はじめてご購読いただく方へ。
この作品は、特異な世界観で構成されています。
性描写も含まれますので、20歳以下の未成年やこういった話が不快に感じられる方は
ご遠慮いただきますようよろしくお願いします。
オリジナル小説「縛らず師」に登場したカップル、
青山さんと月子さんを主役としたスピンオフ作品です。
表題画及び小説は、私のオリジナルです。
再開が、ずいぶんと遅れてしまい申し訳ありません。
忘れたことも多いとおもいますので
読み返していただければ幸いです
前編はコチラから
中編はコチラから
<中編のあらすじ>
魅せるSMを演じるカップル「ブルームーン」青山と月子。
「蜘蛛の宴」という演舞を予定している。
裏道にまで堕ちた、月子こと桂 江都子は、
秘め事によって堕ち、
抜け出せなくなって者が、最後の砦として助けを求める男、
人呼んで「縛らず師」辰巳 源の元に運び込まれる。
源の荒療治によって、自分を取り戻せた江都子だったが・・
第五章 -青山という男-バー「セレンゲティ」。
「マスター、オイルサーディンちょうだい」
「はい、月子さん」
あいかわらず、青山はサックスを磨いている。
だが、月子が来るまでの表情とは違い、
どことなく、柔和な表情になっている。
「はい、オイルサーディンです
レモンを絞って召し上がってください」
小皿にオイルサーディンとスライスされたたまねぎが盛られている。
「ありがとう、マスター」
「マスター、ワシも何か飲ませてや
きついのがええな」
青山が、サックスをケースに収めながら言った。
「ほな、ズブロッカあたりどないです?」
「おーっ、ひさびさにいいね」
冷凍庫から、パイソンの図柄の瓶を取り出す。
表面は凍りついている。
ゆっくと揺れる黄金色の液体には、一本のわらが沈び
小ぶりのグラスにトロリと注がれた。
「青山さん、どうぞ」
「ありがとさん」
クィっと一口。
「クハーッ、効くねー」
青山が半分むせながら、言った。
隣の月子の手が、いつのまにかふとももに置かれている。
「ところで、お二人さんどこで知り合われたんです?」
「意外なところよ」
「?」
「クスッ、小学校の参観日」
「参観日?」
初夏。大阪府内の小学校。
教室の中は、緊張と興奮でざわめいている。
授業参観の日。
生徒たちはときどき、後ろに立つ父兄たちをチラチラ見ながら
こそこそと耳打ちをしている。
ガラガラガラ。
先生が入ってきた。
生徒たちは、めいめい背筋を正した。
「今日は、父兄の皆様が来られていますが、
普段のありのままを見ていただけるように、がんばってお勉強しましょう」
「ハーイ」
子供たちの成長を楽しみに、父兄たちが着飾って教室の後ろに立っている。
その中で、場にふさわしくないほどのオーラをまとった女性がいる。
「ねぇ、あの白いスーツの綺麗な人、透くんのママでしょ?」
「う・うん」
少し、はにかみながら少年が応えた。
辰巳 源の元ですっかり自分を取り戻した江都子だった。
母となった江都子は、ごく普通の主婦となり我子の成長が生きがいとなっている。
もともとの美貌に加え、バレエも再開しるので
平凡の主婦の域をこえている。
他の父兄からも、奇異の目で見られていた。
「ハイ、ハイ」
先生の問いに、子供たちが元気に答えている。
江都子は、微笑を浮かべている。
スーッと教室の戸が開き、遅れてきた父兄が入ってきた。
背が高く、きっちりと7:3に分けた髪に太い黒ぶち眼鏡の男だった。
この男も父兄というよりも、自由人の男という空気を感じさせていた。
江都子は、チラッと見ただけで、
授業の様子を見直した。
授業が終わり、それぞれの親に生徒たちが集まる。
「ママ、ママが一番綺麗やったね」
「アホ。そんなん見ててどうするの。ちゃんと先生の教えてくれたこと
わかったの?」
「もちろんや。ママが来てくれてがんばったで」
「透、ママはこのあと父兄のみなさんと集まりがあるから
家に帰ったら、おやつあるから食べたあと、宿題してなさい」
「うん。わかった」
息子の透は、皆から母親の美しさを褒められご機嫌の様子。
さきほどの男も、娘と話している。
仲が良いらしく、冷たそうな顔に似つかわしくない笑顔をしていた。
教室の机がすべて、後ろへ詰められている。
パイプ椅子が規則正しく並べられて、
生徒の父兄たちが座っている。
担任教師が進行役となり、生徒たちの環境や人間関係を
親の立場でどのようにしていくのか、話し合われている。
「私ども教師も、全力でお子様たちを見ています。
それでも限界がございます。
生活の些細な変化や行動はご父兄の皆様が、
日頃の言動や行動をしっかり見ていただくことで
協力しあいながら、お子様の成長を・・」
面白みのない担任の会話に、
集中力をなくしかけている。
息子のため、母親としてがんばらなければと
思いつつ、他の父兄に目を泳がせはじめる。
あの父親がいた。
なんとなく気になってしまう存在感。
こういう場には、参加しないようなタイプになんとなく思ったが
足を組んで、担任の話を聞いているようだ。
周りの音が、遠くに感じてしまう。
なにげに男のほうに顔をむけた瞬間。
目があってしまった。
何秒にも満たない時間なのに
男にすべてを見透かされてしまった感覚をもった。
身体の芯が、響きあい自分の心臓の音が聞こえてくるようだった。
我に返り、担任の話に耳を戻した。
「ご父兄の出し物の件ですが・・」
いつのまにか、話題が変わってしまっているようだ。
「ご父兄の皆様で、出し物のアイディアがございましたら、
ご意見を伺いたいのですが・・」
となり同士で、顔を見合すだけで皆、口をつぐんでいる。
「父兄も忙しい中、込み入ったもんは、難しいでしょ。
罰ゲームのある、クイズっていうのはどうでしょう」
少し年齢のいった男の父兄が言った。
皆、面倒がなさそうなアイディアに、賛成の色を示した。
「子供らには、本物を見せんとアカンのと違いますか?」
と黒ぶちの眼鏡の男が言った。
「本物? 青山さん、何かアイディアでもあるのでしょうか」
驚いたように、担任が聞き返した。
「子供ちゅうもんは、大人の背中を見て育つもんです。
親が、めんどくさがって見せたもんが、おもろいと思いますか?
真剣に創ったものを子供らに見せるのは親の義務やとおもうんです」
「な・なるほど・・ごもっともです。
青山さんに良いアイディアがあれば、お聞かせいただけますか?」
「そうやな。創作演舞ちゅうのはどないです?」
「創作演舞?」
「そうです。私らが考えた演舞を子供らに見せる。
もちろん、私が仕切らせていただきます
演舞・・ええもんですよ」
「ね? 本橋のお母さん?」
自分の名とは気がつかず、
父兄の視線で、ようやく江都子にわかった。
「本橋さんは、バレエをやってらっしゃる。
良いものができると思うのですが」
半ば、強引に出し物に参加させられる羽目になってしまった。
後日。
土曜の閑散とした、会議室で出し物の打ち合わせがはじまる。
背の高い、黒ぶち眼鏡の男は青山あやかちゃんの父親だとわかった。
音楽家で舞台演出家らしい。
大学ノートにびっしりと書かれた脚本が、会議テーブルに置かれた。
ところどころに付箋が貼られ、赤字で演出のポイントが入ってる。
出し物のスタッフは5名。
舞台に精通しているのが、
青山と江都子であることから、自然にふたりが中心となっている。
脚本を開き、並んで椅子に座りながら話し合う。
江都子は、不思議な感覚にとらわれていた。
実家に帰ったような、居心地のよさと
心臓の鼓動が、いつもより多く打たれる高揚感。
「なんだろう? この感覚・・」
戸惑いながらも、この感覚を楽しんでいる自分がいた。
出し物のタイトルは「蜜柑の木と蝶」。
蜜柑の木で育った蝶の幼虫が、
さなぎとなり、羽化して羽ばたいていくという
シンプルなストーリーだった。
「それじゃ、演舞の振り付けをはじめましょか」
蜜柑の木は青山が、蝶は江都子が演じる。
右手を天に、左手を横にのばす。
右足を軸に、左足を柔らかく広げる様は
蜜柑の木を演出させる。
江都子は、幼虫の時期にはコミカルに、
さなぎの時期は、動きを抑え静かに舞う。
やがて、羽化を始める。
蜜柑の木を演じる青山の手をにぎりながら
羽化の様子を身体で表現していく。
子供たちに見せるものとは思えないほどの
熱の入った稽古となっていた。
江都子は、不思議と充実感を感じている。
充実感とは別のものを感じるときがある。
羽化のシーンで、手を握る際
青山が、誰にも見えないように江都子の手のひらに
指を沿わせながら動かす時がある。
たったそれだけの動きが、江都子の身体の芯を熱くさせていた。
「その調子。いい感じです」
稽古の際のその一言が、なぜか江都子の芯に響いた。
帰宅し、シャワーで汗を流すため衣服を脱いだ時、
下着の一部が、湿っているのに気がついた。
「・・・・・・」
熱いシャワーが、母ではなく女の姿を彩っていた。
開演日。
小学校の体育館には似つかわしくない、
暗闇とスポットライトの舞台。
繰り広げられる生命の神秘の演舞。
子供たちだけではなく、父兄や先生達までも魅せられ息をのんでいる。
だが、舞台の上のふたりは違っていた。
まるで、恋人が愛し合うような感覚で演じていた。
身体を支え、江都子を支える手は
まるで、体位を代える男の手。
青山の呼吸の音は、女を愛撫するかのよう。
江都子は演じながら、青山と一体感を感じはじめていた。
羽化のシーン。
蜜柑の木の青山に支えられ、
身体をそらせていく。
さなぎの皮を脱ぎ、折りたたまれた羽根が大きく開いていく。
神秘的な生命の形。
江都子は、昇天していた。
愛を交わしてイッた時と似た感覚。
客席には感じとれないが、
江都子の身体は、小刻みに痙攣していた。
「おかえり・・・」
江都子にしか聞き取れない言葉を、青山が言った。
場にふさわしくない言葉。
だが、江都子には意味がわかっていた。
ブルーのライトが舞台全体に照らされ、
活き活きと飛び回る蝶になった江都子が
笑顔で輝いていた。
終演。
体育館は、割れんばかりの拍手の渦。
「これ、お金とれまっせ」
「ホンマ、こんなとこでもったいないわ」
と父兄が話す。
「ちょうちょ、キレイやったなー」
「うん、めっちゃキレイ」
子供たちが感動の笑顔で輝いている。
楽屋がわりにしている、更衣室に青山と江都子がいた。
「本橋さん、お疲れ様でした」
「青山さんも。こんな充実感はひさしぶりです」
青山が、手をさし出した。
握手だと感じた江都子が手をさし返す。
だが、青山はその手をつかみ、
こよりを小指にゆわえた。
少し、きつくゆわえられた赤いこより。
「私は、縛られたんだ」
と思った瞬間だった。
第六章 -月子誕生-につづく<予告>
意外な場所で、出会った青山と月子。
苦しんでやっと、抜け出せたとおもったSMの世界が
また、江都子に火をつけはじめた。
次回は江都子から月子へうまれかわります。
連載時の公開済みのものはコチラ↓
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<二夜目 あらすじ>