小説NO.80 「 戸惑い 」
朱音は咳払いをひとつ、してから再び手紙を読み始めた。
シュリとルースは朱音の瞳を見つめつつ、聞き入っている。
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ややこしいってのはな?
ほら、赤ん坊ってのは、10か月腹の中に居るだろ?
でも、その10か月間を、朱音にこの世界で過ごさせるわけには、いかない
んだ。一刻も早く、朱音は帰らなければ、いけない。
そこで、ひとつ、魔術を教える。「時流の魔術」。
これを使うと、魔術をかけた部分だけ、早く時が流れる。
今回は、「朱音の腹にいる赤ん坊」をターゲットに、この魔術をかけてほしい。
ここに、呪文を書くぞ。ただし、まだ、声に出すな。
この手紙を読み終えてからにしてくれ。
(そして、ここには、ある魔術がひとつ、かきこまれていた。
朱音はあえてそこをとばして、続きを読む。)
朱音にその魔術をかけたら、すぐに朱音を現世に帰す扉を開くんだ。
これは、朱鳳凰で、できる。
朱音が朱鳳凰と会話し、朱鳳凰に扉をあけてもらいなさい。いいね?
これで終わりだ。
あくまでこれは、俺からみんなへのメッセージ。
あとはみんなで話し合って、ことを進めてくれ。
最後に。
俺は、元から死界の人間だった。たまたま、君たちの世界に来ていただけ。
帰った。
ただ、それだけのこと。悲しんでるやつがいたら、笑い飛ばすからな?(笑)
健司(岩砕)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・。)
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これで、手紙は終わっていた。
朱音は暫く布をひとりで見つめていたが、その後、ふたりを見渡すと、
「おわり。」
と、紙芝居が終わったかのように、そう言った。この先に「追伸、朱音へ」という部分があったが、
彼女はそこを黙読した。驚きの気持ちでいっぱいだったが、そこは顔に、出さないようにした。
「どうするか、だなぁ。これから・・・A=´、`=)ゞ」
ルースはぼそっと呟いた。
シュリは何も口に出さなかった。彼には気になっていることがあった。
手紙の内容を読んで貰ってたところ、「世界の継続方法」と「朱音の帰還方法」しか記されていない。
この世界があれだけ悲惨な状態になったのだ。創立者の岩砕としては、一番に考える事が、ある
のではないか?
そして、朱音の動揺。ルースは気づいていないが、シュリはハッキリと気づいていた。
一体、何が隠されているのか。
すると、おもむろに、朱音はふたりに尋ねた。
「ね、ふたりは・・・この先、どうしたい?
今、廃墟を含め、王のTOP5以外の手下の居たところは、きっと大変な事になってるわ。
この先、シュリとルースがこの世界全部を・・・平和に保つ。昔よりも規模が大きくなって、
更に一回ひび割れてしまったこの世界を、ね?
やる自信は、ある?それを、聞きたいの。私は、もうすぐ・・・帰らなきゃいけない。」
再び沈黙が流れた。
「やる自信が、あるのか。」それは、ふたりにとって最も厳しい問いかけだったからだ。
自信。シュリもルースも、自信があるだなんて、言えない状態だった。
もし無責任に今、王として世界を治めようとしても、世界の全てを把握しているわけではないし、
それを調査しに、この世界を端から端まで回っている時間は・・・もう、ない。
朱音がいったように今、王のマインドコントロールが解けた兵たちの間では、きっと悲惨な事が
起こっているだろう。
殺し合い、窃盗・・・それこそ第二の廃墟のように。
「考えている、時間が無いから、僕は正直に言うよ。」
先に口を開いたのは、シュリだった。
「僕は、この世界を・・・治める自信なんてない。
ここは本来、死界に行くには早すぎた者、又は魂を浄化するには手のかかりそうな者が来る
場所だったはずだ。でも、今この世界を見てみると、どうだろう・・・?
荒れ放題じゃないか。ここで魂が落ち着くどころか、更に殺気立つ者もいる。そんな状態。
世界の意味が、無くなっていると・・・思う。」
ルースもそれは思っていた。しかもそれを治める王が自分だなんて、とも、思っていた。
曇るルースの表情を見て、シュリは続けた。
「僕は、こう思う。もしこういった世界が必要なら、一回全てをなくして、再構築しな
ければ、無理だと。」
その言葉にルースは一瞬驚いたが、考え直してみて、彼も意見を述べた。
「俺も、自分が王としてこの世界を治める自信は、今はない。
俺にいくら死界と繋がる能力があるからといっても・・・それだけのことだよな。
それなら俺は、この世界を壊したい。壊して、再構築なんてしなくたっていい。
ここの住人が成仏するまでが大変だってなら、俺は死界で頭輪さんの手助けをする。
落ち着いたら、俺はもう、自分の魂が浄化されても構わない。」
ふたりの意見を聞いて、朱音は「そう・・・。」と頷いた。迷いが彼女の顔に浮かぶ。
「朱音。君は何か、手紙の内容を隠しているね、分かるんだ。
そこに書いてある内容、教えてくれとは言わない。ただ、今の僕たちの
意見を聞いて、君が思うことも含めて、できることをしてほしいと思う。」
シュリの言葉に、朱音は戸惑いつつも頷き、朱鳳凰を壁にかざした。
光が朱鳳凰から放たれ、スクリーンのように、映像を映し出した。
そこに映っていたものは・・・。