった一月足らずでだ

 

その分無理をさせ、力尽き倒れている

 

彼はネオホムンクルスではない、リーザやランドなら体をバラバラにしても再生するが

 

シラスター王は生身の人間である

 

「したが、生身の人間がすでにランドを遥かに超えてしまったのだから面白い」

 

今まで弟子の中で奥義を三つも会得したものはいない

 

ソールトですら一つの奥義でやっとだった

 

しかも、それが人間より戦闘力が発達した魔物や魔王、ネオホムンクルスよりも先に

 

この生身の人間が会得しているのだ

 

シーランもそんな予想はしていなかった

 

こんな時姉の短剣を握り締める

 

「リンネ、少しばかり考えを曲げればこんなところに逸材はいたではないか」

 

探せば或いはシラスター王のような逸材はまだこの世界にいるかも知れない

 

しかしそれが人間であることはとても喜ばしいと思える

 

それはシーランもまた人間であるからだろうか

 

森の魔物や魔王たちから既に人間を超えた存在と言われているけれど

 

それでも自分が人間であると未だ思っているのだろう

 

改めて自分の心に気が付いて笑いが込み上げてきた

 

ひとしきり笑うと

 

「そろそろ出て来れば良いぞネルキス」

 

「これは師匠隠れていたわけではありません、見ればシラスター王が倒れているのでまさか師匠があまりに過酷な修業をさせついに死なせてしまったのかと驚いていたところです」

 

「死んではおらぬ、しかし鋭い所を突いて来るな」

 

そう言うと笑う

 

「笑い事ではありませんよ、師匠ならやりかねないと思っただけです、ソールト姉弟子も何度か死にかけましたからね」

 

「才ある者と出会うとつい嬉しくなって教え過ぎてしまうのだ」

 

「それは困ったものです」

 

弟子のネルキスは呆れた様子だ

 

「ところで何かあったのかえ」

 

「そうでした、師匠直ぐにお戻りください、理由はわかりませんがナタル様が突然失踪されました、また西の三国が先ごろ一つになったのですが、また内乱が起きました」

 

「ラスティがおるではないか、奴なら何とかするじゃろう」

 

「それがラスティはデラシーズ国が提案した国連の加盟と会議に参加するため出払っています」

 

「つまりその隙を突かれたということか」

 

「それはどういうことですか」

 

「恐らく亜魔王種が仕掛けたことじゃろうな、しかし三国を統一したトルンガ国はこのデラシーズ国に匹敵する戦闘力を持っているから当面力で抑えることもできるだろう」

 

「ところが、そのトルンガ国が真っ二つに分かれて、その一派は旧トーテンバッハ国、もう一方は旧ミッシャルン国が後押ししているようなのです」

 

「つまり旧体制がトルンガ国を分断するように仕向けているのじゃな」

 

「ことは複雑になります、この三国は三体の魔王の領地が密接に絡んでいるため、この争いの背後には魔王グラードと魔王ロドリアスの争いに発展してきているのです」

 

「なんと、魔王同士を争わせるために旧三国を分断させたというわけか」

 

それだけではない亜魔王種の知略は一つの策略にいくつもの効果を生み出すものが多い

 

亜魔王種討伐において志のある者同士を分散させる目的と効果が見え隠れしている

 

その一つはシラスター王とシーランが強く結ばれることを阻止する

 

次に亜魔王種たちが最も恐れているマーリアとシーランが手を組むことを阻止する

 

もちろん、この時のシーランはマーリアが復活したことを知らない

 

「やれやれ、弟子の尻拭いをするのは師匠の務めじゃ仕方がない」

 

「師匠いつも師匠の尻拭いをしているのは私たち弟子であることをお忘れなく」

 

「耳が痛いことを言うでない、お前はシラスター王を城へ届けてから帰るのだぞ」

 

「ほらまた私に尻拭いをさせる」

 

「そういうでない、シラスター王へ伝言を伝えてくれ」

 

「この上また弟子に苦労を掛けると」

 

「ネルキスにはいつも感謝しておるこの通りじゃ」

 

シーランは手を合わせて頼む仕草をしてみせた

 

ネルキスは元々密偵を生業としていた

 

特定の国に仕えているのではなく金で雇われる今でいうフリーの密偵で

 

その能力は国の密偵より群を抜いて優秀だったため様々な国に依頼が殺到していたが

 

実はマルカスト元帥によって不覚をとり死にかけたところをシーランに救われた

 

身のこなしと素早さは弟子の中でも五指に入るだろう

 

ただ口の悪さはソールトでもへきへきするほどでシーランも持て余している

 

そんな口の悪いネルキスでもいざとなればシーランの為に命を張ると決めている

 

「仕方がありませんね、それで何と伝えれば良いのでしょう」

 

「お前はすでに三つの奥義を会得した」

 

シーランがそこまで言うとネルキスは絶句した

 

「ソールト姉弟子ですら一つの奥義しか会得できないのに、シラスター王とは何者ですか」

 

「そうじゃなどう見ても女子にしか見えないたおやかな王様じゃ」

 

そう言うと大笑いする

 

それでネルキスは冷静さを取り戻した

 

「続きはこうじゃ、この三つの奥義をそれぞれ組あせたり工夫すれば違う奥義に辿り着く、あとはお前次第じゃとな」

 

ネルキスは改めてシラスター王を見つめた

 

「このシラスター王は逸材ですね」

 

「未だ十代じゃ末が楽しみではあるが、何分このご気性故長生きできるかどうか」

 

「これほどの強さをもってしてもですか」

 

「どんなに強くてもそれだけで無敵と言う訳には行かぬ、強さを発揮させず亡き者にする手段はいくらでもあるからのぉ」

 

そこまで言えば元密偵のネオキスには充分だった

 

知略に長けた亜魔王種だけでなく、デュカルト王にも策略で何度も命を落としかけている

 

「これでは敵にアキレス腱を握られているも同じですね」

 

「困ったことにこのご気性が彼を奇跡の王と成らしめている、切り離すことは出来ぬ」

 

「それで短命になる可能性を示唆されたのですね」

 

「私としては何としても知恵を絞りだし、この弟子を守りたいと思っておるのじゃ、もう弟子を私より先に逝かせたくはないからのぉ」

 

そんなことを言われればクールで口の悪いネオキスでも胸が熱くなる

 

弟子の中でシーラン師匠の愛情を感じない者は一人も居ない

 

そのシーラン師匠にとって弟子に先立たれることがどれほど辛いことだろうか

 

「仕方がないので私も知恵をお貸しいたしましょう、少しは長生きできるかもしれませんので」

 

「そうか、お前が考えてくれるなら少しは安心できる、頼んだぞネルキス」

 

この瞬間ネルキスは「しまった」と思った

 

またシーラン師匠の策略に嵌まり込んでしまったことに気が付いたからだ

 

もし、シラスター王を守ってくれと言えば間違いなくハッキリ断るつもりだった

 

ところが、結局自発的にシラスター王を守るために人力する羽目に誘導されてしまった

 

「シーラン師匠は亜魔王種より質が悪いと今思いました」

 

「それは最高の誉め言葉と受け取っておくぞぇ」

 

嬉しそうにシーランは姿を消した

 

「まったくこれでは、シラスター王の護衛をさせられたようなものだ、この方は私より遥かに剣技では強い筈なのだが策略には疎い方のようだからなぁ」

 

ネルキスはため息をついてから

 

「本当に弟子遣いの荒い師匠だ」

 

そう呟くとシラスター王を抱えて森の中へ消えて行く

 

こうして見事に亜魔王種によりマーリアとシーランとの出会いは阻止されてしまった

 

しかし、亜魔王種でもこのネルキスの悪知恵は誤算だったに違いない

 

常に陰で動く彼女は裏の道に精通しているためあらゆる悪行を身に着けている

 

蛇(じゃ)の道は蛇(へび)の例え通り、或いは適材適所と言うべきもので

 

シラスター王が決して持つことは出来ない暗部の役割を平気で果たせるため

 

彼女が陰でシラスター王を陥れる策略を未然に防げば

 

亜魔王種は容易にシラスター王を亡き者にはできなくなる

 

「善良でお人好しのデラシーズ国の住人達にはとてもできないことをネルキスなら造作もなくできてしまうから、少しは力になるじゃろう」

 

シーランの人選は常に的を射ていて外したことが無い

 

 

一方、マーリアたちはシラスター王と謁見するのにランドを利用することにしたようだ

 

同盟国となったトリメキア国の将軍の息子であり、

 

ゴッドウィンドウ国との戦においてはベェゼルド国の元帥として功績も多い彼なら

 

シラスター王の謁見も難しくはない

 

いきなり死んだはずのマーリアが現れては誰もが不振に思うに違いない

 

手放しで喜べないのは魔王テチカによって殺され、

 

ランディスが魔王テチカを斬り倒れたという噂がデラシーズ国中に広まっているせいだ

 

これが事実で無いにしても、もしマーリアがいてきているとすれば

 

真相は何なのかデラシーズ国内で波紋が起きる

 

また人間の勇者はツガイを失くせばもう一人も居なくなるという伝説があるため

 

今のマーリアが本物だと思うことの方が難しい

 

当然偽物扱いされてしまうだろう

 

そこで素性を偽り、魔術で違う姿に見えるようにして別人としてランドに同行することにした

 

その道中リュエラはランドに尋ねた

 

「後二年とはどういう意味なの」

 

「ネオホムンクルスの寿命は短い、私は他のネオホムンクルスの魂と魔力を吸収しているから二年くらいは持つが、寿命が来れば崩壊してしまうようだ」

 

「そう」

 

リュエラはそっけない返事をしてから少しばかり考えている様子だ

 

何かを思いついたように

 

「実はマーリアを復活する前にナタル様から優秀な弟子がいると聞いたわ、その弟子に教わった方法でマーリアが復活したのだけれど、もしかするとあなたの寿命を無くす方法をすでに見つけているかもしれない」

 

「そんなことが可能なのか」

 

「わからない、けれど私ならマーリアを復活した方法から解読することができるかも知れない」

 

ランドは暫く考えてから

 

「もしその可能性があるなら、トリメキア国にいる仲間のリーザを助けてやってくれないか」

 

「ではあなたで実験して良いかしら、そのリーザの為に」

 

もちろん、リュエラは最初からランドを救うつもりである

 

だたランドは自分がこれ以上生きていて良いのか迷っている様子だったので

 

恐らく遠回しに断っているのだと認識したから、彼が断われないように仕向けたのだ

 

「そうか、それなら私を実験に使ってくれ」

 

リュエラの真意をランドが汲み取ったかはわからないけれど

 

リーザの為なら自分を実験材料にすることも厭わないとリュエラは理解した

 

「あなたにとって大切な存在なのね」

 

「ああ俺の命と引き換えにしても守ってやりたいと思っている」

 

ランドが時折自分のことを俺というのはクールなリュエラは観察済みである

 

どうやら俺というのが本来のランドで、私というのは儀礼的に使うようにしているのだろう

 

そのため時々本音を語る時には俺と自分のことを言う率が高いようだ

 

リーザもランドも未だに自分たちが相手をこよなく愛していることに気が付いてはいない

 

「ランドあなたは器用貧乏ね」

 

「それは良く言われるが、一体どういう意味なのだろう私には理解できない」

 

「あなたはまだ作られてそれほど経っていない子供と同じだからいずれその意味がわかる日が来るわ」

 

「ふーん」

 

ランドはしらけた目で言う

 

それにしても、この僅かな情報で

 

ネオホムンクルスの寿命を無くす方法がある所まで辿り着くリュエラの聡明さは驚くべきだ

 

ナタルに匹敵する能力のあるリュエラなら或いはその方法を見つけ出せるかもしれない

 

ナタルの損傷の大きさを思えば魔導師たちと言えど直ぐに回復させることは難しいだろう

 

ならばナタルに変わって自分がランドの寿命の問題を解決する義務がある

 

リュエラがそう考えても不思議ではない

 

「ナタル様があんなことにならなければ、ランドは今頃寿命がなくなっていたに違いない」

 

リュエラは心の中で呟くと、必ずナタルに変わって自分が彼を助けると密かに誓った

 

ランドを救いたいとリュエラが思ったのには他にも理由がある

 

ランドを救うためには、ネオホムンクルスの全てを知る必要がある

 

それは、リュエラにとって傷口を抉られる痛みを覚えることでもあった

 

何故なら、ネオホムンクルスは今は亡き親友ラスが生み出したからである

 

それでも、彼女が生み出したネオホムンクルスが善良に生きていることを知れば

 

リュエラにとって救いになっているに違いない

 

そうでなければ、出会って間もない相手をそう簡単に友とするリュエラではないのだ

 

彼女はそう簡単に相手を友と認められないような環境で生きて来た

 

彼女のずば抜けた魔術の力に誰もが魅せられ同時に妬みも生み出した

 

何度も命を狙われたこともあり、友だと思っていたものから裏切られたことも少なくない

 

ラスだけは常に彼女と共にあってくれた、最後の最期で裏切られたのだけれど

 

リュエラはラスが上辺だけで付き合ってきたのではないことだけは確信していた

 

恐らく魔術師の中で彼女だけがリュエラを心から大切に思ってくれていた

 

亜魔王種に誘惑され妬みの鎖は彼女の心を縛り付け暗い闇の底へ引っ張って行き

 

抜けられない所まで落ちてしまった

 

そんな彼女がそれでも善良な一面が今のランドを生み出したのではないのか

 

それが思い込みでも、リュエラはそうあって欲しいと願わずにはいられない

 

ランドというネオホムンクルスが善良に生き続けることは

 

ラスを少しは肯定してあげられる唯一の道だとリュエラには思えてならなかった

 

「だからあの時、こんなにも善良に生きているネオホムンクルスがいたことを知って嬉しかった」

 

そして彼を友とすることにしたようだ

 

「ラスの唯一の救いであるランドを死なせて堪るもんですか」

 

彼女なら恐らく、ラスティが辿り着いた寿命の解除方法へ辿り着くだろう

 

程なくデラシーズ国の首都城へ辿り着いたが

 

シラスター王が重体だと知らされた

 

慌ててリュエラが治癒魔術を施すことになった

 

「一体何があったのですか」

 

「シーラン師匠がやり過ぎまして修業のし過ぎで命を落としかけております」

 

見知らぬ顔でリュエラが怪訝にみると

 

「私はシーラン師匠の弟子のネルキスと申します」

 

「リュエラよ、しかし剣如聖人ともあろうお方がこのような失態をされるとは」

 

「返す言葉がありません、全てはシラスター王の剣技の才があまりにも凄すぎた為でしょう」

 

リュエラには彼女の言っている言葉の意味が理解できなかったが

 

何とか治癒魔術でシラスター王は回復することが出来た

 

「まさか修行で命の境を彷徨うことがあるなんて」

 

リュエラには理解できないことでもランドには理解できている様子で

 

「私も何度も命を落としかけました、ネオホムンクルスである私でも危ない状態になったのだから生身の人間であるシラスター王では本当に危険でしょう」

 

「いやランド師匠は相手の力量に合わせて修業をさせるから本来は、ただ剣技の才に光るものを感じる相手には時々こんなことになるのだ、お前の時もそうだったし、ソールト姉弟子も何度か死にかけておられる」

 

「ということは、シラスター王にはそれほどまでの剣技の才があったということでしょうか」

 

ネルキスの言葉にランドは驚いた

 

「恐らく今のシラスター王はお前を遥かに超えている、お前だけでなくソールト姉弟子でも勝てないだろう」

 

僅かばかりの間にまさかそれほどまでに強くなれるものなのだろうか

 

「私も俄かに信じられることではないが、シーラン師匠がそんなことで嘘をつかれる意味はないからな」

 

「ちょっとそんなことはどうでも良いわ、その結果シラスター王が死んでしまえば元も子もないでしょう」

 

リュエラの言う通りだ

 

武術家であれば剣技の為に命を落とすことは本望かもしれないが

 

シラスター王は武術家ではない、このデラシーズ国にとってかけがえのない王なのだ

 

武術の道を歩いている二人にとってはシラスター王の剣技にばかり目が向いてしまい

 

リュエラだけはシラスター王の存在の大切さを認識していた

 

「この人は決して死なせてはならない、今なら私もそれが理解できる」

 

武術家ではないリュエラには、二人の気持ちがまるで理解できない

 

そしてナタルが大好きなシーランへの不信感がその時芽吹いた

 

とは言え、ナタルが回復して戻るまでシーランを守ると約束しているので

 

その約束を反故にするつもりはないが

 

それだけに命を粗末にする修業に関してはとても許させない思いになった

 

ずっと事の成り行きを見ていたマーリアが突然笑い出した

 

リュエラもこの状況で笑いだすマーリアに驚く

 

するとすっかり回復したシラスター王が目を覚まし

 

真っ先にマーリアを見つめて

 

「マーリア生きていたのか」

 

当然魔術によって別人に見えている筈なのにシラスター王は一目見てマーリアだと見抜いた

 

「どうしてわかったの、別人の姿に見えているでしょ」

 

「君がどんな姿に変わろうと私にはわかるさ」

 

「ほらね私の言った通りでしょ」

 

「その人を小馬鹿にした笑いはマーリア以外考えられない」

 

シラスター王の一言で先ほどまで怒っていたリュエラも含めてみんなが笑い転げた

 

「ちょっとその覚え方は酷すぎないかしら」

 

不貞腐れるように言うとマーリアは魔術を解いて本当の姿を見せた

 

ところが、はらりはらりと零れ落ちるシラスター王の涙に気付くと空気が一変した

 

「良かった、本当に良かった生きていてくれて」

 

「あらあなたこそ今まで死にかけていたのだけどね」

 

「そうなのか」

 

「それに私はもう人間の勇者でも人間ですらない存在になったわ」

 

「マーリアが人間ですらなくなったとしてもマーリアで無くなる筈はないそうだろう」

 

「ご名答、私は私が何者になったとしても私であることに違いないわ」

 

「だから、おかえりマーリア」

 

シラスター王の満面の笑みにランドですら和んだ

 

リュエラも心を動かせる

 

だたネルキスだけは冷静に見ている

 

彼女はこれがシラスター王の人の心を掴む一つの性質だと分析しながらも

 

同時にマーリアを警戒している

 

何故なら彼女もまたシラスター王の性質に影響を受けている様子がないのだ

 

マーリアと呼ばれた人間ではない存在は

 

自分と同じように人の情に心を動かせることのない性質を保有していると認識した

 

それだけに、人の心を巧みに操る術に長けている可能性は高い

 

つまりシラスター王を含めてここに居る全てはマーリアの術中にはまっているのではないか

 

人たらしという点ではシーラン師匠の方が勝っているかもしれないが

 

マーリアの知略はネオキスが思うのとは違う方向へ向けられている

 

それは亜魔王種ですら届くことのない場所のようだが

 

「それでシラスター王一つお願いがあるのだけれど」

 

「一体何を望んでいるのだ」

 

「魔王テトに会って魔王会議を促して欲しい」

 

「えっ、それは一体どういう」

 

「少しばかり事情が変わって直ぐにでも魔王会議を開かないと非常にまずい状況になっているのだけれど、死にかけていたところを悪いのだけれど今すぐ立てるかしら」

 

「えっ魔王テトの所へ?」

 

「魔王テチカのとこでよ、話は複雑になるから道すがら説明するわ」

 

まったく強引にも程がある、リュエラの治癒魔術によって回復したとはいえ

 

先ほどまで重体にまでなっていたのだ

 

ネルキスは止めようとしたが

 

「わかったマーリアがそれほどまでに言うなら今すぐに準備をして立とう」

 

それよりも早くシラスター王が引き受けたものだから

 

ネルキスは焦った、罠の中に飛び込むようなものだと思ったからだ

 

「あなたも着いて来ると良いわ」

 

そんなネルキスの様子に気が付いたマーリアが彼女へ言う

 

ランドはシラスター王が意外に決断が速いことを再認識させられた

 

思えばシラスター王は迷わない、ゴッドウィンドウ国へ侵攻作戦の時も

 

単独でデュカルト王と会うと決めて直ぐに実行に移した

 

彼はやると決めたら躊躇がない

 

ベッドから起きると着替えを用意させ旅支度を済ませるとすぐに城を後にした

 

王宮の者たちも特に慌てる様子がなく

 

恐らく彼の性急な性質には慣らされている様子だ

 

いつものことだという雰囲気で直ぐに城から出ることになった

 

マーリアの特異性にも驚かされるばかりだが

 

シラスター王は本当に不思議な王だとランドは首を傾げた

 

ても一国の王の身軽さではない

 

見方を変えれば無責任で自分勝手な暴君と捉えられるのだが

 

王宮の者たちは手を振ってお見送りしている

 

心なしか嬉しそうな様子にも驚かされる

 

「これで王宮の仕事がはかどる」

 

「鬼の居ぬ間に仕事をするぞ」

 

なんて声が聞こえる、空耳だろうか

 

とても奇跡の王に対する陰口とも思えない

 

ランドが不思議に思うのは無理はないのだが

 

王宮の者たちからすれば、シラスター王の特異性は非常に迷惑極まりないのだ

 

いちいち領民の言葉に反応して自ら出向いて手伝うため

 

止む無く王宮の仕事を中断して協力する羽目になる

 

シラスター王が動けば経費がかさむとか

 

シラスター王が思いつけば仕事が増えるとか

 

熱狂的に慕われている反面、困った王であることは間違いない

 

いない方が公務が進んで王宮が活性化するのだ

 

そんな王宮の者たちでも有事には命を落としてシラスター王を守ろうとするだろう

 

「シラスター王、王宮の連中はあなたが居ない方が生き生きしているように見えますよ」

 

「それで良い、王などいなくても国として成り立つそれこそが理想だから」

 

流石のランドにも直ぐには意味が理解できなかった

 

「王がいなくても成り立つ国を作れば、自分の立場がなくなりますよ」

 

「あっそうだった」

 

ランドは呆れ果てて次の言葉が出てこない

 

「私はデラシーズ国の住人達一人一人が自分の頭で考えて生きて欲しいのだ、その為なら王は雑用係でも良いと思っている」

 

多分それは無理だとランドは思った

 

何故ならシラスター王はカリスマ的存在で

 

殆どの者が彼に届かないだろう、必然的に彼に依存してしまう

 

そこまで考えてあることに気が付いた

 

シラスター王の性質である

 

それは彼の最大の弱点でもあり、みんなに愛されているところでもある

 

そのためデラシーズ国の住人は常にシラスター王を助けるため知恵を絞りだす必要がある

 

「致命的欠点が国の住人たちの為になっている王を始めてみましたよ」

 

今度はシラスター王の方がランドの言葉を理解できなかったようで首を傾げた

 

マーリアだけがクスクスと笑っている

 

一同は魔王テトとの謁見をするために南下し始めた

 

つづく
 

第一話「二人の英雄」

 

第二話「出会い」

 

第三話「作られたモノ」

 

第四話「静寂の闇の門が開くとき」

 

第五話「理性と感情の間で」

 

第六話「裁判と判決の間」

 

第七話「境界線その1」

 

第八話「珍客とバルード将軍の日常」

 

第九話「ケネス・ブラッドリーの弟子」

 

第十話「これは最早、戦術と呼べない」

 

第十一話「人間たちの希望の砦」

 

第十二話「人間の勇者~謎~」

 

第十三話「人間の勇者~真相~」

 

第十四話「ケネスの考察ともう一人の弟子」

 

第十五話「魔物たちとケネスの古傷」

 

第十六話「魔物たちとの合戦・前日」

 

第十七話「シラスター王とマーリア」

 

第十八話「魔物たちとの合戦その①」

 

第十九話「ある魔物のこころ」

 

第二十話「ケネスとマーリアの時間稼ぎ」

 

第二十一話「闇の真相と森の勇者の生き様」

 

第二十二話「奇跡の王」

 

第二十三話「魔物たちとの合戦その②」

 

第二十四話「魔法使いと魔術師」

 

第二十五話「リュエラの予言」

 

第二十六話「禁忌の申し子」

 

第二十七話「険しき道を行く者たち」

 

第二十八話「南の森のへそ曲がり」

 

第二十九話「人間の勇者の謎」

 

第三十話「氷の魔女」

 

第三十一話「こころ」

 

第三十二話「こころ・その2」

 

第三十三話「岐路・その1」

 

第三十四話「岐路・その2」

 

外伝「デラシーズ国の異端児」「二人の数奇な出逢い」

 

第三十五話「デラシーズ国の奇跡の王・片鱗」

 

第三十六話「ネオホムンクルスの涙」

 

第三十七話「デラシーズ国の奇跡の王・片鱗その2」

 

第三十八話「百尺竿頭(ひゃくせきかんとう)」

 

人間たちの落日 落日の兆し 第三十九話「旅立ち」

 

第四十話「人間への道・はじめの一歩」

 

第四十一話「人間への道・慟哭」

 

第四十二話「サイコパス」

 

第四十三話「バーハス地域領戦線前夜・前編」

 

第四十四話「バーハス地域領戦線前夜・後編」

 

第四十五話「リュエラとラス」

 

第四十六話「ジランの足跡」

 

第四十七話「奇妙な出逢い」

 

第四十八話「思いと罪過」

 

第四十九話「リュエラとラス・結末」

 

第五十話「魔導師の行方」

 

第五十一話「バーハス地域領戦線」

 

第五十二話「バーハス地域領戦線その2」

 

第五十三話「わかれ道」

 

第五十四話「リーザ・師匠との出逢い」

 

第五十五話「リーザ・穏やかな日々」

 

第五十六話「リーザ・本当の強さ」

 

第五十七話「リーザ・師匠の心」

 

第五十八話「宿命の戦い」

 

第五十九話「魔王デスカラード」

 

第六十話「偵察」

 

第六十一話「新種覚醒」
 

第六十二話「握った手を」

 

第六十三話「カムイ将軍の出陣」

 

第六十四話「この壁の向こう側」

 

第六十五話「通わぬ心」

 

第六十六話「魔導師ナタル(毒薬)」

 

第六十七話「共感」

 

第六十八話「夕暮れの紫苑」

 

第六十九話「振り子が止まる瞬間」

 

第七十話「別れ道」

 

第七十一話「二人の魔導師と盟約」

 

第七十二話「異端児と内助の功」

 

第七十三話「人族への道」

 

第七十四話「Rain」

 

第七十五話「淘汰されゆく者たち」

 

第七十六話「剣如聖人」

 

第七十七話「Strangie」

 

第七十八話「混沌(カオス)が生まれる理由」

 

第七十九話「変革の兆し」

 

第八十話「青い炎の意味」

 

第八十一話「魔王世界の異変」

 

第八十二話「道を切り開く者たち」

 

第八十三話「将軍誘拐と革命の兆し」

 

第八十四話「試練の向こう側に」

 

第八十五話「12魔王一堂に会する」

 

第八十六話「魔王会議・竜族の正体」

 

第八十七話「ドルトエルン国・落日の兆し」

 

第八十八話「ドルトエルン国・膿(うみ)」

 

第八十九話「戦慄・ソールトの逆襲」

 

第九十話「芽生えた希望の光という名の国」

 

第九十一話「師弟の縁」

 

第九十二話「ラスティ」

 

第九十三話「神風という名の国」

 

第九十四話「風が世界に吹くとき・前編」

 

第九十五話「風が世界に吹くとき・後編」

 

第九十六話「ソールトの決意/晩秋の実り」

 

第九十七話「選択の向こう側/時を知る瞬間」

 

第九十八話「戦火のはじまり」

 

第九十九話「戦術と策略と見えない心」

 

第百話「ランドの実力」

 

第百一話「遠交近攻(えんこうきんこう)を逆手に・前編」

 

第百二話「遠交近攻(えんこうきんこう)を逆手に・後編」

 

第百三話「邂逅(かいこう)」

 

第百四話「電光石火」

 

第百五話「初志貫徹と生々流転」

 

第百六話「デュカルト王の逆襲とブラスト将軍の息子」

 

第百七話「赤い炎の城壁」

 

第百八話「カムイ元帥出撃とデラシーズ国軍の脅威」

 

第百九話「シラスター王の覚悟」

 

第百十話「世界大戦の予兆」

 

第百十一話「最初の奇跡」

 

第百十二話「トリメキア国誕生」

 

第百十三話「カムイ元帥の悪巧み」

 

第百十四話「メシア(救世主)とは」

 

第百十五話「丘上の同盟」

 

第百十六話「ゲリラ戦」

 

第百十七話「ロンギヌスの槍」

 

第百十八話「デラシーズ国軍兵士の性質」

 

第百十九話「Turning Point」

 

第百二十話「ラスティの選択」

 

第百二十一話「変革」

 

第百二十二話「運命を変える道」

 

第百二十三話「決別の真意」

 

第百二十四話「亜魔王種」

 

第百二十五話「魔王ロドリアス」

 

第百二十六話「生還と選択」

 

第百二十七話「ラスティの歩く道」

 

第百二十八話「待雪草が芽吹く場所」

 

第百二十九話「不思議な縁」

 

第百三十話「脱出と戦況」

 

第百三十一話「類似性と共感」

 

第百三十二話「革命児のこころ」

 

第百三十三話「混迷と伝わる心」

 

第百三十四話「革命的発想と違和感」

 

第百三十五話「何者にもなれない王」

 

第百三十六話「天賦」

 

第百三十七話「デラシーズ国軍の危険性」

 

第百三十八話「マルカスト元帥とチグリット国」

 

第百三十九話「魂の友」

 

第百四十話「亜魔王種に勝った人間」

 

第百四十一話「チグリット国の性質」

 

第百四十二話「窮地がチャンスに変わる瞬間」

 

第百四十三話「マーリアと魔王テチカの仲違い」

 

第百四十四話「ゴルダーオの崖」

 

第百四十五話「マーリアの残像」

 

第百四十六話「分岐点に影が射す」

 

第百四十七話「新たなる人間の勇者誕生 前編」

 

第百四十八話「新たなる人間の勇者誕生 後編」

 

第百四十九話「リュエラの予言とナタルの予言」

 

第百五十話「人間の勇者と審判者」

 

第百五十一話「空は青く晴れ渡り」

 

第百五十二話「マーリアの知略」

 

第百五十三話「責務と情け」

 

第百五十三話「ガッパの消息」

 

第百五十四話「真相と打開策」

 

関連記事 ガッパの消息 12魔王ラフ画

 

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あとがき

 

そろそろ桜の花見の季節ですよねヾ(@^(∞)^@)ノ

 

私は梅も大好きですが桜も大好きです\(*´▽`*)/

 

桜って儚いイメージあるそうですが

 

私は子供の頃から儚いというイメージは全然ありません¢( ・・)ノ゜ポイ

 

特に風に舞う桜吹雪って華やかで陽気なイメージなのです

 

時折風に舞う桜吹雪の鮮烈で綺麗なイメージは花火とはまた違った華やかさがあります

 

なんかパッと咲いてバっと散るイメージばかりが肥大化しいるようですが

 

私はそんな性質より、この桜吹雪の華やかさこそ素敵だと思うのですが:.゜ヽ(*´∀`)ノ゜:。+゜

 

共感はいままであまり得られませんでした(=◇=;)

 

このように捉え方や感受性の違いによって、物事の風景や人物像さえ違って見えてきます

 

キャラたちのそれぞれの目線でみれば、同じ人物でもかなり違ったイメージになりますよね

 

当然ながら魔王もそれぞれ独自の物事の捉え方感受性を持っている

 

更に考え方の違いも付加されることで、それぞれその魔王独自の世界観が確立している

 

それを何千年も守り続けているのだから

 

今からそれを新たにすると言ってもそう簡単に変えられるとは限らない

 

時代の変化特に大転換期においては、今までの常識は通用しなくなる事態が起きます

 

当然捉え方も変える必要があるのですが、すぐに帰られる方もいれば

 

直ぐに変えられない方もいて、様子を見ながら堅実に生きる方もいれば

 

ファーストペンギンのようにいち早く乗り出す方も現れます

 

こういう時、個性の多様性の必要性を感じますよね

 

普段は迷惑な人でもいざとなれば世の中の役に立つ場合もあります

 

シラスター王も王宮では迷惑な王のようです(* ̄m ̄)プッ

 

しかし時代の転換期には、こう言う人物が必要になってきますよね

 

ということで次回は、魔王テトとの謁見を中心に

 

魔王テチカ以外で今魔王界で起きている騒動について少しばかり触れてみます

 

もちろんその影には亜魔王種たちの策略が働いていますが

 

元々魔王たちが抱えている問題でもあり、亜魔王種はそれに付け込んだに過ぎません

 

亜魔王種たちも自分たちが危機的状況に立たされていることを自覚して

 

何とか回避すべく必死なのかもしれませんね

 

更に奴らは自分たちの目的も決して諦めてはいない

 

魔王を悪の権化のようなイメージで滅ぼして自分たちがそれに取って代わる

 

つまり危機を回避する反面、その目的遂行も同時に行っているΣ(@@;)

 

どうやら魔王会議をする前に解決しなければならない問題が魔王界に起きている

 

そんな可能性を感じます(((゜д゜;)))

 

現実の世界で夢を果たすために懸命に生きている方であれば

 

実際こういう感じで次から次へ問題が発生する体験もされていると思います(=◇=;)

 

私も体験的にこういう事態に陥った時には必ずと言って良い程成功が近いヾ(@^(∞)^@)ノ

 

果たしてそれを描けるかしら∑(-x-;)汗

 

まる☆