町の本屋さん -28ページ目

幸せのありか

とりあえず私は部屋に戻るしかなかった。
二日酔いで頭がぼうっとする。意識がずーっと遠いところにいて、何が現実かわけがわからない。
私はぼんやりテレビを見ていた。
ピンポーン
とインターホンが鳴った。
なんだか面倒で私は無視した。
今は誰にも会いたくない。ここから動きたくない。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
しつこく鳴らす。
やかましい。
全てのものがぼやけて感じるのに、このインターホンの音だけは、耳元で鳴ってるのかと言うくらい頭に響く。
くそやかましい。
しばらくして
「薫、いるんじゃん。」と声がした。
拓実か…。
何しにきたんだか、このガキは。
私は面倒くさく思った。「何?」
私はぶっきらぼうに聞く。
「あれぇ、薫、機嫌悪いの?」
拓実は言った。
「別に。」
拓実がうざい。
こんな時にちょこまかすんじゃねぇよ。
本当にタイミングの悪い男だ。
「薫、昨日のこと、怒ってるの?」
「そういう訳じゃないけど。」
「いつもクールな顔にしてんのに、珍しいのな。」
いちいち拓実に女のヒステリーを起こすだけ無駄だ。
「二日酔い。朝まで会社の人と飲んでた。」
「そいつ男?」
「男だけど。」
拓実の反応がみたかった。

幸せのありか

山崎さんが帰ると言うので、私は近くの公園まで送ることにした。
外は暑くて、ジリジリ紫外線が痛い。
それでも公園の木々に囲まれるとかなり涼しく感じた。
透き通る緑が気持ちいい。
ゆっくり二人で木の中を歩く。
「薫ちゃん、楽しかったよ。」
私は黙って微笑んだ。
「また誘ってくれたらうれしい。」
「いつでも、遊びに来て下さい。」
もちろん社交辞令だ。
「俺、薫ちゃんのこと本気だよ。彼氏みたいに不安にはさせないよ。」
私は目をそらした。
あんまりにもまっすぐな気持ちに目を合わせることができない。
「待ってるから。俺、薫ちゃんしかいないから待ってる。」
木の間から日の光がもれて山崎さんに当たる。スポットライトが当たったみたいに彼が光って見えた。
王子様が迎えにきたのかな。
でもなぜか全然現実じゃないような気がした。山崎さんもその言葉もこもれ日でさえも全て演出のように見えた。
うっすら意識が遠のく。
「じゃあ、またね。」
と言って山崎さんは走って行ってしまった。
私はそこから一歩も動けなくなってしまった。
私はどこに向かって歩けばいい?
自分の気持ちは誰に向いてるのか、それさえも今の私にはわからない。

幸せのありか

「いただきます。」
味噌汁のだしの匂いがたまらない。
一口いただくとやっぱり文句なく美味しい。
「美味しい。」
と私が言うと、
「ほんと?よかったぁ。」と喜んだ。
あんまり素直に喜ぶので
「いいお嫁さんになれますよ。」
と、冗談で言ってやった。
「俺を嫁にもらってくれると毎日作ってあげるんだけどな。結構便利よ、俺。」
「確かに。」
私は思わず口にしてしまった。
山崎さんは苦笑いする。
彼のこの話しやすさが好きだ。
きっと彼と一緒にいたら、毎日こんな調子で楽しいんだろうなと思う。
毎日、平凡な幸せがあるんだろうなと思う。
そう思うのに私は彼を受け入れることができない。
何か違う。
そんな気がする。