Marc のぷーたろー日記 -48ページ目

「みんな元気」('90)

 

イタリアのシチリア島で暮らす70歳の老男性が別々に暮らす子どもたちに会うためにイタリア各地を巡る旅を描いたヒューマンコメディです。主演はマルチェロ・マストロヤンニ、共演はサルヴァトーレ・カシオ、ミシェル・モルガン、ジャック・ペラン、ヴァレリア・カヴァリ、マリノ・チェンナ他。

 

Wikipedia「みんな元気」

 

明らかに小津安二郎監督の映画「東京物語」('53) のオマージュではあるものの、国も時代も違うせいもありますが、こちらは「東京物語」以上に残酷な話。表現自体はファンタジックで、大人の寓話のような印象を与えていますが、ストーリーそのものはかなりリアルで生々しい。

 

人間は自分に都合よく記憶を改ざん・編集してしまう生き物ですが、この主人公の子供たちに関する記憶の「都合の良さ」には恐ろしさすら感じるほど。

 

ほのぼのとしたハートウィーミングな物語を期待して観ると、相当にショックを受けるかもしれません。

 

とにかく、原題をそのまま直訳した「みんな元気」というタイトルが、ただただ切なく、虚しく響く映画でした。

 

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「人間の境界」('23)

 

ポーランド出身のアニエスカ・ホランド監督が自国とベラルーシの国境地帯の現実を通じ、自国政府の不正を描いた社会派のドラマ映画です。出演はジャラル・アルタウィル、マヤ・オスタシェフスカ、ベヒ・ジャナティ・アタイ、モハマド・アル・ラシ他。

 

観応えはありました。

 

ポーランド政府が上映を妨害したというのも、作品としての評価が高いのも納得が行きます。

 

この映画を観た人の多くが感情を強く揺さぶられ、国境警備隊の非人道性やポーランド政府の移民政策に対して憤りを感じるはず。そういう僕も同じです。

 

が、それでもモヤモヤしたものが残るのは、あまりに一方的な内容だからです。

 

エピローグとして、ロシアのウクライナ侵攻に伴うウクライナ難民をポーランド政府が積極的に受け入れていることを、比較として描く意図は分かります。

 

しかし、そもそも正式な手続きによる移民と不法入国による不法移民を同列に並べることには違和感があります。

 

また、そもそもの問題は安易に難民たちに不法移民を勧め、全く責任を取らずにボロ儲けしている仲介業者の存在であり、それにベラルーシ政府が政治的な目的で「乗っかってる」ことのはず。

 

そういった根本的な問題にはほとんど触れず、目の前で起きている悲劇をただただ感情的に「可哀想な出来事」として描くだけなのは…。

 

おそらくアニエスカ・ホランド監督はそんなことは百も承知で、敢えて「分かりやすく観る者の感情を揺さぶりたい」との思いで撮ったんでしょうけどね。

 

とにかく、この映画は確かに一見の価値はありますが、この映画だけを観て全てを分かったような気になって、何かを否定したり、批判したりしてはいけないと思います。

「人間爆弾 立ち止まったら、爆発」('23)

 

歩き続けないと吹き飛ぶ、爆弾付きベストをテロリストに着せられたタクシー運転手の運命を描いたスペインのノンストップアクションスリラーです。主演はルイス・トサル、共演はインマ・クエスタ、ロベルト・エンリケス、パトリシア・ビコ他。

 

期待値が高くなかったせいもあるのですが、とにかく思っていたよりもかなり楽しめました (^^)v

 

もちろん、ツッコミどころは満載。

 

たった一人の善良な市民を危険な状態にして晒し者にし続けることで自ら主張を訴えるというのはテロリストの手法として甚だ疑問がありますし、AIを使ったフェイク映像を使った対策は、アイデアとしては面白いですが、かなり無理がありますし。

 

それでも、主演のルイス・トサルのハマりぶり、そして演じる主人公のキャラクター造形はグッド!

 

一貫した善良さのせいで主人公は危険な目に遭い続けるわけですが、そこまでの善良さがどこから来るのかが(陳腐ではあるものの)明確に分かりやすく設定されていて、そこにルイス・トサルの持ち味で説得力を与えているのがいい。

 

ただ、街中での大規模ロケなど、かなり大掛かりで作られたはずの映画の割に、対策本部などの屋内のセットがあまりにしょぼいのにはダウン

 

そこはもうちょっと何とかならなかったのかなぁという感じ。

「ひきしお」('72)

 

地中海の孤島で出会った一組の男女がゆがんだ主従関係を結ぶようになるさまを描いた寓話的恋愛映画です。主演はカトリーヌ・ドヌーヴ、マルチェロ・マストロヤンニ、共演はミシェル・ピコリ、コリンヌ・マルシャン他。

 

Wikipedia「ひきしお」

 

どちらかと言えば優男のイメージがあるマルチェロ・マストロヤンニのワイルドな役柄は新鮮だし、しかもサマになっていてグッド!

 

そして、美しい自然の中で一段と際立つ、カトリーヌ・ドヌーヴの輝くような美貌。

 

とにかく、徹底して現実味や「生々しさ」を排除し、2大スターの共演をただただ美しく撮っただけの映画で、内容などどうでもいい。

 

まさに大人向けのファンタジー。

「熊は、いない」('22)

 

政府からの度重なる弾圧に屈することなく独自の映画製作活動を続けるイランの名匠ジャファル・パナヒ監督がリモートでの新作映画の撮影や思わぬ事態に巻き込まれていく自身の姿を通じてイラン社会の閉塞した現状を描いたドラマ映画です。共演はヴァヒド・モバッセリ、バクティヤル・パンジェーイ、ミナ・カヴァーニ、レザ・ヘイダリ他。

 

パナヒ監督が本人役で出演しているので、一見すると新作映画の撮影裏を撮ったドキュメンタリー映画のように見えますが、これはあくまで俳優が演じている劇映画。それをちゃんと分かった上で観ても、ドキュメンタリー映画のような現実味を感じます。

 

トルコとの国境近くの小さな村を舞台に、素朴な村民とのほのぼのとした物語のように始まりながら、徐々に不穏な雰囲気になっていき、どんな結末を迎えるのかと思いきや、「そう来たか…」と意外ではないものの、絶望的な気持ちに。

 

ペルシャ語の原題をほぼ直訳した「熊は、いない」というタイトルが実に秀逸。

 

熊そのものは一切登場せず、会話の中に「熊」が出てくるだけ。とても印象的なシーンなのですが、それがこの映画の最も描きたいポイントであることがよくわかります。

 

何故「熊は、いない」のか。そして本当に「いない」のか。

 

そこに今のイラン社会の現実があるわけです。

「蟻の王」('22)

 

同性愛者の存在すら認められなかった1960年代のイタリアで不条理な裁判にかけられた一組の恋人たちの運命を描いた恋愛ドラマ映画です。主演はルイジ・ロ・カーショ、共演はエリオ・ジェルマーノ、レオナルド・マルテーゼ、サラ・セラヨッコ、アンナ・カテリーナ・アントナッチ他。

 

法律の恐ろしさを感じる映画でした。

 

ムッソリーニの「イタリアに同性愛者はいない」との考えから、当時のイタリアでは同性愛そのものを違法とする法律はなかったものの、教唆罪という極めて曖昧な法律を「悪用」して、同性愛者である主人公を「若者を洗脳して心身ともに支配した」罪で裁こうという不条理極まりない裁判。

 

曖昧性のある法律は、それを使う者の考え方次第でいかようにも拡大解釈できてしまう恐ろしさを描いた作品と言えると思います。

 

ただ、この映画で分からないのは、エリオ・ジェルマーノ扮する新聞記者の人物像。わざわざエリオ・ジェルマーノという大スターを起用していることからも、この人物が物語の中で重要な位置を占めていることは明らか。ただ、何故彼がここまでこの裁判に関心を持ち、主人公の味方をするのかが、いまいちピンと来ない。単なる「誠実な人」というだけでは説明ができないように思うのです。映画の尺ではこれ以上深く描くことができなかったのかもしれませんが、それならば4,5話程度のテレビミニシリーズにしてじっくり描いて欲しかったなぁと思えて仕方ないのです。

 

観終わった後に、そこが生煮えのように心に引っかかってしまいました。

「黒い瞳」('87)

 

チェーホフの複数の短編をもとに、湯治場で美しいロシア人の人妻と出会い、恋に落ちたイタリア人男性の恋の行方を描いた恋愛ドラマ映画です。主演はマルチェロ・マストロヤンニ、共演はシルヴァーナ・マンガーノ、エレナ・サフォノヴァ、マルト・ケラー、フセヴォロド・ラリオーノフ他。

 

1988年の日本での劇場公開時に観ているはずなのですが、完全に内容を忘れており、およそ36年ぶりの鑑賞。その結果、どうして内容を全く覚えていなかったのか何となく納得。

 

面白くなくはないのです。

 

映像はとにかく美しいし、ヒロインを演じたエレナ・サフォノヴァも実に美しい。

 

運命の皮肉をストレートに描いた結末も好み。

 

そして何と言っても、マルチェロ・マストロヤンニのハマりぶりは見事としか言いようがないですし。

 

が、主人公のキャラクターがあまりに身勝手で軽薄ブー

 

確かに愉快な人物ではありますし、こういう友人が遊び仲間に1人くらいはいてもいいかなと思いますが、いくら若くて世間知らずとは言え、人妻がそこまで惚れてしまうほど魅力的な人物かと言われると「それはない」。もちろん、「ありえない」とまでは言いませんが。

 

とにかく、この物語で最も重要なポイントに説得力がなく、所詮は「男に都合がいいだけの妄想話」にしか見えないのです。だからこその「あのエンディング」と作り手は言いたいのでしょうが、そのオチの付け方自体も「男が好む切なさ」なわけです。

 

むしろ、こんな主人公よりも、「聞き手」となった初老男性の人生の方がよっぽど興味深いし、彼を主人公にした方が良かったんじゃないかなと思ってしまうほど。

 

そんなわけで、劇場で1度観たきりで再度観ようとすら思わなかったのでしょう。

「サントメール ある被告」('22)

 

実際の裁判記録をもとに、生後15ヶ月の娘を死なせた罪に問われたセネガル出身の若い女性の裁判を映画化したドラマ映画です。主演はカイジ・カガメ、共演はガスラジー・マランダ、ヴァレリー・ドレヴィル、オーレリア・プティ、グザヴィエ・マリ他。

 

Wikipedia「サントメール ある被告」

 

被告人の過去を回想シーンで描くことは一切せず、あくまで裁判の様子のみに限定しているのは印象的。観ている側が必要以上に被告人に同情的にならないようする意図があるのでしょう。

 

それでも、この映画自体は被告人を同情的に描き過ぎているように見えて仕方ないのです。

 

外国人で、しかも女性であることの立場の弱さなど、被告人に同情すべき点があるのは理解できますし、そこを描きたい意図もよく分かります。

 

しかし、被告人にばかり注目するあまり、亡くなった娘の存在がないがしろにされているように見えるのです。被告人も気の毒ですが、たった15ヶ月で命を絶たれた娘の方がはるかに気の毒なのは明らかなのに。

 

この点は、主人公である女性作家が被告人にばかり注目してしまうことに対して自己嫌悪に陥るシーンがあることからもわかるように、作り手は分かった上で敢えてこういう描き方をしているのは確か。

 

事件を起こす前に被告人を社会が救うことはできなかったのか? との問題提起もあるのでしょうし、こういう描き方をする意図も分かるんですが、それでもモヤモヤした気持ちばかりが残る映画でした。

「ボーはおそれている」('23)

 

母親が怪死したため帰省する途中で中年男性が体験する悪夢のような旅路を描いたアリ・アスター監督によるスリラー映画です。主演はホアキン・フェニックス、共演はネイサン・レイン、エイミー・ライアン、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、パティ・ルポーン、パーカー・ポージー、ドゥニ・メノーシェ他。

 

Wikipedia「ボーはおそれている」

 

凄いものを観た。

 

面白いか、面白くないかと問われれば、万人受けする「面白さ」は全くないし、尺も長いので他人に積極的に勧めようとは思いません。

 

それでも、アリ・アスター監督らしい「延々と続く悪夢」の表現が好きな人は間違いなく楽しめるし、アリ・アスター監督作品の集大成のような感じ。

 

とにかく、「凄いものを観た」としか言いようがないのです (^^)

「カラオケ行こ!」('24)

 

和山やまさんの同名コミックを原作とし、歌が上手くなりたいヤクザと彼から歌唱指導を頼まれた合唱部の中学生の交流を描いたコメディ映画です。主演は綾野剛さん、齋藤潤さん、共演は芳根京子さん、橋本じゅんさん、北村一輝さん、加藤雅也さん、やべきょうすけさん、吉永秀平さん他。

 

Wikipedia「カラオケ行こ!」

 

さほど期待していたわけではなかったのですが、予想以上に楽しめる青春映画でした (^^)v

 

ただ、主人公の少年の成長、とまでは言えないまでも、「変化」のあり方や描き方として「本当にこれでいいの?」という疑問もなきにしもあらず。そこは青春映画らしい分かりやすいクリシェを敢えて避けたってことなんでしょうし、別に悪くはないんですけど、ちょっと生煮え感のような、すっきりしないものがあったりもします (^^;;;