「映画『からかい上手の高木さん』」 | MCNP-media cross network premium/RENSA

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「映画 からかい上手の高木さん」(2024/東宝)

 

 監督:今泉力哉

 原作:山本宗一朗

 脚本:金沢知樹 荻森淳 今泉力哉

 

 永野芽郁 高橋文哉 鈴木仁 平祐奈 前田旺志郎

 志田彩良 白鳥玉季 齋藤潤 江口洋介

 

 おすすめ度…★★★☆☆ 満足度…★★★☆☆

 
 
原作もアニメ版も直前の連ドラもすべてスルーしていたので、どうなんだろう?と思いつつも、永野芽郁がヒロインということでチェック。
 
それでもアニメ作品の上映時に不思議なタイトルが気になっていて、連ドラも録画対応するつもりだったのに結局断念。
 
上映前の舞台挨拶生中継もあって、作品の雰囲気は何となく予想できたけれど、それ以上に静かな時間が流れる作品に仕上がっていて少し戸惑った。
 
きっと原作のファン、アニメ作品のファン、連ドラからのファン、それぞれのアプローチによって感じることが違うだろうなというのが観終わったときの最初の感想。
 
純粋な初恋の思い出だったり、「好き」を伝えることだったり、思いを「言葉」にすることの意味だったり、タイトルにある「からかい」の先にあるものだったり、そういった繊細な一人一人の心の揺らぎを自分に重ね合わせることができるかどうかでも、受け取る印象は違うだろう。
 
後半で高木さんと西方が教室の机に並んで座って、互いの思いを言葉を交わしながら探り合うシーンは、余計な演出や音楽もなく、ストレートに交わされる言葉のジャブの応酬という構図。
 
さりげないひと言が相手にどう伝わるか、人はその都度配慮してばかりでは息苦しいだけの世の中になってしまう。
一方で明らかに最初から配慮を欠いた言葉を発して、相手を傷つけたり、いわゆる無意識のパワハラを繰り返す人もいる。
 
高木さんの繰り出すからかいは一歩間違えば西方へのハラスメントにもなりかねないのがいまの社会構造。
 
言葉の暴力という表現があるように、昨今のSNS隆盛の時代では、本当に他人とのかかわりが難しい。
 
物語の舞台は自然豊かな小豆島。
劇中にはあえてそうしたSNSで社会を語るような演出はない。

中学の同級生カップルが学校帰りに買い食いしているとクラスメイトからのクレームを受けた西方が高木さんと現場に行くシーン。
息をのんで見守る二人の目の前で当たり前のようにキスする。

普通はそのまま誰かに写メ撮られて動画アップされてひと騒動となるだろう。

例えば生徒の偵察を理由に高木さんを花火大会に誘う西方だが、やって来た高木さんは髪をアップにした浴衣姿。
そのまま花火デートの二人をやはり誰かが写メで撮っていてネットで拡散されて…普通にそういう想像をしてしまうのはやむを得ないところ。

冒頭は西方がスマホでアニメを観るシーンで始まるが、その後の展開で中学生たちがネットでやり取りするシーンはなかったと思う。
 
それだけではなく不登校の町田の家を訪れる西方に対して、町田はちゃんと玄関に姿を現して会話をする。
町田にとって西方は「学校に来いといわない」いい先生だ。
 
その町田に面と向かって告白したことが不登校の理由だと思い込む女生徒の大関も、戻ってきた町田と一対一で面と向かって謝罪し、町田も正直な思いを言葉にして伝えて和解する。
 
この映画は全編にわたってそうした今泉力哉監督の優しい目線が感じられる。
それを心地よいと感じるか、イライラすると感じるか、観る側の感情に大きく委ねられる嫌いはある。
 
舞台となる小豆島については実のところあまり思い入れはない。
かつて壷井栄の名作「二十四の瞳」が映画化されたときの舞台となったことで、こうした教師と生徒の物語の背景に採用されるようになった。
 
実際に少年時代に小説「二十四の瞳」を読んだ記憶はあるけれど、高峰秀子主演の映画「二十四の瞳」(1954)は生まれていなかったので、小豆島というイメージも抱かなかったと思う。
 
その後前作と同様に木下啓介が脚本を手掛けた田中裕子主演「二十四の瞳」(1987)はスクリーンで観たけれど、その時は小豆島というイメージは定着していたように記憶している。
 
それは自分自身が尾道への思いと似ているところがあって、きっと普通ならさらっと流して観てしまう風景でも、その一瞬一瞬にいろんな感情が湧きたってしまう。
 
映画化作品はすでに完結している原作のその後を描いたもののようで、エピローグまできっちり描き切ってしまったのは原作ファンには賛否がありそうだ。
原作知らずで観ていてもそんな感じは抱いたので映画化の難しいところか。
 
そういえば上映直後のクレジットでTBSが製作にかかわっていることを知って少し嫌な予感もあった。
 
過去のTBS製作の映画ではそうした余計に語りすぎてしまう場面やテロップやナレーションで説明してしまう演出もあって辟易とした記憶がずっと残っている。
 
永野芽郁と高橋文哉が演じる高木さんと西方の雰囲気は悪くない。
もともと永野芽郁のキャラクターが高木さん寄りというのもあるけれど、西方を演じた高橋文哉の頼りなさが先だってしまって、ちょっと踏み込み切れていないのは残念。
 
中学3年から10年後という設定で、クラスメイトの女生徒たちも大人の女性として登場する。
 
同級生だった中井と結婚する真野さんを演じた平祐奈、同じく同級生だった浜口からよりを戻そうと迫られている北条さん役の志田彩良は、ノーチェックだったのでエンドロールまで気づかなかった。
 
そして舞台挨拶にも登場した現在の西方の教え子を演じた大関さんの白鳥玉季と町田君の齋藤潤の若手二人の瑞々しい存在感も気持ちよかった。
 
今泉力哉監督は「アイネクライネナハトムジーク」(2019)や「あの頃。」(2021)に直近では「アンダーカレント」(2023)などを観ている。
印象としてストーリーテラーというよりも、人々の思いに寄り添うタイプの作品が多いようだ。
 
要は作品の登場人物の思いが自分の琴線に触れるかどうか…そういうところで作品ごとの評価は分かれそうだ。
 
いずれにしてもよくある胸キュン系恋愛映画と思って観ると退屈だろう。
じっくりスクリーンの登場人物の思いに、自らの感情を寄り添えさせることができたらきっといい時間を過ごせる。
 
 ユナイテッド・シネマ前橋 スクリーン7