蛇鶴八拳・物語 その六 | 何でもアル牢屋

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第六章 一騎当千の怪物・宣大人!

 

牢獄から脱走した徐英風は捜索に行き詰っていた。牢屋で意気投合し、義兄弟の盃を交わし、一緒に脱走したロ・ロウカイと言う素性の知れない拳法使いのオヤジは英風に聞く。

「なあ、若いの。なんで又、肩に痣のある男を探さにゃならんのだ?」

「兄弟。それは今、言えないんだ。申し訳ないんだがな・・・」

「そうか・・・じゃあ聞くまい。しかし探すと言っても、どうやって探すつもりだ」

「これまでに黒龍派の頭以外は全部見た。もしアイツがそうでないとすれば、探す手がかりも無いし、全くの御手上げって事になる」

「へへ、、黒龍派なら話は簡単。このワシがすぐ連れてってやるわい。さあ来い!」


この会話の時点で、ロ・ロウカイと言うオヤジが堅気の人間ではない事が伺える。拳法をかじり、下々の者と交際し、ヤクザとも付き合う。流れ者の無頼漢(ぶらいかん)と言うべきか。一方、黒龍党では、宣大人と方正平の二人で、こんなやり取りが行われていた。

「徐英風が牢から脱走したと言うのは間違いあるまいな」

「はい。確かですが、今何処に居るかは判っていません」

「うむ・・・しかし、この圏内に居る限りは必ず見つけ出してやる。方正平、耳を貸せい」


宣大人の策は<流言の計>だった。それは近々、敵勢力へ攻め込み、御宝を強奪しに自らが指揮を執ると言う噂を圏内にばら撒き、圏内に居るであろう徐英風に知らせる為であった。

宣大人は更に、もう一手の策を方正平に授けた。方正平の率いる輸送隊を敵対勢力の盗賊に襲わせ、通りすがる徐英風とロ・ロウカイに見せつける様に争わせる。要は誘き出し作戦である。この誘き出しは宣大人、徐英風、両者ともにメリットがあった。徐英風は犯人捜索の容疑者の中で唯一会っていない黒龍党首領の宣大人へ面会が目的であり、一方の宣大人は、この機とばかりに自ら英風に手を下し極意書を強奪する予定だった。だが事態は宣と英風の両者の予想を裏切り、シュンランが飛虎派のコウ・シンチュウに事の次第を告げ、此処に黒龍党VS飛虎党&四川唐門・連合軍が大激突と言う展開を迎えた。そして徐英風と方正平。裏切りの決別以来の再会であった。徐英風は涼しい顔で言う。

 

「おい方、これだけの人数を出して大芝居するとは御苦労なこったな」

「お前さんが隠れてて、出てこようとしねえからだよ」

 

前半の両者の関係を振り返れば嘘みたいな荒っぽい会話である。方の口調も以前の口調ではなく憎々しく悪意に満ちている。

「首領は何処だ」

 

「さっきから待っておいでだ」

 

遂に対峙した徐英風と宣大人。宣は言う。

 

「観念して極意書を渡すか。それとも生け捕りにされたいのか」

 

そんな火花を散らす宣と徐のやり取りに割って入ったのは、ロ・ロウカイだった。

ロ・ロウカイは「本物の戦いを教えてやる」と目の前で宣大人に大胆発言をし、先制攻撃を仕掛けていく。ロウカイのキセルを使った攻めが不意に宣大人の襟元を捲ると、そこにあったのはまさしく<肩の痣>であった。遂に見つけた肩に痣のある男。その正体は黒龍党首領・宣大人であった。俺が代わると英風はロ・ロウカイに横入りするが、乱れた服装を正す宣が言う。

「こいつは好都合だ。四川唐門に飛虎派まで首を揃えているな。まとめて片付けてやるぞ!かかれい!」

大激突の両陣営。この戦いでの主役は徐英風でもなくシュンランでもない。宣大人の独壇場であった。圧倒的な戦いのセンス、立ち回り、二対一と言う状況を作って臨むも攻守ともに付け入る隙が見当たらない。観る側としてはコウ・シンチュウVS宣大人と言う首領同士の、ちょっとした夢の対決が展開されるも、コウ・シンチュウの腕を持ってしても宣に傷一つ付ける事も敵わなかった。
激戦の中でシュンランの付き人・トウユウ、コウジュ、そして裏切りの星・方正平の三名が戦死。激戦はコウジュの死によって沈静化し、周りを見渡せば黒龍の手下は全滅、宣大人を残すのみとなった。が、宣大人の奮戦は止まらない。ロ・ロウカイが危ない所だったが英風が救出。続いてコウ・シンチュウの副官(名前は無し)が宣に躍り掛かり、近くに居た英風に戦線離脱を促す。
規格外の戦闘力を誇る宣大人、コウの副官は、もはや、この怪物に勝とうとは思わなかった。コウ首領並びに徐英風一行を戦線離脱させる事には取り敢えず成功した。今、自分に出来る事は何かと考える。一方の宣は、去り行く英風一行の後姿に視線を移すと「俺一人で片付けてやる、皆殺しだ」とばかりに片手に刀をもって追撃を開始。
副官は追撃する宣を後ろから拘束した。副官が出した今出来る事の答えは時間稼ぎをする事であった。副官は思う。「勝たなくていい!時間を稼ぐんだ!それだけで十分だ・・・」
「邪魔だ!」と宣が吼えると、次の瞬間、副官の腹に激痛が走った。背中側に潜り込ませた宣の刀が副官の腹を切り裂いたのだ。激痛と同時に後ろに仰け反る副官。再び追撃を開始する宣大人。副官は最後の力を振り絞り又しても背後から拘束する。

「離せーーーい!」

「コウ首領ーーー!御嬢さんの仇をーー!」


それが副官の最後の叫びだった。

 

次回へ続く