ことの次第(字幕版)[4Kレストア版]
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ヴィム・ヴェンダース監督が自らの苦い体験をもとに、資金難で製作の中断を余儀なくされた映画撮影隊の姿を描いたドラマ映画です。主演はパトリック・ボーショー、共演はイザベル・ヴェンガルテン、サミュエル・フラー、アレン・ガーフィールド、ロジャー・コーマン他。
簡単に言ってしまえば「商業主義的ハリウッド映画 vs 芸術家であるドイツの映画監督」の話で、実体験に基づいているだけあって、細かいエピソードやセリフには現実味があります。
そんな生々しい話をモノクロ映像で撮ることで、一種の不条理劇のような雰囲気を醸し出し、ラストシーンの急展開に説得力を与えているように感じました。
ただ、「物語」として観ると大して面白くはない。
そもそも「物語」を否定したい映画監督が主人公なので、これでいいんですけどね (^^)v
テレンス・デイヴィス監督が自らの生い立ちをもとに撮った長編監督デビュー作で、1940〜50年代のリバプールを舞台に、ある労働者階級の一家が経験する人生のさまざまな出来事を当時のヒット曲などを全編に散りばめて描いたドラマ映画です。主演はアンジェラ・ウォルシュ、共演はピート・ポスルスウェイト、フリーダ・ダゥウィー、ロレイン・アシュボーン、ディーン・ウィリアムズ他。
いわゆる「ミュージカル」の形式ではないのですが、通常のセリフよりも登場人物たちが歌うシーンの方が多い印象で、しかも場面と歌詞が絶妙に合っているので、結果的にミュージカル映画を観ているような気分に。
それはともかく、観終わった後は複雑な気持ちに。
以前の自分なら素直に「人生っていろいろあるよね…」としみじみと心に沁みる「いい映画」と思ったでしょうし、今も確かに「いい映画」だとは思うのです。
暴力的な父親を死んだ後も許さなかった次女と長男は幸せな結婚ができたようですが、父親から「贔屓」され、自分の結婚式の際には父の不在を嘆いていた長女は、暴力的ではないものの、父親と大して変わらない「クズ男」と結婚し、このまま母親のような不幸な結婚生活を送ることが容易に想像できてしまうストーリー。よくできてると思います。
そして、時系列を入れ替えているので分かりにくいですが、最終的に3きょうだいは誰も幸せになれなさそうにも見えるエンディングも印象的。
が、自分も充分に長く生きてきたせいか、こういう「本当は不幸だと自覚してるのに、それもまた人生さと達観して、幸せな部分だけを見て、いい人生だったと思い込もうとする」話にはうんざりしちゃってるんですよ。現実にはそうやって思い込むしかないし、それでいいと思うのですが、それをわざわざ映画で観たくない。
どうもこの映画を見るタイミングを間違えたみたい。別の機会に観れば、もっと「素直に」観ることができたかもしれません。
壁に守られた自給自足の楽園、2037年のノルウェーを舞台にしたパンデミックサスペンスドラマ全7話です。主演はセローメ・エムネートゥ、共演はラッセル・トヴェイ、アイリ・ハーボー、トビアス・ザンテルマン、ドミニク・オルバーン他。
現実離れしていますし、いろいろと都合が良過ぎて「おいおい」となっちゃうところはありますが、ノルウェーという、小国ながら様々な点で特異な国だからこそ成立する話であり、パンデミックを題材にしたサスペンスドラマとしてはそれなりに楽しめました。孤立主義は目先の利益に目が眩んだ大衆迎合主義でしかなく、いざという時には自ら築いた「壁」によって世界から見放され、場合によっては「隔離」されかねないとのメッセージは「なるほど」という感じ。最終的にそのメッセージがかなり弱められてしまったのは残念ですが。
出演者で特に印象的だったのは、イギリスからの難民を演じたイングランド人俳優ラッセル・トヴェイ。特徴的なルックスで、お世辞にもイケメンではないですが、いつもながら存在感を発揮していて![]()
ただ、「巨悪が倒されて全てが丸く収まるハッピーエンド」とならないのは、ハリウッド的ノーテンキさを嫌うヨーロッパらしさとも言えますが、娯楽作品としてはすっきりしなくてイマイチかな。
ところで、この時代のノルウェーもまだ立憲君主制のように見えるのに、ここまでの国難に際して国王がセリフにすら登場しないのはかなり不自然で、違和感はありました。
イタリアのシチリア島で暮らす70歳の老男性が別々に暮らす子どもたちに会うためにイタリア各地を巡る旅を描いたヒューマンコメディです。主演はマルチェロ・マストロヤンニ、共演はサルヴァトーレ・カシオ、ミシェル・モルガン、ジャック・ペラン、ヴァレリア・カヴァリ、マリノ・チェンナ他。
明らかに小津安二郎監督の映画「東京物語」('53) のオマージュではあるものの、国も時代も違うせいもありますが、こちらは「東京物語」以上に残酷な話。表現自体はファンタジックで、大人の寓話のような印象を与えていますが、ストーリーそのものはかなりリアルで生々しい。
人間は自分に都合よく記憶を改ざん・編集してしまう生き物ですが、この主人公の子供たちに関する記憶の「都合の良さ」には恐ろしさすら感じるほど。
ほのぼのとしたハートウィーミングな物語を期待して観ると、相当にショックを受けるかもしれません。
とにかく、原題をそのまま直訳した「みんな元気」というタイトルが、ただただ切なく、虚しく響く映画でした。
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ポーランド出身のアニエスカ・ホランド監督が自国とベラルーシの国境地帯の現実を通じ、自国政府の不正を描いた社会派のドラマ映画です。出演はジャラル・アルタウィル、マヤ・オスタシェフスカ、ベヒ・ジャナティ・アタイ、モハマド・アル・ラシ他。
観応えはありました。
ポーランド政府が上映を妨害したというのも、作品としての評価が高いのも納得が行きます。
この映画を観た人の多くが感情を強く揺さぶられ、国境警備隊の非人道性やポーランド政府の移民政策に対して憤りを感じるはず。そういう僕も同じです。
が、それでもモヤモヤしたものが残るのは、あまりに一方的な内容だからです。
エピローグとして、ロシアのウクライナ侵攻に伴うウクライナ難民をポーランド政府が積極的に受け入れていることを、比較として描く意図は分かります。
しかし、そもそも正式な手続きによる移民と不法入国による不法移民を同列に並べることには違和感があります。
また、そもそもの問題は安易に難民たちに不法移民を勧め、全く責任を取らずにボロ儲けしている仲介業者の存在であり、それにベラルーシ政府が政治的な目的で「乗っかってる」ことのはず。
そういった根本的な問題にはほとんど触れず、目の前で起きている悲劇をただただ感情的に「可哀想な出来事」として描くだけなのは…。
おそらくアニエスカ・ホランド監督はそんなことは百も承知で、敢えて「分かりやすく観る者の感情を揺さぶりたい」との思いで撮ったんでしょうけどね。
とにかく、この映画は確かに一見の価値はありますが、この映画だけを観て全てを分かったような気になって、何かを否定したり、批判したりしてはいけないと思います。
歩き続けないと吹き飛ぶ、爆弾付きベストをテロリストに着せられたタクシー運転手の運命を描いたスペインのノンストップアクションスリラーです。主演はルイス・トサル、共演はインマ・クエスタ、ロベルト・エンリケス、パトリシア・ビコ他。
期待値が高くなかったせいもあるのですが、とにかく思っていたよりもかなり楽しめました (^^)v
もちろん、ツッコミどころは満載。
たった一人の善良な市民を危険な状態にして晒し者にし続けることで自ら主張を訴えるというのはテロリストの手法として甚だ疑問がありますし、AIを使ったフェイク映像を使った対策は、アイデアとしては面白いですが、かなり無理がありますし。
それでも、主演のルイス・トサルのハマりぶり、そして演じる主人公のキャラクター造形は![]()
一貫した善良さのせいで主人公は危険な目に遭い続けるわけですが、そこまでの善良さがどこから来るのかが(陳腐ではあるものの)明確に分かりやすく設定されていて、そこにルイス・トサルの持ち味で説得力を与えているのがいい。
ただ、街中での大規模ロケなど、かなり大掛かりで作られたはずの映画の割に、対策本部などの屋内のセットがあまりにしょぼいのには![]()
そこはもうちょっと何とかならなかったのかなぁという感じ。
地中海の孤島で出会った一組の男女がゆがんだ主従関係を結ぶようになるさまを描いた寓話的恋愛映画です。主演はカトリーヌ・ドヌーヴ、マルチェロ・マストロヤンニ、共演はミシェル・ピコリ、コリンヌ・マルシャン他。
どちらかと言えば優男のイメージがあるマルチェロ・マストロヤンニのワイルドな役柄は新鮮だし、しかもサマになっていて![]()
そして、美しい自然の中で一段と際立つ、カトリーヌ・ドヌーヴの輝くような美貌。
とにかく、徹底して現実味や「生々しさ」を排除し、2大スターの共演をただただ美しく撮っただけの映画で、内容などどうでもいい。
まさに大人向けのファンタジー。
政府からの度重なる弾圧に屈することなく独自の映画製作活動を続けるイランの名匠ジャファル・パナヒ監督がリモートでの新作映画の撮影や思わぬ事態に巻き込まれていく自身の姿を通じてイラン社会の閉塞した現状を描いたドラマ映画です。共演はヴァヒド・モバッセリ、バクティヤル・パンジェーイ、ミナ・カヴァーニ、レザ・ヘイダリ他。
パナヒ監督が本人役で出演しているので、一見すると新作映画の撮影裏を撮ったドキュメンタリー映画のように見えますが、これはあくまで俳優が演じている劇映画。それをちゃんと分かった上で観ても、ドキュメンタリー映画のような現実味を感じます。
トルコとの国境近くの小さな村を舞台に、素朴な村民とのほのぼのとした物語のように始まりながら、徐々に不穏な雰囲気になっていき、どんな結末を迎えるのかと思いきや、「そう来たか…」と意外ではないものの、絶望的な気持ちに。
ペルシャ語の原題をほぼ直訳した「熊は、いない」というタイトルが実に秀逸。
熊そのものは一切登場せず、会話の中に「熊」が出てくるだけ。とても印象的なシーンなのですが、それがこの映画の最も描きたいポイントであることがよくわかります。
何故「熊は、いない」のか。そして本当に「いない」のか。
そこに今のイラン社会の現実があるわけです。
同性愛者の存在すら認められなかった1960年代のイタリアで不条理な裁判にかけられた一組の恋人たちの運命を描いた恋愛ドラマ映画です。主演はルイジ・ロ・カーショ、共演はエリオ・ジェルマーノ、レオナルド・マルテーゼ、サラ・セラヨッコ、アンナ・カテリーナ・アントナッチ他。
法律の恐ろしさを感じる映画でした。
ムッソリーニの「イタリアに同性愛者はいない」との考えから、当時のイタリアでは同性愛そのものを違法とする法律はなかったものの、教唆罪という極めて曖昧な法律を「悪用」して、同性愛者である主人公を「若者を洗脳して心身ともに支配した」罪で裁こうという不条理極まりない裁判。
曖昧性のある法律は、それを使う者の考え方次第でいかようにも拡大解釈できてしまう恐ろしさを描いた作品と言えると思います。
ただ、この映画で分からないのは、エリオ・ジェルマーノ扮する新聞記者の人物像。わざわざエリオ・ジェルマーノという大スターを起用していることからも、この人物が物語の中で重要な位置を占めていることは明らか。ただ、何故彼がここまでこの裁判に関心を持ち、主人公の味方をするのかが、いまいちピンと来ない。単なる「誠実な人」というだけでは説明ができないように思うのです。映画の尺ではこれ以上深く描くことができなかったのかもしれませんが、それならば4,5話程度のテレビミニシリーズにしてじっくり描いて欲しかったなぁと思えて仕方ないのです。
観終わった後に、そこが生煮えのように心に引っかかってしまいました。
チェーホフの複数の短編をもとに、湯治場で美しいロシア人の人妻と出会い、恋に落ちたイタリア人男性の恋の行方を描いた恋愛ドラマ映画です。主演はマルチェロ・マストロヤンニ、共演はシルヴァーナ・マンガーノ、エレナ・サフォノヴァ、マルト・ケラー、フセヴォロド・ラリオーノフ他。
1988年の日本での劇場公開時に観ているはずなのですが、完全に内容を忘れており、およそ36年ぶりの鑑賞。その結果、どうして内容を全く覚えていなかったのか何となく納得。
面白くなくはないのです。
映像はとにかく美しいし、ヒロインを演じたエレナ・サフォノヴァも実に美しい。
運命の皮肉をストレートに描いた結末も好み。
そして何と言っても、マルチェロ・マストロヤンニのハマりぶりは見事としか言いようがないですし。
が、主人公のキャラクターがあまりに身勝手で軽薄![]()
確かに愉快な人物ではありますし、こういう友人が遊び仲間に1人くらいはいてもいいかなと思いますが、いくら若くて世間知らずとは言え、人妻がそこまで惚れてしまうほど魅力的な人物かと言われると「それはない」。もちろん、「ありえない」とまでは言いませんが。
とにかく、この物語で最も重要なポイントに説得力がなく、所詮は「男に都合がいいだけの妄想話」にしか見えないのです。だからこその「あのエンディング」と作り手は言いたいのでしょうが、そのオチの付け方自体も「男が好む切なさ」なわけです。
むしろ、こんな主人公よりも、「聞き手」となった初老男性の人生の方がよっぽど興味深いし、彼を主人公にした方が良かったんじゃないかなと思ってしまうほど。
そんなわけで、劇場で1度観たきりで再度観ようとすら思わなかったのでしょう。