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何でもアル牢屋

趣味丸出しの個人コラムです。フラっと立ち寄れる感じの喫茶店的なブログを目指してます。御気軽にどうぞ!

角川映画の犬神家の一族(76)。市川崑監督の記念すべく金田一映画シリーズの一作目

終わってみると一連の事件は佐清(すけきよ)が戦争から帰ってきて真っ直ぐ犬神家へ帰っていれば起きなかったと思われる。犬神家の主である犬神佐兵衛(いぬがみ さへい)は孫の珠世(たまよ)と佐清が相思相愛である事を知ってる上で遺言状に策を施している。犬神家の全財産は珠世に譲られる。しかし条件が付いており、犬神家の跡取り候補である佐清、佐武、佐智の三人の中から一人、夫となる男を選ばなければならない。当然、珠世は佐清を間違いなく選ぶ筈なので無事に相続は終わっていた筈だった。ただ、佐兵衛の失敗は青沼静馬と言う別腹に産ませた男児の存在で、まさか成人した彼が偽・佐清になって潜り込んで来るとは計算に無かったろうと思われる。しかし静馬は佐兵衛の直系の息子に当たるので遺言でも無視されてはいない。多少のオコボレを貰える微妙な立場だった。

事件の特徴は子が殺人未遂を犯し、子を庇う親が影ながら後始末をしている。ネタバレのようになってしまうが、この映画は親子の愛情と言うか絆を描いてる風にも見える。

 

猿蔵とは何者だったのか?

 

珠世のボディーガード・猿蔵(さるぞう)。猿蔵と言うのは本名ではなく、あだ名である。その由来は顔が猿に似ているからなんだそうである。では馬面だったら馬蔵、ウサギ顔だったらウサ蔵になっていたかもしれない。

彼は小さい頃から孤児であり、それを不憫に思った珠世の母、祝子が引き取り養育した。珠世とは小さい頃からの幼馴染みだったようだ。やがて珠世の両親が亡くなり珠世は犬神家に引き取られた時に一緒について来た。ついてきたと言うよりも珠世が連れて来たのだろう。珠世が身の回りで困った時は常に猿蔵が助けてくれる。

喧嘩の方も達者で逞しい彼を何かと頼りにしていたのだろう。猿蔵としては、珠世から御呼びが掛からなければ、犬神家にも野々宮家(珠世の実家)にも関わらずに別の人生を歩んでいただろう。思うに、猿蔵と珠世は幼い頃から一緒に過ごして来た訳だし、珠世に対し恋愛感情は出てこなかったのだろうか?。歳を重ねるごとに美しくなっていく珠世を見てきて恋する感情はあったのではないだろうか。御嬢様である珠世と幼い頃から孤児である自分とを比べてきたに違いない。

猿蔵は犬神佐兵衛からも「命に代えても珠世を守れ」と命令されている。そして彼は見事に事件解決まで珠世を守りぬいた。映画での猿蔵は渋すぎていて、セリフは、たった二言。珠世が佐武に襲われた時に助けて放った一言「今度やったら殺す」と、事件が解決し金田一を見送る為に花束を用意し「あの人の事忘れられない」と言っただけだった。この、たった二言に重みがある。それを聞いた時に「あ~・・・事件は終わった」と観る方も安心するのだ。

 

「少林寺の長老達を殺したのは、アイツなんだ」
黒龍党との大乱戦を脱した英風は、頭を割られ絶命したコウジュを抱くコウ・シンチュウ達を見ながら言った。「皆に会わせたい人が居る」
飛虎党首領のコウ・シンチュウ、四川唐門派のシュンラン、牢屋で兄弟の盃を交わしたロ・ロウカイ達。英風の案内で連れられた場所は滝の流れる庵であった。そこに姿を現した一人の老師。視聴者は、この老師に見覚えがある。冒頭に登場した8人の長老の一人であった。この事件の真相は一体何だったのか?老師は事の次第を語り始めた。

「去年、中秋の事だ。少林寺の八流派は会合し、各派の鍛えられた技を結集して蛇鶴八歩の拳を完成させた。その後、長老達は皇帝廟の前に集まり、更に武芸について語り合った。しかし、泉の水を飲んだ後、一同は突然苦しみはじめた。泉の水に毒が盛られていたのだ。気付いた時には既に遅く、覆面の男が現れて我等に襲い掛かった」

此処で回想シーンが始まる。

拳法を極めた達人たちも毒にはどうしようもなかった。一人倒れ、二人倒れ、バタバタと絶命していく長老達。倒れずにフラ付く者は覆面の男に容赦無く斬られ、遂に一人だけとなる。斬りかかる覆面男の猛攻を見事に捌いていく長老。鶴の拳を駆使し劣勢から反撃に転じる。長老の一撃が肩に当たり、破けた個所から覗いたのは青い痣であった。怯みはしたものの、刀を持って向かってくる覆面男だったが、長老は刀を持つ腕を取り、遠心力を利用して逆に覆面男の足を斬りつけ負傷させる。動きが止まった隙をついて長老は場を脱し、上り坂の林を息を切らせながら落ち延びていく。そこに現れたのは一人の青年だった。

「ワシは徐英風に助けられ、殺人者を見つけ出して復讐する事を誓った。そこで徐英風を我が弟子とし、蛇鶴八歩の拳の極意を仕込んだのだ。暗殺者が覆面をしていたのは八流派のいずれかの門人である事を隠す為だとワシは睨んだ。よってワシは此処に身を隠し、徐英風に探索を委ねた。徐が極意書を持っている事を故意に見せつければ、暗殺者はそれを奪いに現れるだろうと思ったのだ」

そこまで長老が話すと、一行の一人が口を挟む。「老師、犯人は黒龍党の宣と知れました。我等は力を合わせ、奴と一派を叩き潰してやりましょう」

だが長老は言う「南無阿弥陀仏・・・それでは更に多くの血を流す事になろう。ワシは九龍の矛の権威を持って、少林寺八流派の同志を招集し、全てに決着を付けるべく、黒龍派の宣に対して果たし状を叩き付けるつもりでおる」

九龍の矛について、何度も作品は観てきたが、全編通じてよく分からない。それについて冒頭の部分でちょっとした説明があったのだが、そこから考察するしかない。それが以下の説明。

「長老達は、この拳法の極意を記録に留めた後、極意の書は権威の印として九龍の矛を添え、盟主たる民主の保管に委ねられた。これを持って、天下に平和をもたらす為であった」

この説明から判る事は、舞台の時代背景が平和ではなく乱れている事。余談だが、アクション俳優のジェット・リーの出世作となった「少林寺」と言う映画では国の官軍と圧政を強いる反乱軍の戦いが描かれていたが、もしかしたら同じ時間軸なのかもしれない。群雄割拠ほどでなくても、各地で細かい反乱が起きており、治安が悪い状態。

俗世から離れた少林寺の僧達が下界に出来る事は何か?と思案した末に辿り着いた天下平定の究極拳。それが蛇鶴八歩の拳なのかもしれない。とは言え、やはり九龍の矛の存在は、よく判らない。蛇鶴八歩の拳の完成を祝った記念物と考えた方が簡単なんであろうか。

 

ここから先はラストバトルに入ります。最終決戦の記事を作ってみたものの、結局、実況中継みたいになってしまうし、観た方が早いだろうと思うんで、最終決戦の徐英風VS宣大人の吹き替え版を貼って置きます。そちらを御覧下さいと言う事で、この企画、終わりにしたいと思います。

と言う事で後書きなんですが、動画流行の、この御時勢に、敢えて、こう言った文章で表現する事が挑戦だと思いました。映像作品を敢えて文章化させる。実の所、メリットがあって、映像を観ただけでは判らない不明な部分を考察する事が出来ます。この蛇鶴八拳は子供の頃から大好きなジャッキー作品で、リアルタイムで神奈川県・川崎市の映画館に観に行きました。当時の私は7歳か8歳だったと記憶してます。

衝撃的に印象に残ったのは敵役の宣大人の頭突きで、頭突きにこれほどの威力と殺傷力があるのか?と幼心に驚きました。頭突きを格闘として用いるのは、我が国・日本では<相撲>がそうで、立ち合いで<ぶちかまし>と言う正式な技があります。一方の中国の少林寺にも頭力と言う頭を鍛え武器として使う技があります。そもそも頭突きは、どちらが源流なのか?色んな諸説はあると思いますが、おそらく中国が先であろうと考えます。やっぱり歴史的背景を見ても、日本の今の相撲は精々、江戸時代辺りが始まりで、中国の少林寺ともなると、かなり古い時代だし、体術を駆使した格闘の源流は中国からと言う説もあるから、やっぱり頭突きは中国の少林寺が発祥じゃないかと思ってます。

 

 

第六章 一騎当千の怪物・宣大人!

 

牢獄から脱走した徐英風は捜索に行き詰っていた。牢屋で意気投合し、義兄弟の盃を交わし、一緒に脱走したロ・ロウカイと言う素性の知れない拳法使いのオヤジは英風に聞く。

「なあ、若いの。なんで又、肩に痣のある男を探さにゃならんのだ?」

「兄弟。それは今、言えないんだ。申し訳ないんだがな・・・」

「そうか・・・じゃあ聞くまい。しかし探すと言っても、どうやって探すつもりだ」

「これまでに黒龍派の頭以外は全部見た。もしアイツがそうでないとすれば、探す手がかりも無いし、全くの御手上げって事になる」

「へへ、、黒龍派なら話は簡単。このワシがすぐ連れてってやるわい。さあ来い!」


この会話の時点で、ロ・ロウカイと言うオヤジが堅気の人間ではない事が伺える。拳法をかじり、下々の者と交際し、ヤクザとも付き合う。流れ者の無頼漢(ぶらいかん)と言うべきか。一方、黒龍党では、宣大人と方正平の二人で、こんなやり取りが行われていた。

「徐英風が牢から脱走したと言うのは間違いあるまいな」

「はい。確かですが、今何処に居るかは判っていません」

「うむ・・・しかし、この圏内に居る限りは必ず見つけ出してやる。方正平、耳を貸せい」


宣大人の策は<流言の計>だった。それは近々、敵勢力へ攻め込み、御宝を強奪しに自らが指揮を執ると言う噂を圏内にばら撒き、圏内に居るであろう徐英風に知らせる為であった。

宣大人は更に、もう一手の策を方正平に授けた。方正平の率いる輸送隊を敵対勢力の盗賊に襲わせ、通りすがる徐英風とロ・ロウカイに見せつける様に争わせる。要は誘き出し作戦である。この誘き出しは宣大人、徐英風、両者ともにメリットがあった。徐英風は犯人捜索の容疑者の中で唯一会っていない黒龍党首領の宣大人へ面会が目的であり、一方の宣大人は、この機とばかりに自ら英風に手を下し極意書を強奪する予定だった。だが事態は宣と英風の両者の予想を裏切り、シュンランが飛虎派のコウ・シンチュウに事の次第を告げ、此処に黒龍党VS飛虎党&四川唐門・連合軍が大激突と言う展開を迎えた。そして徐英風と方正平。裏切りの決別以来の再会であった。徐英風は涼しい顔で言う。

 

「おい方、これだけの人数を出して大芝居するとは御苦労なこったな」

「お前さんが隠れてて、出てこようとしねえからだよ」

 

前半の両者の関係を振り返れば嘘みたいな荒っぽい会話である。方の口調も以前の口調ではなく憎々しく悪意に満ちている。

「首領は何処だ」

 

「さっきから待っておいでだ」

 

遂に対峙した徐英風と宣大人。宣は言う。

 

「観念して極意書を渡すか。それとも生け捕りにされたいのか」

 

そんな火花を散らす宣と徐のやり取りに割って入ったのは、ロ・ロウカイだった。

ロ・ロウカイは「本物の戦いを教えてやる」と目の前で宣大人に大胆発言をし、先制攻撃を仕掛けていく。ロウカイのキセルを使った攻めが不意に宣大人の襟元を捲ると、そこにあったのはまさしく<肩の痣>であった。遂に見つけた肩に痣のある男。その正体は黒龍党首領・宣大人であった。俺が代わると英風はロ・ロウカイに横入りするが、乱れた服装を正す宣が言う。

「こいつは好都合だ。四川唐門に飛虎派まで首を揃えているな。まとめて片付けてやるぞ!かかれい!」

大激突の両陣営。この戦いでの主役は徐英風でもなくシュンランでもない。宣大人の独壇場であった。圧倒的な戦いのセンス、立ち回り、二対一と言う状況を作って臨むも攻守ともに付け入る隙が見当たらない。観る側としてはコウ・シンチュウVS宣大人と言う首領同士の、ちょっとした夢の対決が展開されるも、コウ・シンチュウの腕を持ってしても宣に傷一つ付ける事も敵わなかった。
激戦の中でシュンランの付き人・トウユウ、コウジュ、そして裏切りの星・方正平の三名が戦死。激戦はコウジュの死によって沈静化し、周りを見渡せば黒龍の手下は全滅、宣大人を残すのみとなった。が、宣大人の奮戦は止まらない。ロ・ロウカイが危ない所だったが英風が救出。続いてコウ・シンチュウの副官(名前は無し)が宣に躍り掛かり、近くに居た英風に戦線離脱を促す。
規格外の戦闘力を誇る宣大人、コウの副官は、もはや、この怪物に勝とうとは思わなかった。コウ首領並びに徐英風一行を戦線離脱させる事には取り敢えず成功した。今、自分に出来る事は何かと考える。一方の宣は、去り行く英風一行の後姿に視線を移すと「俺一人で片付けてやる、皆殺しだ」とばかりに片手に刀をもって追撃を開始。
副官は追撃する宣を後ろから拘束した。副官が出した今出来る事の答えは時間稼ぎをする事であった。副官は思う。「勝たなくていい!時間を稼ぐんだ!それだけで十分だ・・・」
「邪魔だ!」と宣が吼えると、次の瞬間、副官の腹に激痛が走った。背中側に潜り込ませた宣の刀が副官の腹を切り裂いたのだ。激痛と同時に後ろに仰け反る副官。再び追撃を開始する宣大人。副官は最後の力を振り絞り又しても背後から拘束する。

「離せーーーい!」

「コウ首領ーーー!御嬢さんの仇をーー!」


それが副官の最後の叫びだった。

 

次回へ続く

 

第五章 方正平とコドウ
 

英風の宿泊する宿屋で、いつも見掛ける眼つきの悪い怪しい男・方正平(ほう せいへい)。これが初見の視聴者の印象であろう。
最初、何をするでもなく常に傍観者として英風の乱闘を見届け、敵なのか味方なのか素性が明らかにならない。蔡夫人と第二婦人との戦闘の最中、英風の優勢、夫人達の劣勢が決定的となった辺りで、ドカンっと扉を蹴り破り乱入して来た男。それが方正平であった。方は有無を言わせず英風の目の前で二人の夫人を刀で斬り殺し、駆けつけてきた部下三人も返り討ちにして自分の素性を明かす。

「英風殿、私は峨眉派(がびは)の直系の弟子、方正平と申します。貴方が此処に入られるのを偶然お見掛けし、危険があるのではと思い、こうして駆けつけました」

この後、何処からともなくやって来たコウジュに「極意書が目的なんだろう」と、痛い所を突っ込まれるが怯む事無く、こう返した。

「英風殿、私は確かに極意書を追ってやってきたのですが、私の技は到底、貴方に及ばない事が判りました。どうか極意書を奪われる事無く、少林寺八流派の消滅の謎を解いて下さい」

これ以上ないほどの潔さと正直さを披露して方正平は爽やかに英風の下を去っていく。視聴者はきっと「なんて素晴らしい武人だろう。この先も英風に協力して一緒に戦ってくれる仲間になるに違いない!」と、この時点では間違いなくそう思う筈だ。
以降、暫く方正平は姿を見せなくなる。次の彼の登場は先に述べた英風がコウジュの正体を見破った後の展開。英風とコウジュが耳を澄ますと、近くで何やら乱闘している声が聞こえてくる。早速駆けつける二人。駆けつけた山岳地帯で二人が見つけたのは、黒龍党の幹部・コドウと手下達、方正平の両者が争っている光景だった。

多勢に無勢、包囲され奮戦するも、方はコドウに肩口を斬られて負傷してしまい絶体絶命のピンチ!そこに英風とコウジュが加勢すると形勢は逆転し、コドウ一派は、その場を退散し、英風は方の傷の手当ての為にコウジュに薬を持ってこさせ、英風と方の二人は近くの廃墟へ身を隠す。介護をしながら英風は言う。

「方さん、まず休む事だ。黒龍の手下達が何故、あんたを?」

「及ばずながら私も、英風殿に陰ながら力を御貸しして極意書を守ろうと思い、それで目を付けられたのです」

英風からすれば、もっともな返答が返ってきた訳だ。次の瞬間、手裏剣が飛んできた。コドウ一派が引き返してきたのである。コドウは言う。

「役目を果たすまでは、例え地の果てまでも貴様を追いかける!」

再び乱戦が始まった。方は負傷して満足に戦えない。英風は守りつつコドウ達の猛攻を防がなくてはならない。この戦いで英風は敵の一人も殺していない。奪った刀で戦うも全て峰打ちで処理していく。慈悲深いと言うか、殺生を好まないと言うか、英風と言うキャラの個性がこういった場面でも好く表現されている。
雑魚をあらかた片付け、コドウは焦りだす。英風は二刀流で刀を二本持つと、一本を方に預ける。自分の身を守れと言う無言のコンタクトだ。

「どっちも逃がさんぞ!」

コドウは、この劣勢で何故か自信有り気だ。異様と言うか明らかに空気が不自然だ。英風は何を感じただろうか。次の瞬間、決定的な出来事が起きた。後ろに控えていた方正平が不意に英風の背中を斬りつけてきた。
何故だ?
何だ、何が起きたんだ?
堪らず倒れ込む英風。見上げると方正平が不敵な笑みを浮かべてコドウと並んでいる。

「コドウ、あんたの言う通りだ。黒龍派の敵は死あるのみだ。まんまとヤラレたな」

「お前は峨眉派の弟子じゃないのか」

「何を隠そう俺は黒龍派の一門さ!」


次に英風は、厳しい現代社会を生きる我々視聴者に非常に有益な教訓を披露してくれる。

その1:友情を押し付けて来る奴には気を付けろ

その2;やたら親切面の奴を信用するな


この二点である。
したり顔のコドウは言う。「お前も頭が回るらしいが、我等の御頭には敵わんようだな」
全ては宣大人の計略であった。思えば全てがおかしかった。宣大人が初登場するシーンで顔を見せない報告者が英風の動向を報告するシーンがある。この見えない男こそが方正平であった。英風の近辺をうろつき、逐一、密偵として情報を送っていた訳だ。そして蔡夫人との戦いの途中、何処からともなく現れた方正平。留めを刺された蔡夫人の表情は何かを訴える様だった。山岳戦での戦いもタイミングが絶妙だった。負傷した後に近くの廃墟に行くであろう事も計算していた。コドウ達は弱った方正平を襲うと見せかけて、どさくさに紛れて<方が英風を奇襲する作戦>だった。全てが上手くいった訳だ。

コドウについて考えてみよう。
蔡夫人と第二婦人の誘惑の計が失敗に終わり、宣が次なる策を授ける手下として登場したのがコドウだった。強面で堂々たる物腰と態度、雰囲気から察するに相当に信頼のおける部下なのだろう。後に「任務を終えるまでは仕事を辞めない」と豪語したように、仕事において完璧主義をモットーにしている事が伺える。コンビとしてのコドウと方正平の関係はどうだったのであろうか。方は単独行動・密偵型、コドウは兵を率いる隊長型とすれば、役割は違ってくるし、手柄争いの類も、ほぼ無いと言えるだろう。方が誘き出しコドウが仕留めると言う連係プレイ。
 

さて、英風最大の危機。そこに颯爽と登場する四川唐門のシュンランとトウユウの二人。二人の乱入で形勢は逆転し、第二ラウンド。そんなコドウは再度の乱戦の最中、シュンランとタイマン勝負になり、シュンランの投げた笛がブーメランの様な軌道を描き、コドウは頸動脈を切り裂かれ呆気無く死ぬ。(ちなみに死に顔が笑える)せめて最終決戦の前哨戦まで生きていて欲しかったキャラである。
その後、負傷した英風は飛虎派のコウ・シンチュウに拘束され投獄される。漁夫の利を狙うコウの老獪な戦略である。一方、千両役者・方正平は、英風が脱走した事を宣に報告し、又しても策を授かって次なる罠を張るのであった。

 

次回へ続く

 

第四章 黒龍党の蔡夫人と第二婦人
 

徐英風は、いつ何処に居ても誰かに因縁を付けられる。特に迷惑なのは飯の最中。髭面の強面男が二人の部下を連れツカツカと自分の席にやってきた。髭面は言う。

「あんただな、徐英風は」

「そうだ」

「すまんが、来て貰えないか」

「何処へ」

「ある御屋敷だ。貴婦人が御呼びだ」

「どんな貴婦人だ」

「黒龍党党首の令夫人・蔡夫人だ」


この後、英風は自分はへそ曲りであり、怖い髭オジサンと喧嘩をしたくなってしまう性分を明かす。この言葉に嘘がない事は、序盤のチンピラ三悪人が後に助っ人を連れて英風にリベンジしに来た際、助っ人の顔も<怖い髭オジサン>であった事からも伺える。
黒龍の手下を軽く打ちのめした後、「まだ、連れていきたいか?」と聞き、髭オジサンは「もう、結構です」と降参。英風は「だったら行ってやろう。もう来なくていいと言われると行きたくなる」と返して捻くれぶりを全開!
 

やがて蔡夫人の待つ屋敷へやってきた徐英風。招かれた部屋では妖艶な美女が優雅に侍女と戯れている。

「お前が徐英風なの」

「そう、徐英風」


英風はおもむろに彼女の髪の匂いを嗅ぐ。「あんた、蔡夫人じゃないな」

「どうして判るの?」

「どうしてって、見りゃ判るぜ」


この辺の返しも英風の垢抜けたセンスが伺える。
奥の間から、もう一人の美女が姿を現した。「貴方に御会いした事があって?」

「いや、会った事はないけどね。でも聞いた事があるんだ。蔡夫人は美しいばかりでなく、好い香りが漂っているそうだ」英風は最初の女を指さして言う。「彼女は美人だが、香りがないモンね」

このやり取りを見る限り、どうやら蔡夫人は世間で有名人らしい。しかも悪名ではなく、優雅で美しい存在として認識されている。しかし惜しむらくは悪名高き宣大人の正妻である事であった。玉に傷というやつだろうか。
言うまでもなく蔡夫人の目的は極意書である。この時点では宣大人の存在を英風が重要視する筈もないが、初の間接的な接触であった。所で、蔡夫人は傍から聞いてても「え?」と耳を疑いたくなる様な取引を要求している。その取引とはこうだ。

「銀十万両、それに、あの子達(侍女たちの事)、彼女(一緒に居た第二婦人の事)と私」

明らかに、どう考えても英風を殺しに来ている条件だ。第一、未亡人でもないし、時代背景からして姦通罪が適用される可能性もありそうだ。
そもそも英風と蔡夫人を引き合わせたのは宣大人の策だ。宣が用意周到だったのは、夫人達がしくじる事だけでなく、しくじった後に第二の策を張り巡らした事だった。そこで登場したのが方正平(ほうせいへい)と言う男だった。

 

次回へ続く