「あの頃。」 | MCNP-media cross network premium/RENSA

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「あの頃。」(2020/ファントム・フィルム)

 

 監督:今泉力哉

 原作: 劔樹人

 脚本:冨永昌敬

 

 松坂桃李 仲野太賀 山中崇 若葉竜也 芹澤興人 西田尚美

 コカドケンタロウ 木下ヒロト 中田青清 片山友希 山崎夢羽

 
 おすすめ度…★★☆☆☆ 満足度…★★★☆☆
 
 
 
確か作品の撮影時に当時のハロプロファンからグッズ等の提供やエキストラ参加などを募集していたんだっけ?
 
「あの頃。」観てきました。
休日の午前の回とはいえ、2番目にでかいスクリーンで観客一桁は寂しい。
でもこれが地方の現実かなと思うし、来週には早くもタイムテーブルが二回だけになります。
 
上映館が少ないと思ったら配給がファントム・フィルムでしたね。
素材がハロプロでなくても成立する作品でしょうが、その場合キャスティングに松坂桃李がいなかったら、もう少しひっそり公開されて映画ファンだけが話題にするような感じだったかもしれません。
 
ただけしてハロプロマンセーの映画じゃないし、コンサートを観に行くノリで一部ヲタT着て鑑賞みたいな観客もいたみたいだけど、恥ずかしいからやめた方がいいかもね。
 
作品の中ではハロヲタの描き方も特殊な人たちがフューチャーされてますが、自分はむしろ対極にいたハロヲタだし、現場(コンサートやイベントの観覧)が終わったらリセットして日常に戻りたい人なんで、誰かの家に屯していたり、四六時中仲間たちと一緒にヲタヲタするのは今でも理解できないかな。
 
一言でいえば“恋ING”が今でも名曲だとドはまりしたハロヲタ向きだと思います。
自分は“恋ING”はあまり響かない世代だし、映画の背景の時代にはすでに安倍なつみ現場メインだったし。
なおあややこと松浦亜弥は物語の導入部に過ぎません。
 
惜しむらくは全体的に単調なストーリーであり、個々のメンバーもしくはそのヲタについての思い入れの強さみたいなものが、言葉やリアクションで語られはするものの、一人一人の人生の背景とリンクして描かれ切れていないので、作品を通して何か訴えるものが弱すぎる。
 
映画的には嫌いじゃないです。
音楽がキーワードとなる青春ドラマのジャンルでは「BANDAGE バンデイジ」や「ソラニン」とか好きでしたが、必ずしも作品の評価は高くなかったし、響く響かないは音楽的嗜好にもよりそうですね。
 
しかしあややヲタ役の松坂くんがMIKI①ツアーT着てたり(しかも紺色!)、梨華卒の娘。コンなのにあややのうちわもつ女性客が歩いていたり、そういうところが引っ掛かったのは、やはりまだ自分がハロヲタくずれの証拠でしょうか…もしかしたら観間違えかもしれませんが。
 
松坂くん演じる冴えないベーシストがいきなりあややの“♡桃色片想い♡”のPVを観てその虜になるという設定は、一見するとやや強引に思えるかもしれませんが、実際にあの頃のモーニング娘。にはまったファンの中には、いままでアイドルなんて全く興味ない生活を送ってきたのに、一瞬でその魅力にはまってヲタ化していく人が結構いました。
 
以下は、やや蛇足を含んだ話になります。
 
自分は一応この作品の背景当時のハロヲタです。
ただし一口にハロヲタといっても20年以上の活動期間もあるので、いくつかのパターンに分けられると思います。
 
その辺は一般の映画ファンやアイドルに関心のない人には少し説明しておいてもいいかもしれません。
 
この「あの頃。」という作品の背景は2004年あたりから数年間になるわけですが、この2000年前期にハロヲタになったという世代が、実は現役世代として今も現場に駆けつけている人たちの中心になっているように思います。
 
自分はいわゆる古ヲタ世代です。
モーニング娘。の結成前から伝説のオーディションバラエティ番組「ASAYAN」を観ていてそのままファンになりまました。
 
インディーズ時代からずっと応援してきたわけですが、主にファンとして応援していたなっちこと安倍なつみのモーニング娘。からの卒業を機に、少しずつ本体であるハロプロと距離をとるようになり、最終的には6期メンバーの道重さゆみの卒業を境に現場からも距離を置くようになりました。
 
このインディーズ時代からファンになって、現在もそのままモーニング娘。を中心としたハロプロを応援し続けている人は、現状ではほぼ皆無というか、明らかに絶滅危惧種に近いごく少数派だと思います。
 
そういうファン層の一部は、別にアイドルが好きなのではなくて、たまたま好きになったのがモーニング娘。やハロプロのアーティストだったというだけで、ハロプロだから好きでいられるという大原則があるようです。
 
もともと昔からアイドルが好きで、たまたまグループアイドルの時代に出会ったのがモーニング娘。であり、ハロプロのメンバーだったという人は、その後もAKB48など他の陣営にも柔軟に対応しながら、それぞれの現場を行き来していることもまた事実です。
 
そしてモーニング娘。のブレイクのきっかけとなった“LOVEマシーン”以降にファンになった世代も多く、この時期のハロヲタの多くは後藤真希がハロプロから離れ、ミニモニ。結成で時代の寵児となった辻・加護の事実上の解体などもあって次第にハロプロそのものにも興味を失っていきます。
 
その一部はハロプロキッズ(ハロー!プロジェクト・キッズ…のちのBerryz工房と℃⁻ute)に流れたわけですが、この時期に活躍していたのが、この作品でもクローズアップされている松浦亜弥であり藤本美貴というソロアイドルでした。
 
ただし藤本美貴は実際は2003年からモーニング娘。の6期メンバーとして追加加入することになります。
 
映画の中に出てくるヲタ(ファンは自分のことをあえてヲタクとは呼びません)たちは、この時代のバラエティに富んだハロー!プロジェクトを楽しめた世代ということになりますが、それこそハロプロがもっとも幸福だった時代だったといえるでしょう。
 
ハロー!プロジェクトという枠組みの中でもソロやグループあるいはグループ内ユニット、さらに後発の松浦亜弥やモーニング娘。OGもソロ歌手として活躍していた。
 
実際に活動する世代も小学生のキッズから三十路の中澤裕子までバラエティに富んだラインナップが揃い、それぞれがライブ活動で様々な展開を見せていた。
 
まさに選び放題、組み合わせ自由に自分のスケジュールを組んで楽しめた時代。
それぞれのファンがネット上でコミュニティを作り、毎週のように現場で交流し、当たり前のように全国区で交流を深めていた時代。
 
オタクとヲタの違いはそこにあると思うわけで、この頃のアイドルヲタたちは本当に行動的で、学生から中年まで世代も生活基盤も違う仲間たちがそれぞれの立場を尊重しあって、実に明るく開放的な交流を続けていた。
 
しかし2005年にはAKB48が結成されその後のグループアイドルの時代がいよいよやってきます。
 
一方で2007年に当時のモーニング娘。リーダーだった藤本美貴がグループから脱退し、この時期を境にモーニング娘。はメディア露出も次第に減り、いまに通ずるスキルと実力を磨くいわゆるプラチナ期に突入していきます。
 
そして道重さゆみのリーダー就任を機に、ついにリーダー自らアイドル宣言して、国民的アイドルという称号を明け渡したAKB48を中心としたアイドル戦国時代に乗り込んでいく。
 
実はこの決断が結果としてその後のモーニング娘。の戦略上の混迷を招くことになり、もしあの時あえてアイドル戦国時代の土俵に上がらず、別の道を歩んでいたら…この時期に自分もモーニング娘。から少しずつ距離を置くことになるので、たらればは無意味とは思いつつ考えてしまいます。
 
このときのアイドル宣言がなかったら、今のようにハロヲタが他のアイドル陣営と意図的に距離を置いたり、意味のない対抗意識を強めたりする流れは変えられたのではないか?今でもそう思えて仕方がない。
 
映画「あの頃。」は青春映画です。
よく観ればわかると思いますが、別にアイドルに人生を捧げるというような重いテーマを扱っているわけではない。
 
あの頃から変わらずハロプロの現場に毎週のように駆けつけ全国を飛び回っている仲間もいます。
彼らは彼らなりに「あの頃」ではなく、「現在」のハロプロをめいっぱい楽しんでいることは、SNSの書き込みなどでも確認できます。
 
自分はむしろ「あの頃」を引きずったまま今に至るハロヲタもどきになり果てているので、もう彼らのような活動的な応援スタイルにはついていけないし、さりとてうらやましいとも思わない。
 
今は自分のペースで48グループや坂道グループなどの活動をメディアを中心に楽しんでいることになれてしまって、かつては自分も毎週のように現場目的に全国飛び回っていたのがウソのようになってしまった。
 
ただいえるのは「あの頃」があったから「現在」を楽しめているのは、みんな一緒なんだろうということ。
 
そこに気づけたらこの映画を観た意味もあるのだと思います。
 
おすすめ度はあくまでも一本の映画としての評価。
誰でもが共感できる作品にするには、ハロプロというリアルな素材は必要なかった気がします。
 
 MOVIX伊勢崎 シアター7