Marc のぷーたろー日記 -45ページ目

「映画はアリスから始まった」('18)

 

映画史上最初の女性監督として活躍したアリス・ギイの功績と、彼女の謎と波乱に満ちた映画人生に迫ったドキュメンタリー映画です。ナレーターはジョディ・フォスター。

 

Wikipedia「アリス・ギイ」

 

彼女の名前は聞いたことがありましたが、彼女自身については本当に全く知らなかったので、とても観応えがありました。

 

単に彼女の功績を紹介するだけでなく、彼女の存在が映画史から事実上「抹消」された経緯や、彼女の死後になって、ようやく正当な評価を得られるようになった経緯も紹介しているのはとても重要。

 

ただ、彼女の良い面ばかりを強調し、彼女の不遇は全て彼女が「女性であるから」として、単なる女性差別の問題に帰着させているのは気になります。本当にそれだけの理由なんでしょうか? もっと複雑な事情があったのではないでしょうか? そのあたりを追求するだけで、今の時代では「女性差別だ」と批判されてしまうので、誰もそこに触れようとしないのかもしれませんが、彼女の評価に対してはもっと「冷静さ」が必要だと思います。それは、この映画の作り手やインタビューを受けている人たちのあまりに「熱狂的」な様子に恐怖すら感じてしまったからです。

「マッチ工場の少女」('90)

 

誰からも愛されない薄幸な少女の姿を冷めた視線で痛切に描いた、アキ・カウリスマキ監督の代表作です。主演はカティ・オウティネン、共演はエリナ・サロ、エスコ・ニッカリ、ヴェサ・ヴィエリッコ、シル・セッパラ他。

 

Wikipedia「マッチ工場の少女」

 

どういう結末になるだろうと思ったら、「そういう方向ですか…」という感じ。

 

意外と言えば意外ですけど、それまで主人公の不幸を散々見せられた後だけに、「痛快」にも見えちゃう。

 

ただ、正味60分強と短い尺にもかかわらず、それでも「長いなぁ…」と感じてしまうほどには「面白いとは思えない」映画でした。

「鷲は舞いおりた」('76)

 

ジャック・ヒギンズの同名冒険小説を原作とし、第2次世界大戦中にヒトラーが戦局の一発逆転を狙って思いついた、英国首相チャーチル誘拐作戦に挑むことになったナチスドイツの精鋭部隊を描いたジョン・スタージェス監督による戦争冒険活劇です。主演はマイケル・ケイン、共演はドナルド・サザーランド、ロバート・デュヴァル、ジェニー・アガター、ドナルド・プレザンス他。

 

Wikipedia「鷲は舞いおりた (映画)」

 

最後の最後まで結局何を描きたい映画なのかさっぱり分かりませんでした。

 

間抜けな登場人物たちによる間抜けな話を延々と見せられるだけで、娯楽映画としての痛快さも面白さもなければ、戦争映画や人間ドラマのような深みも重厚さもない。陳腐なラブストーリーも本作を一段とくだらないものに見せてますし。

 

登場人物の間抜けさを強調することで戦争の愚かしさを皮肉ってると解釈できなくもないですが…。ブラックコメディだとしても中途半端。

 

とりあえず、間抜けな登場人物たちばかりの中で、特に米軍を超がつく間抜けに描いているのは英国人作家の作品らしいなと思いました。

「枯れ葉」('23)

 

心の内に孤独を抱えながらつましく生きる一組の中年の男女の恋の行方を、皮肉とユーモアを織り交ぜて描いたアキ・カウリスマキ監督によるドラマコメディ映画です。主演はアルマ・ポウスティ、ユッシ・ヴァタネン、共演はヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイヴ他。

 

Wikipedia「枯れ葉 (映画)」

 

地味な男女による王道のラブストーリーというのは特に目新しくはないですが、アキ・カウリスマキ監督が2017年の引退宣言を撤回してまで撮った意図がよく分かる映画でした。

 

ロシアと国境を接しているフィンランドにとって、ロシアによるウクライナ侵攻が如何に深刻なものであるかをはっきりと示しつつも、あくまで「時代背景」として描くにとどめ、「こんな時代だからこそ、小さなラブストーリーが必要なんだ」というメッセージは心を打ちます。ただ、アルコール依存症の描き方は雑でちょっと気になりましたけどね (^^;;;

 

それにしても、主人公の友人である中年男性を演じたヤンネ・フーティアイネンは、若い頃よりも50代となった今の方がはるかに渋くてイケてるのに、映画の中では「年寄りすぎて女性に全く相手にされない」設定になってるのは、笑わせようとしているにしても「ちょっと酷いんじゃね?」とは思いました (^^)

 

関連記事

「VORTEX ヴォルテックス」('21)

 

ある夫婦の老い・病気・死を奇抜な映像で描き、伝説的ホラー映画監督ダリオ・アルジェントが映画初主演したドラマ映画です。共演はフランソワーズ・ルブラン、アレックス・ルッツ、キリアン・デレ他。

 

怖い映画でした…。

 

老夫婦の最期の日々を丁寧に描いていて、そのあまりの生々しさには恐怖しか感じませんでした。

 

夫の身勝手さにしろ、一人息子の役立たずぶりも、リアルで生々しい…。

 

老夫婦と一人息子の現在の姿を通して、この三人がどんな家族だったのかが、いろいろと想像できてしまうのです。

 

ただ、画面を分割して二つの映像を同時に見せる演出は、この物語においてとても意味があるし、効果もあるのは間違いないのですが、純粋に映画を観る立場からすると、ちょっと観づらい (^^;;;

 

同時に二つの映像を観続けるのは思っていた以上に集中力が求められましたし、気が張るのでかなり疲れちゃいました (^^;;;

「Notre paradis(Our Paradise)」('11)

 

30代になって客を取れなくなった男娼と、若い男娼との恋愛を連続殺人と共に描いた犯罪恋愛映画です。主演はステファーヌ・リドー、ディミトリ・デュアデーン、共演はベアトリス・ダル、マティス・モリセ、ディディエ・フラマン、レイモンド・ブロンシュタイン、マリク・イソラ他。

 

Wikipedia「ノトル・パラディ」

 

愛し合う男女が犯罪を重ねながら逃避行する物語は「俺たちに明日はない」('67) をはじめとして定番中の定番ですが、それをゲイカップルに設定しているのはちょっと新鮮。

 

ただ、犯罪映画や逃亡劇として観ると、緊張感が全くないし、主人公がそこまでの殺人衝動を抱える背景がほとんど描かれないのでイマイチ盛り上がりに欠けるのは残念。映像としては印象的なシーンがいろいろあるんですけどね…。

 

ただ、主演のステファーヌ・リドーは「かつては美青年で超売れっ子だったが、歳を取って容姿が衰えたためにすっかり客が付かなくなった男娼」という設定にピッタリで説得力ありまくり。おそらく役作りだと思いますが、悲しいまでに崩れた裸体を晒す勇気は見事。若い頃は文字通り「美青年」のイメージだった彼が30代半ばでこういった「汚れ役」に挑戦した役者根性には感服。

 

それだけに、もうちょっと演出にキレがあればなぁと思わざるを得ませんでした。

「ロスト・フライト」('23)

 

コントロール不能に陥り、反政府ゲリラが支配する無法の島に不時着してしまった民間機の機長が、人質になった乗客を救うためゲリラと戦うさまを描いたサバイバルアクションです。主演はジェラルド・バトラー、共演はマイク・コルター、ヨソン・アン、ダニエラ・ピネダ、トニー・ゴールドウィン他。

 

Wikipedia「ロスト・フライト」

 

最近のジェラルド・バトラー主演のアクション映画の典型例って感じ。

 

50代となって以前ほど派手なアクションができなくなったのか、主演なのにアクションの見せ場がほとんどない。

 

まぁ、娯楽アクション映画としては、これはこれで楽しめなくもないけれど、それにしても…。

 

特に本作に関しては、悪役がフィリピン政府もお手上げの凶悪な反政府ゲリラという設定なのに、あまりにしょぼくて全く話にならないのはダウン

 

ジェラルド・バトラーのファンでも「何だかなぁ…」としか言いようのない出来の残念な映画でした。

「卒業 〜Tell the World I Love You〜」('22)

 

裏社会から足を洗いたい青年と出会った高校生が犯罪組織との戦いに巻き込まれていくさまを描いた青春アクション映画です。主演はスラデット・ピニワット、共演はタナポン・スクンパンタナーサーン、シラホップ・マニティクン、クナティップ・ピンプラダブ他。

 

何じゃこりゃ!?

 

いくら単なる「アイドル映画」だとしても、信じられないほど酷い出来。

 

この出来でどうして一般公開できると思ったんだろ?

 

とにかく、視聴自体が苦痛なほど酷い出来なので、出演者の熱心なファンでもない限り、敢えて観る必要があるとは、とても思えません。

「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」('21)

 

ユダヤ人作家シュテファン・ツヴァイクが1942年に自ら命を断つ直前に書き上げ、命を懸けてナチスに抗議した作品として知られる中編小説「チェスの話」を原作とし、突如ナチスに拘束される身となった公証人が、チェスを命綱にして必死の抵抗を試みるさまを描いた人間ドラマです。主演はオリヴァー・マスッチ、共演はアルブレヒト・シュッフ、ビルギット・ミニヒマイアー他。

 

どうして「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」なんていう痛快なコンゲームみたいな邦題を付けたんだろう?

 

原作を読んだことがなかったので、このタイトルから想像していた内容とあまりに違っていたのでビックリ。

 

結果的には自分好みの不条理劇だったので、それなりに楽しめたのですが、予備知識なしで観た人の中には「何じゃこりゃ!?」ってなる人も多いんじゃないかなぁ…。

 

ただ、2時間近い尺では間延び感もあり、もうちょっと短くまとめた方が良かったんじゃないかなぁという気も。どうしてもこの尺にするなら、もっとわかりやすく描いても良かったと思いますし。不条理劇好きとしては、ちょっと残念。

「ぼくは君たちを憎まないことにした」('22)

 

2015年のパリ同時多発テロで妻を奪われたジャーナリストが、幼い息子を抱え、事実を受け入れ悲しみと向き合う日々を綴った世界的ベストセラーを映画化したドラマ映画です。主演はピエール・ドゥラドンシャン、共演はゾエ・イオリオ、カメリア・ジョルダーナ、ヤニック・ショワラ、クリステル・コルニル、アン・アズレイ他。

 

予想以上に人間の感情をリアルに描写している作品だと感じました。

 

主人公によるナレーションや独白を一切用いず、主人公とその幼い息子の姿をただカメラが追いかけるだけ。それでも主人公の内面がひしひしと伝わってくる演出と演技には感服するばかり。

 

事件から数日後にSNSに綴った文章が注目され、一躍「英雄」となってしまったことが、彼にとっての「現実逃避」になっただけでなく、その「自分の言葉」に縛られる苦しみを味わうことになるのは実に生々しい。

 

不慮の悲劇に見舞われた人間の複雑な心情を、言葉で説明するのではなく、基本的に映像だけで描くことで、より一段と観る者の心に響く作品になっています。

 

ところで、生後17ヶ月の息子を演じたゾエ・イオリオには本当にビックリ。どう考えても「演技」ができる年齢ではないと思うのですが、この役を実に「的確に」演じており、もちろんそれは監督の手腕であることは間違いないのですが、それでも驚かされるばかりでした。