小説NO.82 「 シュリの意向 」
「覚悟は、できているさ」
シュリのその言葉に、ルースは一瞬、
(・・・もしかしたら、俺とシュリは違う事を考えているのかもしれない・・・)
そう感じた。
ルースはこの世界は無きものとし、自分たちはこの世界の全ての命と共に、死界へと、
旅立つつもりでいた。
朱音とシュリの子も、死界へと一緒に旅立ち、またその子は新しい命になるのがいいのではないか
・・・と。
シュリが、ルースと同じ考えで居て「覚悟ができている」と言った可能性もあるが、アイコンタクトだけ
では、やはり不安が残る。
そこで、ルースは思い切って、今、自分が考えていた事を口に出してみた。
「俺は、この世界を無くして、岩砕のおっちゃんがここを築く前の状態に
戻せばいいと思うんだ。
死界の規模は拡大したほうがいいかもしれない。
でも、ここを残す必要は・・・もう無いんじゃないかって、ね。」
シュリはそっと微笑んだ。ルースが思っていることは、読めていたようだ。
そして自分が思っていることを、朱音とルースに話した。
「僕は、・・・・。」
・・・それを聞いたルースは、驚きを隠せずにいた。
「ま、待てよ。それじゃ、お前への負担が多すぎるだろ?!
そんなわけには行かねぇよ!!」
朱音もシュリの思いには驚きを隠せなかった。
(シュリは、何もかも自分で背負うつもり・・・?!)
シュリはふたりが驚くのは、目に見えていたようだ。落ち着いてふたりをなだめる。
「何驚いてるんだよ( ´ー`) 俺たちは、この世界で色んな思いをした。辛いこともあったし、今も
悲惨な状態にある。だから、ルースが言っているように、この世界は一度、無くせ
ばいいさ。
ただ、僕はこの世界で大切なこともたくさん学んだ。仲間を愛すること、その愛する仲間を守る
こと。・・・そして、自分も仲間に助けられること。
そう、誰かを必要とし、必要とされることをね。だから、これで行こうよ。大丈夫さ。
僕はやってみせる。」
「俺たち3人、バラバラになっても・・・ずっと仲間だよな・・・?」
シュリはふたりに尋ねた。
ルースはシュリの考えに、不安が無いわけではなかった。しかし、シュリの意見に、間違いはない。
彼もこの世界で初めて仲間の大切さを痛感したのだった。
もし、現世で命をなくした後、直接「死界」に飛んでいたなら、今の自分はなかっただろう。間違いな
く、心残りや怒り、哀しみといった「荒んだ気持ち」を、大きく抱えたままでいただろう。
(「死界へ行っても構わない」と今、言えるのは、ここでの時間が・・・
あったからではないか!?)
そうした思いが込み上げたルースは、シュリの意向に賛同してもよいと感じていた。
「もちろんさ。仲間に決まってるだろ?NOだなんて、言うはずがない。」
シュリはそう答えた。
朱音も、こう言った。
「そんな事聞かないでよ・・・当たり前じゃない・・・(ノ_・。)」
ルースは暫く考え込んでいたが、顔をあげると、
「シュリの、考え方に、賛成だ。さっきの俺の意見は、なかったことにして
くれ。」
ふたりに向かってそう告げた。
朱音は頷くと、「わかったわ・・・」と、小さく頷いた。
シュリの意見とは・・・一体いかなるものだったのだろうか?!
後に、それは明らかになる。
~口コミ~ こんなこと、あったなぁ。小学生時代のワタシ。
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小説NO.81 「 朱音の告白 」
朱音が朱鳳凰を壁にかざすと、
パァー・・・
と、光が広がり、壁がスクリーンのように明るくなった。部屋がさほど明るくなかったので、ミニシアター
のようだ。
シュリとルースは、身を乗り出してそこに映るものを見た。
「なんだよ・・・これ・・・(・_・;)」
映し出された光景を見て、ルースは青ざめた。シュリも一瞬目を背けた・・・が、再びその光景に
視線をを戻した。
「今、すでにこういうことになってるのよ・・・」
朱音は涙目で二人を見つめる。
そう、そこに映し出されていたのは、TOP5以下の兵士が住む塔、つまり、昔ル-スが住んでいた
塔の・・・荒れ果てた光景だった。
塔は傾き、爆発でも起こったような穴が沢山あいている。しかも、その爆発は、3人がみている
最中も、何回も起こった。兵士同士が狂ったように、喧嘩や戦いごとをしているのだ。
皆、マインドコントロールが解けたせいで、自我を持ち、これまで魔術によって抑えられていた
パワーがコントロールできなくなっているのだ。
溜め込んだ心のなかの物が、完全に破裂してしまっている・・・。
戦いをしている者、むやみに他人を殺す者、様々である。しかしこの者たちも何故自分たちがその
ような事をしているのか、理解できていないのだ。自分が勝手に動く・・・、動かずには居られない、
そういった状況であった。
「この人たちは、溜め込んだうっぷんや、哀しみが無くなるまで、誰にも止める事が
できないのよ。」
朱音は哀しい顔でそう言った。
「言葉をかけても、どうにもならない。時間が解決するまで、とことん醜い争いは終わらない・・・
そういうこと?」
シュリは眉をピクつかせながら、朱音に尋ねた。
朱音は無言で頷く。そしてこう言った。
「これを見て、それでもこの世界を意味があるものとして、存続させることができるのなら
父さんが言っていたように、すればいいの。でもね?それが無理だって、言うのなら・・・
世界を築く力を受け継ぎし者として、私はこの世界を、破壊しなければ
ならない。」
シュリも、ルースも、何もいえなかった。
既にもう、このような現実が繰り広げられているとは、思ってもいなかったのだ。地獄のような光景、
こちらが死界なのではないか、と思ってならないような世界。「この世界の必要性を探せ」というほう
が、難しいように思えた。
「父さんは、私宛に手紙の続きを書いていたの。『朱鳳凰で、世界の情景が見られる
から、そうしてくれ。その光景を見て、この世界に、手のつけようがないと感じた
ときは、俺の変わりに、俺が築いてしまった世界の幕を閉じてくれ、頼む。本当
にすまない』って・・・。」
朱音はうつむきつつ、父、健司が自分に残したメッセージの内容をふたりに明かした。
本当は、この内容はふたりには黙っているつもりだった。ふたりにこの先どうしたいか聞き、
「この世界を続けていくのが難しい」という答えをしたときは、ひっそりと自分の手で、世界を無く
そうと、考えていたのだ。その方が、ふたりを悲しませないで済む。
しかし、その一方で、朱音はこう思ってもいた。
(それは自分がふたりの悲しむ姿を見たくないだけ、エゴじゃないかしら?ここの住人で
ある、ふたりに了承を得た上で、世界の行く末を決めるべきではないかしら。)
・・・と。
その思いが勝ったため、今のような現状に至ったのである。
「そうか。話してくれて、ありがとう。ひとりで考えてるのも、辛かったろうに・・・。」
シュリは朱音を抱きよせてそういった。まだ困惑した気持ちは続いていたが、朱音がひとりで全て
を抱え込まず、自分たちに事実を話してくれたことは、嬉しかったし、感謝もしていた。
「朱音ちゃん、ひとりで背負い込んじゃさ、自分が後で辛いだけだ(*´Д`)=з話してくれて
ありがとうな('-^*)?」
ルースもできる限りの微笑みを、朱音に注いだ。
「あ・・・りがとう・・・。」
朱音は涙が止まらない。
実際、これからどうしていくのか。それを、はっきりと決めなくてはならないのは分かっているのだ
けれど・・・。
「俺たちの答えは、もう出てるぜ?なぁ、シュリ?」
ルースは朱音にそういい、シュリのほうを向くと、アイコンタクトをした。
シュリも小さく頷き、
「もう、覚悟はできているさ。」
そう答えた。
「どうするの・・・?どう、したい?」
朱音は最終的な判断を・・・ふたりに、問いかけた。
小説NO.80 「 戸惑い 」
朱音は咳払いをひとつ、してから再び手紙を読み始めた。
シュリとルースは朱音の瞳を見つめつつ、聞き入っている。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ややこしいってのはな?
ほら、赤ん坊ってのは、10か月腹の中に居るだろ?
でも、その10か月間を、朱音にこの世界で過ごさせるわけには、いかない
んだ。一刻も早く、朱音は帰らなければ、いけない。
そこで、ひとつ、魔術を教える。「時流の魔術」。
これを使うと、魔術をかけた部分だけ、早く時が流れる。
今回は、「朱音の腹にいる赤ん坊」をターゲットに、この魔術をかけてほしい。
ここに、呪文を書くぞ。ただし、まだ、声に出すな。
この手紙を読み終えてからにしてくれ。
(そして、ここには、ある魔術がひとつ、かきこまれていた。
朱音はあえてそこをとばして、続きを読む。)
朱音にその魔術をかけたら、すぐに朱音を現世に帰す扉を開くんだ。
これは、朱鳳凰で、できる。
朱音が朱鳳凰と会話し、朱鳳凰に扉をあけてもらいなさい。いいね?
これで終わりだ。
あくまでこれは、俺からみんなへのメッセージ。
あとはみんなで話し合って、ことを進めてくれ。
最後に。
俺は、元から死界の人間だった。たまたま、君たちの世界に来ていただけ。
帰った。
ただ、それだけのこと。悲しんでるやつがいたら、笑い飛ばすからな?(笑)
健司(岩砕)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・。)
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
これで、手紙は終わっていた。
朱音は暫く布をひとりで見つめていたが、その後、ふたりを見渡すと、
「おわり。」
と、紙芝居が終わったかのように、そう言った。この先に「追伸、朱音へ」という部分があったが、
彼女はそこを黙読した。驚きの気持ちでいっぱいだったが、そこは顔に、出さないようにした。
「どうするか、だなぁ。これから・・・A=´、`=)ゞ」
ルースはぼそっと呟いた。
シュリは何も口に出さなかった。彼には気になっていることがあった。
手紙の内容を読んで貰ってたところ、「世界の継続方法」と「朱音の帰還方法」しか記されていない。
この世界があれだけ悲惨な状態になったのだ。創立者の岩砕としては、一番に考える事が、ある
のではないか?
そして、朱音の動揺。ルースは気づいていないが、シュリはハッキリと気づいていた。
一体、何が隠されているのか。
すると、おもむろに、朱音はふたりに尋ねた。
「ね、ふたりは・・・この先、どうしたい?
今、廃墟を含め、王のTOP5以外の手下の居たところは、きっと大変な事になってるわ。
この先、シュリとルースがこの世界全部を・・・平和に保つ。昔よりも規模が大きくなって、
更に一回ひび割れてしまったこの世界を、ね?
やる自信は、ある?それを、聞きたいの。私は、もうすぐ・・・帰らなきゃいけない。」
再び沈黙が流れた。
「やる自信が、あるのか。」それは、ふたりにとって最も厳しい問いかけだったからだ。
自信。シュリもルースも、自信があるだなんて、言えない状態だった。
もし無責任に今、王として世界を治めようとしても、世界の全てを把握しているわけではないし、
それを調査しに、この世界を端から端まで回っている時間は・・・もう、ない。
朱音がいったように今、王のマインドコントロールが解けた兵たちの間では、きっと悲惨な事が
起こっているだろう。
殺し合い、窃盗・・・それこそ第二の廃墟のように。
「考えている、時間が無いから、僕は正直に言うよ。」
先に口を開いたのは、シュリだった。
「僕は、この世界を・・・治める自信なんてない。
ここは本来、死界に行くには早すぎた者、又は魂を浄化するには手のかかりそうな者が来る
場所だったはずだ。でも、今この世界を見てみると、どうだろう・・・?
荒れ放題じゃないか。ここで魂が落ち着くどころか、更に殺気立つ者もいる。そんな状態。
世界の意味が、無くなっていると・・・思う。」
ルースもそれは思っていた。しかもそれを治める王が自分だなんて、とも、思っていた。
曇るルースの表情を見て、シュリは続けた。
「僕は、こう思う。もしこういった世界が必要なら、一回全てをなくして、再構築しな
ければ、無理だと。」
その言葉にルースは一瞬驚いたが、考え直してみて、彼も意見を述べた。
「俺も、自分が王としてこの世界を治める自信は、今はない。
俺にいくら死界と繋がる能力があるからといっても・・・それだけのことだよな。
それなら俺は、この世界を壊したい。壊して、再構築なんてしなくたっていい。
ここの住人が成仏するまでが大変だってなら、俺は死界で頭輪さんの手助けをする。
落ち着いたら、俺はもう、自分の魂が浄化されても構わない。」
ふたりの意見を聞いて、朱音は「そう・・・。」と頷いた。迷いが彼女の顔に浮かぶ。
「朱音。君は何か、手紙の内容を隠しているね、分かるんだ。
そこに書いてある内容、教えてくれとは言わない。ただ、今の僕たちの
意見を聞いて、君が思うことも含めて、できることをしてほしいと思う。」
シュリの言葉に、朱音は戸惑いつつも頷き、朱鳳凰を壁にかざした。
光が朱鳳凰から放たれ、スクリーンのように、映像を映し出した。
そこに映っていたものは・・・。
小説NO.79 『 開かれし、手紙 』 其の弐
カツッ・・・カツ・・・
シュリと朱音が階段を上ってくる音が聞こえた。
その音で、ルースは我に返る。
(おっしゃ、もうウジウジしてないで、朱音のサポート、俺もするぞ('-^*)/!)
ルースはそう、心に決めた。
ガチャ・・・
扉が開くと少し落ち着いた朱音と、それを心配そうに見守るシュリがそこに立っていた。
「おぅ、朱音!少し顔色良くなったな(・ω・)/」
ルースがそう声をかけると朱音は嬉しそうに笑った。
やはり笑顔は大切なようだ。さっきまでは仲間の顔色を伺う余裕も無かったルースは身に
染みて感じた。朱音の笑顔、それをみるだけで少しはこちらも楽になる。
シュリも同じように感じているようだった。朱音の笑顔を見た瞬間、彼の固まっていた表情が、
和らいだからだ。
ベッドの上に腰掛けると、朱音はふたりを見渡して言った。
「今ので、だいぶ落ち着いたみたい。…なんかルース、目が赤いけど痛いとかじゃない?」
泣いていたのをばらすのが何となく恥ずかしかったルースは、
「ちょっとかゆくてさ、擦っちまっただけだよv(^-^)v」
そういってごまかした。
朱音は「そう。」と安心したように言うと、話を続けた。
「で、今もいったけど、落ち着いたから、父さんの手紙、続きを読みましょう?」
シュリとルースはハッと現実に戻った。
(そうだ、手紙はまだ途中、しかも大事なところでとまっていたんだった・・・。)
ふたりとも同じことを思っていた。
「朱音、無理じゃなきゃ、続きを頼む・・・」
シュリの言葉に朱音は頷き、布を広げて再び手紙を読み始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(赤ん坊をどうするのか)・・・こたえはたったひとつ。
この世界で、産み、シュリとルースで育ててほしいんだ。
朱音はやはり、ここにいるべき人間ではないのだから、彼女の世界で、
彼女が歩むべき人生を全うしてもらわなければならない。
朱音にとっては酷な話だと思う。
好きなひととの間にできた子供・・・育てたいのは当然だと思う。
しかし、それは「3つの世界の仕組み」として、やってはいけないことなんだ。
そして、もうひとつ、重要な事がある。
シュリ、君はもう考えているかもしれないね。
そう、次の王を作らなければならないんだ。
世界にはトップに立ち、周りを治める人物が必要なんだよ。
そして、次の王になるべき人物、それは・・・シュリではなく、ルースだ。
ルースは死界との会話をする能力が強いと見ている。
俺が君たちの世界へ行く前の下調べで、頭輪も同じことを言っていたよ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(だから・・・さっきみたいな事も、起こったわけか・・・。)
ルースはそれを聞いて納得した。
(そ、それにしても俺が「王」だなんて!(´Д`;)ガラじゃねぇよ~)
シュリは黙っていた。色々と考えているようだ。
朱音は続けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ルース、君には申し訳ないが、拒否権はないんだ。
死界の王、頭輪が推す限り、それは決まったも同然の事なんだ。
本当に、申し訳ない話だが・・・。
「無理だ」とは決して思わないでほしい。
誇りを持って、この世界を立て直してほしい。
ただ、それはひとりでは、絶対無理だ。特に前の王があんな状態だった
わけで、世界は今、荒れているからな。
そこで、協力してほしいのが、シュリ!君だ。
シュリは本来なら王になれるポジションに一番近い人物だった。しかし、
君の父親の代で世界が崩れてしまったという現実がある限り、同じ血統
の者はトップに着かないのが無難なんだ。
君の父の「マインドコントロール」は、既に解けている。
君が王になろうものなら、皆は決して意見を聞こうとしないだろう。
だからこそ、ルースが王になったそのすぐ横で、君が分かる事を、彼に
アドバイスなり、喝を入れるなり、してやってほしい。
「自分あってのルース王」ってくらいのきもちでな?
ただ、暫くは、子育てに専念しろよ(笑)?
で、だ。朱音が子を産むにあたっての事を、今から説明するから、聞いて
ほしい。
普通なら、現世と同じようにしていれば、自然と子供は出産できるが、
世界を隔ててできた子供だからな。一般的な出産・・・というわけには行かない
んだよ。
朱音は、子供の顔は見てはいけない。
つまり、子供を産むのは、現世に戻るちょうどその瞬間しかゆるされない。
自分の身だけ現世にとばして、子はシュリたちに託して去らねばならない。
ちょっとやっかいだぞ?よく読めよ?間違うと、世界が狂ってしまうから。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「何だか・・・大変な事に、なりそうね・・・。子供の顔、みれないのかぁ・・・私・・・」
朱音はいったん布から目をそらすと、ぼんやりとした視線で、天井を眺めた。
朱音の思いももちろん分かったが、シュリとルースは、この先自分たちがやらねばならない事で、
頭でいっぱいになっていた。
特にルース。「王」という言葉にどうもピンと来ないままだ。
シュリは朱音の子を自分の手で守ること、そして無事に朱音が現世に帰すことを思い描いていた。
「手紙の続きを読もう。そして、先のことを、考えていこう?」
ルースは自分の意識を高めるためにも、そして皆が一番ベストな未来を
送れるようにはそれが一番だと思い、2人に告げた。
シュリと朱音は、ルースの前向きな姿勢にやや驚きつつも、深く頷いた。
小説NO.78 「 涙の鏡 」
声を上げて泣き続けるルース。
いつの間にか、こぼした涙は床に水溜りを作っていた。涙で水溜りができるなどということは、
普通ありえない。ルース自体は、その水溜りにすら、全く気づいていなかったが・・・。
水溜りになった涙は、ルースの顔を映し出していた。
更に溜まった涙が溢れ、その雫が零れ落ちたとき、「ポチャン・・・」という音が響く。
(・・・え(゜д゜;)?!)
その音で初めて、ルースは妙だという事に気がついた。
下を見ると、床の上に表面張力がはたらいていているかのように、ゆるいカーブを描きつつ、
床より少し膨らみを帯びた、涙の水溜り・・・いや、涙でできた「鏡」ができていた。
その中にルースは両足を浸している。しかし水分が浸透してくる気配は・・・ない。
足を抜こうとしてみるルース。だが、足は硬直しているのか、そこから動き出す事ができなかった。
「俺が、映ってる。しかも下半身だけ動かねぇ・・・こんなことあるのか?普通(@Д@;?!」
周りを見渡すが、周囲の光景は何ら変化が無い。健司のいた部屋。
しかし、不思議なくらい無音だ。朱音とシュリの声も、足音も、何も聞こえない。
(一体これは・・・?)
そう思いつつ、ルースはシュリと朱音の名を呼んだ。
「シュリ~!朱音~!おーい!」
・・・返事は、ない。
まるで泣いている間に、時が止まり、自分だけが呼吸をしているような、そんな気分。
ルースは改めて、涙の鏡を覗き込む。
「おい、俺。今さ、何で俺だけ、こんな事になっちまってるんだ?教えてくれよ。」
涙の鏡に映った自分も、中から同じことを問いかけてくる。当然の現象。暫くルースはそこに映った
自分自身と向き合っていた。目は腫れており、涙のあとを残した頬が情けない。
・・・すると・・・。
「君が、ルースか?」
映った自分の顔の中から、誰かの声。
(な、なんだよこれ・・・Σ(゚д゚;)?!)
驚くルースはググッと顔を「涙の鏡」に近づけて、「そうです・・・」と、恐々答えた。
答えた途端…だ。涙の鏡の中では、ぐるぐると虹色の渦が取り巻きはじめた。足元で何かが起こ
っている。ルースはいつの間にか、恐怖心を捨て、無心でその渦を眺めていた。
「はじめまして。頭輪、だ。俺の名は、知っているよな?」
渦が回転を止めたと思うと、スキンヘッドで目つきの鋭い男の顔が現れた。
「ひぃぃ・・・!俺、死んだんですかっΣ(・ω・;|||?!」
突然の「死界の王」の登場に、ルースはあたふたし始める。逃げたいが、逃げられない…。
「違う、安心しろ。実は俺も困ってるんだ。サラって、お前の何なんだ??
今からあの子の魂を浄化するんだ。しかし、あのガキ!…いや、あやつ
ときたら、「ルースともう一回喋るまでは絶対いや~」などと抜かしおって、
逃げ回るわ、俺に噛み付くわ、バリかかれるわ、大変なんだ・・・( ̄_ ̄ i)
こんな状態じゃ、成仏なんてできっこないからな。異例だぞ、こんなの・・・」
頭輪は噛み付かれた腕をルースに見せると、「涙の鏡」の中で誰かに「3分だけなヽ(`Д´)ノ!」
と、怒鳴りつけていた。ルースからすれば、「なんだなんだ(・_・;)?!」という状況である。
「ルース~・・・逢いたかった(。>0<。)!」
突然、涙の鏡いっぱいにサラの顔が現れた。
「えーーーーー!お前、生きてたのかヾ( ̄0 ̄;ノ?!」
思わず叫ぶルース。しかし冷静に考えると違う事がすぐ分かった。頭輪をも困らせるほど暴れて
浄化されるのを拒んでたのだ、サラは・・・。死界へ行ったら大抵の者はもう次世を見て、力を無くし
てしまう、と聞いたことがある。それなのに、こいつときたら・・・
「お前~、死界の王様、困らせてるんじゃねぇよ・・・」
ルースはさらにそう嘆いた。学校から呼び出しをくらった、親族の気分である。
「じゃあルース、何で泣いてるのよ!あたいが居なくって寂しかったんでしょ?
ルース、あんたがいつもみたいに笑ってくれなきゃ・・・あたい、「妻として」名残惜しいわよ!
このまま浄化されるなんてできないわヽ(`Д´)ノ!」
「いつから妻だよ!(´Д`;)まぁいいや。 さ、寂しくならないわけ・・・ないだろ?」
ルースはサラにそう言ったが、彼女は時間が無いのが分かっているからか、ルースを無視して続けた。
「いい?ルース、もう泣かないで?もうあたいを思い出しても、あんなヤツ居たなって。
そう思って?
本当に、そう思ってくれるくらいじゃなきゃ、あたい、次の命になりきれないの・・・
ね、お願いだから。あなたのこと、ずっと、好きよ・・・」
ひっく、・・・ひっく、サラはべそをかいた。
しかしこれは、サラの本音であり、世界から離れるにあたって、ルースにだけは伝えておきたい
言葉だったのだ。
その言葉にルースは、涙が再びこぼれそうになったが、グッとこらえてニカっと笑って見せた。
「任せろ!俺は、サラを思い出して泣いたりしねぇ!お前との時間を心に置きつつ、もっといい男
になる!サラ、俺もお前が・・・・・・。好きだ、いや、好きだった。愛してたよ!」
「ありがとう・・・。」
サラはそう言うとスッと姿を消した。・・・サラが姿を消した、というより、涙の鏡自体が風のように
消え去った。
頭輪が本気を出せば、サラひとりを、抑えきれないはずが無い。
あれは死界の王が、「サラが次の世界をのびのびと過ごせるように」と
考えた結果だったのだろう。
すばらしい王、すばらしい世界だ。
ルースは小さな声で、しかし心の底から、頭輪に「ありがとうございます」と、
呟いた。




