町の本屋さん -30ページ目

幸せのありか

「俺、彼氏の変わりでもいいよ。薫ちゃんが忘れるまで待ってる。」
と山崎さんは言った。
私は何も言えなかった。
「俺だったら、薫ちゃんに淋しい思いはさせないよ。」
「……。」
「俺にしなよ。」
山崎さんの気持ちはすごく嬉しかった。私を全く拒まない、その姿勢が嬉しかった。
うん。って言いそうになった。
このタイミング、この精神状態、山崎さんでもいいって思う。
でも私は返事ができなかった。
自分の中で拓実への気持ちにケリがついてない。このままの気持ちで付き合ったらきっと傷つく、山崎さんも私も。
「大丈夫。待ってるよ。薫ちゃんがその気になるまで待ってる。」
彼は優しく微笑んだ。
待ってる。
うれしいのに重くのしかかる言葉だ。
30歳過ぎた女が年下男にマジに恋してる。
もういい加減、結婚を考えないといけないのに。
待ってもらう年じゃないよ、お互いに。
そう思うとため息が出る。

幸せのありか

結局二人でワインを空にした。うまいのかわからないけど、お互い酔っ払えばいいっていう型だから酒は進む。今度は焼酎をチビチビ飲んでいた。お互い気持ち良く酔っていた。
「今日はどうして誘ってくれたの?」
山崎さんは言った。
「ひょっとして、彼氏にふられた?」
すべてお見通しのようだ。
「うん。」
私は焼酎をグイッとのみほした。
「彼氏なのかもわからないんだ。たまにすっぽかされる。もう、我慢の限界。」
「でもそいつのこと好きなんでしょ?」
痛い質問だ。
「好きなのかもわからなくなってきちゃった。」自然とため息が出る。
「でも苦しいんでしょ?」
「…うん。」
「それは好きだからだよ。」
山崎さんは私のことをよくわかってくれている。心の中が読めちゃうのかなって本気で疑いたくなるくらい、彼の言葉は的を得ている。

幸せのありか

私はさっそく山崎さんの買って来てくれたワインをグラスに注ぐ。
グラスのワインは濃いレッドに光る。見ためだけでも楽しめる。妖しいくらいに綺麗。
「高そうなワインですね。」
と言いながら、グラスを山崎さんの前に置くと、そのままグイッと一気に飲んだ。
「ん~、よくわからない。」
山崎さんの感想が笑えた。
「え~っ、自分で買って来たのに。普通は美味しいとか言うんじゃないですか?」
私の緊張も少しとけた。「ワインはあまり飲まないからなぁ。」
「薫ちゃんはわかる?」私も同じだ。苦笑いをして
「わからない。」
と答えた。
「あはははっ、お土産なら普通は美味しいって言うでしょ。」
山崎さんはゲラゲラ笑う。
「その正直なところが可愛いよ。」
山崎さんはそんなことをさらっと言えてしまうんだ。聞いてる私はかなり恥ずかしくなってしまう。私はどういう顔をしたらいいのかわからない。
その様子を察した山崎さんは、唐揚げを口にほおばる。
「薫ちゃん、この唐揚げうまいよ!」
と言って山崎さんは二個三個と口に入れる。
「よかった。」
私は唐揚げを食べる山崎さんを見ていた。
うまいうまいと唐揚げを食べるところも拓実に似てる。
拓実と違うのは、私を喜ばせようと気を使ってくれるところ。
女は愛されるほうが幸せなのかなって思う。