
「旅するローマ教皇」('22)
南米出身者として初の教皇に選出された第266代ローマ教皇フランシスコが、9年間で37回、53カ国を訪ねた旅を記録映像と新撮映像で綴ったドキュメンタリー映画です。
軍事独裁政権時代のアルゼンチンを生き抜いた人だけあって、歴代の教皇と比較して、かなり異色の教皇であることは確か。
また、教皇になってからも、カトリック教会が犯した過去の罪、例えば、聖職者による児童への性的虐待や先住民族の子供たちへの改宗の強要などを公式に謝罪するなど、より現代的な姿勢を取っていることも印象的です。
ただ、この映画ではそういった教皇の「良い面」だけを描く一方で、人工妊娠中絶や避妊の禁止といった保守的で前近代的な面や、賛否の分かれている「微妙な問題」については一切触れておらず、それは本作を制作する上で仕方なかったのは理解できますが、どうしても不誠実に見えてしまうのです。
結局は、観る前の予想通り、カトリック教徒向けの「教皇礼賛」映画に過ぎませんでした。
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「シック・オブ・マイセルフ」('22)
注目を浴びたいという願いが暴走し、自身を傷つける若い女性を描いたサスペンス風人間ドラマです。主演はクリスティン・クヤトゥ・ソープ、共演はアイリク・サーテル、ファンニ・ヴァーゲル、ヘンリク・メスタド他。
かなり極端な話なので、現実離れしているように見えるところはあります。
それでも、ところどころに挟み込まれる主人公の妄想がブラックな笑いを生み、極端ではありつつも「ありえなくはないかも…」と思わせるなど、「風刺」としてはとてもわかりやすい作り。特に、主人公の恋人のキャラクターを、主人公ほどではなく、現実にいそうなレベルのソシオパスに設定しているのが肝。
歪んだ承認欲求を題材にした作品というと、今の時代ではSNSが槍玉に挙げられることが多いですが、この映画はさほどSNSにフォーカスせず、昔ながらの「ミュンヒハウゼン症候群」を題材にした作品として作られているのは、むしろ新鮮な印象を受けました。
「エリザベート1878」('22)
オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の皇妃エリザベートの葛藤と孤独を描いた歴史ドラマ映画です。主演はヴィッキー・クリープス、共演はフローリアン・タイヒトマイスター、カタリーナ・ローレンツ、ジャンヌ・ヴェルナー、マヌエル・ルバイ他。
→ Wikipedia「エリーザベト (オーストリア皇后)」
伝記とされるものは、その書き手や作り手が、その人物を通して描きたいものが明確にあり、それに合わせて「脚色」が加えられるのは普通のことです。
が、この映画の場合は、脚本・監督のマリー・クロイツァーの主張が強過ぎて、もはや「脚色」を通り越して、ただの「捏造」。明らかにわかる嘘ばかり。それ自体は「言論の自由」として許容できますし、映画として面白ければ、それはそれで受け入れることもできます。ところが、あまりに押し付けがましい上に、そもそも、これっぽっちも面白くない。
観ていて憤りしか感じませんでした。
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「 ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」('22)
フランシス・フォード・コッポラ監督のギャング映画「ゴッドファーザー」('72) の製作舞台裏を描いた伝記ドラマシリーズ全10話です。主演はマイルズ・テラー、共演はマシュー・グッド、ダン・フォグラー、バーン・ゴーマン、コリン・ハンクス、ジョヴァンニ・リビシ、ジュノー・テンプル他。
→ Wikipedia「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」
細かいことを言えば引っかかるところはあります。
例えば、
史実を無視してドラマティックに脚色し過ぎ
とか、
主人公であるアルバート・S・ラディ本人が製作総指揮を務め、且つ彼の経験に基づいた、つまり、一方的に彼の目線で描かれた物語なので、かなり偏りがあり、ラディを美化し過ぎているように見える
とか。
それでも、そんな欠点を補ってあまりあるほど
面白い。
どんな妨害があっても、最終的に大成功を収めることはわかっているので、安心して観られましたし、最大の「悪役」と見られていた人物に救いがあるのも、陳腐かもしれませんが、悪くはないし、とにかく後味がいいのが![]()
また、コッポラ監督を演じたダン・フォグラーと、原作・脚本のマリオ・プーゾを演じたパトリック・ギャロのぽっちゃりコンビがコメディリリーフとしていい味出していたのも印象的でした (^^)
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「二代目はクリスチャン」('85)
劇作家つかこうへいさんの同名小説を井筒和幸監督が映画化したアクションコメディです。主演は志穂美悦子さん、共演は岩城滉一さん、柄本明さん、蟹江敬三さん、松本竜介さん、北大路欣也さん、かたせ梨乃さん、室田日出男さん、山村聰さん、月丘夢路さん、藤岡重慶さん他。
有名な作品ですし、主演の志穂美悦子さんは昔からファンなのですが、何故かこの作品だけは全く食指が動かず、これまで一度も観たいとは思わなかったのです。
が、たまたま機会があったので初めて観てみました。
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つかこうへいさんの作品とは相性が悪いことをすっかり忘れていました…。
彼の作品は舞台劇や小説、漫画やアニメといった表現媒体なら違和感なく受け入れられると思うのですが、実写の映像化だけは無理。どう考えても無理。
とにかく視聴が苦痛でしかなく、途中で何度も断念しようと思いましたが、もしかすると最後まで観れば何か楽しめる部分が見つかるかもとの一縷の望みだけで頑張って観続けたのですが、結局、最後まで苦痛なだけでした…。
長年観ずにいたのは自分にとって正解だったようです…。
とにかく、今後はつかこうへいさんの実写映像作品に近づかないように気をつけます。
「イースタン・ボーイズ」('13)
ゲイのフランス人中年男性と、東欧からの不法移民の男娼の青年との出会いとその関係の変化を描いた恋愛ドラマ映画です。主演はオリヴィエ・ラブルダン、キリル・エメリヤノフ、共演はダニール・ヴォロビョフ、エデア・ダルク他。
あらすじを読んだ時は、年の離れたゲイカップルの恋愛映画かと思いきや、全く違うテイストでちょっとビックリ。
序盤で主人公が犯罪被害に遭い、事件の顛末はどうなるのかと思いきや、その事件自体はどうでもよくなり、いきなり奇妙なラブストーリーに転調。そして2人の関係の変化を丁寧に描きつつ、終盤はスリリングなサスペンスに!!
4部構成の各章が異なるテイストになっているのが印象的で、先の読めない展開はかなり楽しめました。
そして何より、一見するとハッピーエンドの「いい話」風ですが、実はかなり残酷な話なのが、この映画の肝。
タイトルは「Eastern Boys」と複数形で、東欧からの不法移民の青年たちを意味しており、主人公と深い仲になる青年だけでなく、青年たちのグループのリーダーである「ボス」についても尺を割いて描いています。
しかし、主人公が助けるのは1人だけ。他の青年たちや不法移民たちがどうなろうと知ったこっちゃないし、むしろ「全員を強制送還してしまえ!!」くらいの勢い。青年たちのグループから受けた仕打ちを考えれば当然なのですが、主人公は移民問題にはほとんど関心がなく、「愛する」青年を救いたいだけ。この綺麗事でない生々しさ。
そして、そもそも主人公が裕福でなければ起きえなかった、つまり「金持ちが自らの欲望のために貧乏人を買う」という典型的な「搾取」から始まっていることも、その生々しさを際立たせています。
その後2人はどうなったのか、本当に「幸せ」になれたのか、気になって仕方なく、お気楽な「ハッピーエンド」にはどうしても思えず、心にもやもやとしたものが残る映画でした。
ただ、主演のオリヴィエ・ラブルダンのクールな持ち味はとても活きていましたし、彼でなければ、もっとベタベタした甘ったるい作品になってしまったんじゃないかと思います。
「僕らの世界が交わるまで」('22)
俳優ジェシー・アイゼンバーグの監督デビュー作で、世代が異なる母と息子の交流をシニカル且つコミカルに描いたドラマ映画です。主演はジュリアン・ムーア、フィン・ウォルフハード、共演はアリーシャ・ボー、ジェイ・O・サンダース、ビリー・ブリック他。
ジェシー・アイゼンバーグが脚本・監督を務めたというのが大いに納得できてしまうほど、彼のイメージ通りの映画。
とにかく、底意地が悪い (^^;;;
主人公である母と息子が、方向性は違うけれども、揃いも揃って「自意識過剰で思い込みが激しく暴走しがち」という、わかりやすく「みっともなくて恥ずかしい」キャラクターで、本当によく似た親子って感じ。
ただ、いくら風刺喜劇とは言え、あまりにわかりやすいキャラクターなので観ている方が居心地悪くてゾワゾワしちゃう (^^;;;
何となく母と息子で「めでたし、めでたし」みたいなことになってるけれど、こんなアホな2人がどうなろうとどうでもよくて、それよりも、こんな自分のことにしか興味のない面倒臭いだけの妻と息子を持った父親が気の毒でならず、むしろ「まずはお父さんに感謝して謝れ!!」と言いたくなるエンディングでした (^^)
「窓ぎわのトットちゃん」('23)
黒柳徹子さんの自伝的ベストセラー小説「窓ぎわのトットちゃん」を原作としたアニメーション映画です。声の出演は大野りりあなさん、小栗旬さん、杏さん、滝沢カレンさん、役所広司さん他。
原作がベストセラーだった当時のことは今でもはっきり覚えています。「社会現象」と言えるくらいの盛り上がりでしたからね。
でも、まったくこれっぽっちも読みたいと思わなかったんですよ…。
たぶん、単純に黒柳徹子さんに興味がない、というよりも、あまり良いイメージを持っていなかったからだと思います。「やかましいおばさん」という感じで。
そんなわけで、この映画についても興味は全くなかったのですが、実際に観た人たちの評判があまりによくて、「それならば」と思って観てみました。
結論から言うと、キャラクターデザインがどうしても生理的に合わず、最後の最後まで物語に入り込めませんでした orz
「いい話」だとは思いますし、評価が高いのは理解できます。アニメーションならではのファンタジックなシーンはとても印象的ですし、絵も丁寧でよく動いていますし。
また、声の出演に関しても、主人公を演じた大野りりあなさんの達者ぶりには感心しましたし、母親役の杏さんについては、そうとは知らずに観ていたので、てっきりプロの声優さんだとばかり思ってしまっていたほど。
1990年代以降の日本アニメにいまいちハマりきれないのはキャラクターデザインのせいなんですが、これだけは本当に生理的な問題なので自分でも残念でなりません…。
「オクス駅お化け」('22)
ウェブトゥーンのホラー短編を原作とし、韓国・ソウルに実在する地下鉄オクス駅で起きる連続不審死の真相を描いた日韓合作のサスペンスホラーです。主演はキム・ボラさん、共演はキム・ジェヒョンさん、シン・ソユルさん、オ・ジンソクさん、キム・ガンイルさん、キム・スジンさん他。戦後の日本で実際に起きた寿産院事件をモチーフに加えています。
これは面白かった (^O^)
エンドクレジットを入れても80分程度と短いのもいいし、一件落着したかと思いきや、さらにもう一捻りあり、その上で最終的に爽快感すらあるエンディング!!
実際にあった悲惨極まりない事件がモチーフになっているので、無邪気に「面白い」と言ってはいけないような気もしますが、ホラー映画としては大満足の出来でした (^^)v
「トンソン荘事件の記録」('23)
1992年に釜山の旅館「トンソン荘」で起きた殺人事件の真相を韓国の取材班が追うさまを描いたドキュメンタリータッチのホラーです。出演はソ・ヒョヌさん、チョ・ミンギョンさん他。
フェイク・ドキュメンタリー形式のホラーは今や定番中の定番になっているので、その点での新鮮味は全くないですが、そういうタイプのホラー映画が好きな人ならそれなりに楽しめると思います。
ただ、この形式の作品を観るたびに思う違和感は本作にもあり。
例えば、何かに取り憑かれた女性スタッフに対する除霊の儀式のシーンには、劇映画でしかありえないカメラアングルやカメラワークが結構あって、かなり違和感。
また、形式とは関係なく、そもそものストーリーにも違和感。
そこまで憎んでいる相手を30年以上も生かし続けていながら、事件の真相に迫ろうとする人間が現れてから、ようやく復讐を果たそうとするというのは、ひっかかるところはあるものの、まだ理解できなくもないです。でも、事件とは直接関係のない、何かを冒涜したわけでもない赤の他人を殺す意図が全くわからないのです。もし恨みが強すぎて世の中を恨むようになっているのだとしたら、同様の殺人事件はもっと起きているはず。要は、怨念を都合よく使っているだけの安易なストーリーに見えちゃうのです。
そんなわけで、違和感ばかり気になって物語に入り込めず、微妙に白けた気分で観てしまいました。








