当ブログではかねてから,暗記学習に効果的なツールとして,分散学習システム Anki の使用を推奨している。Ankiは設計の自由度が高く,一問一答・正誤・記述・空欄補充・多肢選択など,さまざまな出題形式に対応できる。その活用場面をさらに広げるのが,本記事で扱う「暗記ペン形式」である。
■暗記ペン形式とは
暗記ペン形式とは,「チェックペン」「暗記シート」などと呼ばれる学習法をいう。覚えたい部分を専用ペンでマークし,色つきシートをかぶせるとそこが隠れ,繰り返し想起して覚えられる,というあれである。赤シート付きの印刷教材も同じ仲間である。要するに,ひとまとまりの文章の中に複数ある「覚えたい部分」について,個別に表示/非表示を切り換えて記憶を強化するというメカニズムが本質である。文脈の中で覚えるべき素材をAnki化するのに最適な形式であり,マーク部分を一つずつ想起してはその場で正解を確かめ,一通りできるようになってから解答面に進む,という学習が可能になる。
この暗記ペン形式をAnkiで実現する仕様を,筆者は2016年に公開した。おかげさまで,多くの方に広くご利用いただいてきたようである。このほど,その仕様を全面的に刷新し,より使いやすく,かゆいところに手が届くようにした。とりわけ,マークの開閉状態をそのまま保持し,次回以降の学習や他端末でも再現できる「記憶」機能は,他に類を見ない画期的な仕組みだと自負している。引き続き,みなさんの学習に役立てていただきたい。
完全刷新版は,Anki(Windows・Mac)・AnkiWeb・AnkiMobile (iOS)・AnkiDroid (Android) での動作を想定している。なお,マーク色には旧仕様と同じ #f68385 を用い,付箋らしく見えるようシャドウをかけてある。
■旧仕様との最大の違い ― 貼り付け作業は不要
旧仕様では,スタイル(CSS)やスクリプト(JavaScript)をユーザー自身がテンプレートに貼り付け,さらにマーク部分に手作業でタグを付ける必要があった。刷新版では,こうした作業をユーザーにさせることは想定していない。配布するサンプルデッキをそのまま,あるいは中身を書き換えて使うか,手持ちの既存デッキを後述のアドオンで変換して使う。これだけで,暗記ペンが完成する。マーク箇所の指定は,Ankiの穴埋め設定ボタンや単純な記号で済むようにした(→4.)。
刷新版の主な特徴は次のとおりである。重要なのは,暗記ペンの中心的な動作はアドオンなしで全端末で動くという点である。アドオンが要るのは「記憶(保存)」の書き込みや,編集補助・既存デッキ変換といった一部の機能に限られる。要否を表で明示する。
| 機能 | 内容 | アドオンの要否 |
|---|---|---|
| タップ/クリックで開閉 | マークをタップすると正解が出て,もう一度で隠れる。暗記ペンの基本動作。 | 不要(全端末) |
| 選択式・文字列追加/除去・文字列表示マーク | 選択肢の埋め込み,マーク幅の調整,マーク上への番号表示など高度な表現(→4.)。 | 不要(全端末) |
| 表→裏の承継 | 表面で開いた状態を裏面が引き継ぐ。 | 不要(全端末) |
| 順次めくり/全開・全閉/反転 | nキーや「次へ ▶」で先頭から順に開く(zで直前を閉じる)。「全開/全閉」で一括,「反転」で開閉を入れ替え。 |
不要(全端末) |
| マーク開閉状態の「記憶」 | 覚えたマークを開いた状態で「記憶」を押すと,次回も,他端末でもその開閉状態を再現する。 | 保存はデスクトップ版Anki+アドオン。復元・読み出しは全端末で可能(メディア同期で各端末へ届く)。 |
| マーク習得率の表示 | 「デッキ中の開いたマーク数/全マーク数」を円グラフや数値で表示。全マークを開いたまま記憶すれば100%。 | 表示は全端末で可能。デッキ全体の母数の算出はアドオン。 |
| 編集画面のマーク設定ボタン | 編集画面に,選択範囲をマーク化するボタン(マーク・錯乱肢・追加・除去・文字列・ルビ)を追加。 | アドオン(デスクトップ) |
| 既存デッキの変換 | 手持ちのデッキ(穴埋め・通常タイプ)を暗記ペン化する(→3(3))。 | アドオン(デスクトップ) |
とりわけアピールしたいのは,アドオンがなくてもできる操作の多さである。サンプルデッキやアドオンで変換したデッキを一度同期してしまえば,iPhone・Android・ブラウザのいずれでも,タップでの開閉はもちろん,選択式や順次めくり,全開・全閉,反転,さらには(デスクトップで記憶しておけば)開閉状態の復元や習得率の表示まで,アドオンなしで楽しめる。
以下は,シンプル版サンプルの動作デモである。

フル機能のWeb上の動作デモ(ユーザーがマーク開閉操作可能)はこちら。
使い方はおおまかに3通りある。目的に応じて選べばよい。いずれも,配布物をAnkiに読み込む(アドオンはインストールする)だけで,貼り付け作業は一切不要である。
(1) シンプル版サンプルを書き換える ― 一番簡単
最も手軽なのが,シンプル版のサンプルデッキを取り込み,問題文を自分の覚えたい内容に書き換える方法である。装飾のない素直な見た目で,穴埋め(Cloze)ノートタイプをそのまま使う。マークにしたい箇所は,編集画面でAnki標準の穴埋め設定ボタン([...])で囲むか,単純な波カッコ { } で囲むだけでよい。
RevealMarker_Simple.apkgを
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(→ Ankiの[ファイル]→[読み込む]で取り込む)
パソコンを持っていない方も,このシンプル版をそのまま使えば,モバイル単体で暗記ペンを利用できる(→Q&A)。
(2) フル機能版サンプルを改造する
選択式・文字列追加/除去・文字列表示マーク・裏面の解説欄など,あらゆる機能を盛り込んだフル機能版サンプルを取り込み,不要なノートを削除しつつ自分用に作り替える方法である。各機能の実例が入っているので,記号の書き方の見本としても役立つ。
RevealMarker_Sample.apkgを
今すぐダウンロード
(3) 既存デッキをアドオンで変換する ― デザインは自由自在
すでにお持ちのデッキを,既存のスタイルやレイアウトをできるだけ残したまま暗記ペン化する方法である。アドオン「Reveal Marker Toolkit」を次のようにしてインストールする。
穴埋め・通常どちらのノートタイプにも対応し,マーク対象フィールドやカードタイプを選んで変換できる。安全のためノートタイプは複製され,対象デッキのノートだけが複製先に付け替わる。
※ 変換はノートタイプの変更を伴う。実行前に必ずバックアップを取ること(Ankiがフル同期の確認を出す場合がある)。
最低限のマークだけでよければ,Anki標準の穴埋め設定ボタンを押す(あるいは波カッコ { } で囲む)だけで済むことを,まず強調しておきたい。タグの貼り付けなどは不要である。そのうえで,より凝った表現をしたい場合のために用意した記号を,フル機能版サンプルの例とともに説明する。いずれも記号の有無だけで動作が決まり,組み合わせも自由である。
| 記号 | 入力例 | 意味・動作 |
|---|---|---|
{{c1::…}} または {…} |
鎌倉幕府は{{c1::源頼朝}}が…三権分立は{立法}・… |
基本のマーク。閉では ピンク で隠れ,タップで 赤字の正解。Ankiの穴埋め設定ボタン([...])でも,単一波カッコ { } でもよい。 |
((…)) |
水面は{((高くなる))((低くなる))変わらない}。 |
マーク内に錯乱肢(誤答)を書くと,そのマークは選択式になる。閉では選択肢を黒字で並べて表示し,開くと正解が 赤字,錯乱肢に打ち消し線。 |
[+…+] |
{聖徳太子[+(厩戸皇子)+]} |
開いたときだけ追加表示する文字列。マーク幅を正解より短くしたいときに使う(注記の幅でヒントになるのを防ぐ)。 |
[-…-] |
{わし[- -]}座 |
閉のときだけ表示し,開くと除去する文字列。ダミーの空白などでマーク幅を広げ,正解の文字数を悟られないようにできる。 |
[[…]](マーク末尾) |
…星を{恒星[[①]]}、…{恒星[[①]]}… |
マーク上に文字列(番号など)を表示する文字列表示マーク。同じ文字列のマークは同時に開閉する(正解が共通であることを示せる)。 |
たとえば「選択式」は錯乱肢 ((…)) の有無だけで決まり,全角の波カッコなどは不要である。「マーク上に文字を出しつつ同時に開閉する」のは末尾の [[…]] だけで決まる。
編集画面のマーク設定ボタン(アドオン)を使えば,これらの記号を選択範囲から一発で挿入できる。ルビも,選択した文字に読みを入力するだけで付けられる。
▼アドオンで追加されるマーク設定ボタン(赤色)
※青色は既定の穴埋め(複数)設定ボタン。これで穴埋め指定しても,{マーク}と同様に動作する。アドオンが使えないモバイルデバイスやAnkiWebでこの仕様が重宝する。
ここではよくありそうなご質問にお答えします(この項目だけ「ですます調」でお送りします)。
Q. パソコンは持っていないのですが,使えますか?
はい,使えます。シンプル版のサンプル(→3(1))をそのままお使いください。マーク箇所の設定は,Anki標準の穴埋め設定ボタン([...],挿入されるのは {{c1::〜〜}})がそのままマーク箇所の指定として機能します。モバイル単体でも,タップでの開閉や順次めくり,全開・全閉,反転などが行えます。ただし「記憶(保存)」だけはデスクトップ版Anki+アドオンが必要です。
Q. マークの色を変えたいのですが?
サンプルなら,ノートタイプの「スタイル」内の .ap-mark の background-color(既定 #f68385)を好きな色に変えてください。開いたときの正解の色は .ap-mark.ap-open の color で変えられます。
Q. スマホやAnkiWebでは「記憶」「リセット」ボタンが出ません。
仕様です。書き込みを伴う「記憶」「リセット」はデスクトップ版でのみ表示されます。デスクトップで記憶した内容が同期されていれば,モバイルやAnkiWebでは「復元」ボタンが表示され(自動復元も働きます),同じ開閉状態を再現できます。
Q. デスクトップで記憶したのに,スマホに反映されません。
メディアの同期が行き渡っていない可能性があります。デスクトップで同期したあと,モバイル側でも同期してください。最新版のアドオンは,記憶のたびにAnkiのメディア管理を通してファイルを更新するので,2回目以降の変更も確実に同期されます。それでも反映されない場合は,[ツール]→[メディアを確認]のうえ再同期をお試しください。
Q. マーク習得率が表示されません/100%になりません。
マークが一つもないカードでは,習得率は表示されません。また分母は「デッキ全体の全マーク数」で計算されるため,全マークを開いた状態で「記憶」したカードを増やしていくと100%に近づきます。分母の算出にはアドオンが必要です。
Q. ルビ(ふりがな)は使えますか?
はい。マーク内のルビは,閉じている間は隠れ,開くと正解とともに表示されます。編集画面のルビボタンからも付けられます。
Q. フィルターデッキで学習しても記憶できますか?
はい。記憶・復元・習得率は,フィルターデッキ名ではなく「元の所属デッキ」を基準に扱われます。端末を問わず正しく動作します。
Q. 暗記ペン旧仕様(2016年)で作成したデッキを今回の新仕様に変換できますか?
はい。アドオンの「既存デッキでマーク表示...」を旧仕様の暗記ペンデッキに対して実行すればいいです。既存デッキが暗記ペン旧仕様(2016年)であることを検知すると,マーク記憶などの新機能を追加し,全ノートのマーク設定フィールド内の旧仕様htmlタグを新仕様の記号に変換します。デッキのレイアウトはそのまま保たれます。
以上,全面刷新した暗記ペン(開閉式)の概要を紹介した。貼り付け作業をなくし,サンプルやアドオン変換だけで使えるようにしたことで,導入のハードルはぐっと下がったはずである。とりわけ開閉状態の「記憶」と端末間での復元,習得率の表示は,日々の暗記をいっそう楽にしてくれると思う。説明のわかりにくい点や不具合があれば,お知らせいただきたい。
更新履歴
2016年1月4日
- 初出。
- 「カメレオン方式」。文字色と背景色(マーク色)を一致させることにより文字を見えなくするという手法。JavaScriptでは背景色のみを切り換える。文字のみの表示時に視認性のよいマーク色しか選べないという難点がある。
2016年2月15日
- ルビに対応。マーク表示時にはルビ非表示とし,マーク解除時にはルビを表示する(従来はマーク内にルビがあると,マークから飛び出してルビが表示されてしまい,カンニング状態だった)。
- 「透明人間方式」。文字色を透明に設定することにより文字を見えなくする。JavaScriptでは,文字色と背景色を切り換える。マーク色も文字色も自由な色を選べるのが利点である。
2016年2月20日
- サンプルのマーク色を落ち着いた色にし,マーク色にシャドウをかけて浮かび上がらせ,マーカーというより,附箋風にした。
2016年5月1日
- モバイル版アプリのタップ動作の設定変更について説明(AnkiMobile (iOS) 用)を追加。
2016年5月9日
- モバイル版アプリのタップ動作の設定変更について説明(AnkiDroid (Android) 用)を追加。
2016年5月14日
- 文字列追加,文字列削除,選択式マークに対応した「拡張仕様編」を公開
2016年5月15日
- clozeクラスのタグに事前にIDを付与する方式を正式版とし,ID付与をJavaScriptで自動的に付与する方式を簡略版と位置付け,叙述を再構成した。
2016年5月18日
- AnkiDroidでもJavaScriptによるロード時のID付与が可能となり,事前のタグ付けの際にIDを付与する必要が全面的になくなった。
- 正式版と簡略版の区別をなくし、方式を一本化した。
2024年4月19日
- Ankiの最新版の表示・用語に合わせて説明を調整。
- 「画像穴埋め問題」ノートタイプとの関係を補足。
2026年6月19日
- 完全刷新版を公開。


