ハンス・プフィッツナーについては、5月5日に生誕140年の記事 を書きましたが、本日2009年5月22日が没後60年にあたります。

 誕生日の記事では、あまり知られていないけれども、その独特のささやかな「ロマン主義」的な世界にぜひ一度触れていただきたいと考えて、室内楽のCDを挙げました。


 今日は、彼の代表作を二つ。

 まず、プフィッツナーといえば、オペラ『パレストリーナ』(1912-15)が最も重要な作品でしょう。

 ヴァーグナー(ちなみに本日5月22日が誕生日です)がお好きな人であれば、おそらく大いに気に入るだろうと思います。

 LPの時代からの最も代表的な名演はクーベリック指揮のドイツ・グラモフォン盤だと思うのですが、残念ながら現在CDは廃盤になってしまっているようです。


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 CDでも何種類か名演が出ていますが、スイトナー指揮の、ドイツ統一直前の時期の名演が私は最も好きです。


スイトナー/パレストリーナ icon 左矢印HMVへ


アレグロ・オルディナリオ~マーラーを中心としたクラシック音楽のことなど

 そして、もう一曲は、晩年に書かれた交響曲第2番 作品46(1940年)。

 この曲については次の言葉が大変に的確に特徴を表していると思います。

「…すでにあらゆる拘束からも煩悶からも解放されたような、透徹した明るさとかすかな憂愁、そして儚さが同居したような佳曲である。…」 (宮下誠・著『20世紀音楽 クラシックの運命』p.130)


 プフィッツナーが亡くなった2ヶ月余の後のザルツブルク音楽祭でのフルトヴェングラーの演奏が残されています。歴史的な名演だと思います。


プフィッツナー/交響曲第2番・ブラームス/交響曲第4番他 icon 左矢印HMVへ


アレグロ・オルディナリオ~マーラーを中心としたクラシック音楽のことなど

 ただ、何といっても60年も昔の、しかもライヴなので、初めてお聴きになるには次のCDの方が良いかもしれません。


交響曲第2番・小交響曲他 icon左矢印HMVへ


アレグロ・オルディナリオ~マーラーを中心としたクラシック音楽のことなど

 本日、2009年5月18日は、グスタフ・マーラー(1860-1911)の98回目の命日に当たります。

 それで、今日は少々珍しいものを取り上げたいと思います。  


 交響曲第10番の第1楽章を15の独奏弦楽器のために編曲したものです。

 編曲者はハンス・シュタットルマイアという人で、スコアは1971年に出版されています。

 

 濃厚なこの交響曲が実に精緻で親密なものになっています。

 編曲者のシュタットルマイア自身が指揮をして、1973年にレコードになっています。


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 DECCA 7152


 演奏しているのは、ミュンヘン室内オーケストラで、A面にはリヒャルト・シュトラウスの『メタモルフォーゼン』が入っています。そのA面ととても調和しているといえばこのシュタットルマイアによる編曲がどのようなものかある程度お察しいただけると思います。

 ただ残念なことにこのLPは1973年にフランスで出ただけでそれ以後まったくどのような形でも出ていないようです。もし中古レコードを取り扱っているお店で見かけたらぜひ入手されることをお勧めいたします。

 

 ところが2年ほど前にこのシュタットルマイアの編曲にさらにクレーメルが手を加えた録音(20の弦楽器によるもの)がCDで出されました。シュタットルマイアのものに比べるとかなり濃厚な味付けになっていますが、これも素晴らしいものだと思います。

 また、一緒に入っているショスタコーヴィチの交響曲第14番も聞き逃せません。


アレグロ・オルディナリオ~マーラーを中心としたクラシック音楽のことなど


 

クレーメル/マーラー・ショスタコーヴィチ icon左矢印HMVへ




本日は演奏会のお知らせです。

アレグロ・オルディナリオ~マーラーを中心としたクラシック音楽のことなど


クヮトロ・ピアチェーリ 宗次ホール・デビュー・コンサート


2009年5月31日(日)15:00開演 14:30開場


ナンカロウ:弦楽四重奏曲 第1番

矢代秋雄:弦楽四重奏曲

ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第2番 イ長調


会場:宗次ホール 左矢印HPへ

(名古屋市中区栄4-5-14) TEL:052(265)1715


クヮトロ・ピアチェーリのご紹介(演奏会チラシから引用)


「 日本のオーケストラや室内楽の分野だけではく、ソリストとしても活動し、古典から現代作品まで、幅広く、豊かな演奏経験を持ち合わせた、4人による弦楽四重奏団。カルテットの活動を通し、室内楽の楽しさ、醍醐味を伝えていこうと、イタリア語で「喜び、楽しみ」という意味を持つ「ピアチェーレ(piacere)ということばをグループ名に掲げ、2005年に結成した。2006年秋から、「ショスタコーヴィチ・プロジェクト」と名づけた年2回の定期演奏会をスタート。ショスタコーヴィチの全15曲の弦楽四重奏曲に取り組むと同時に、毎回、ショスタコーヴィチ以外の海外の作曲家、日本人作曲家の作品を各1作紹介し、弦楽四重奏曲における現代作品のレパートリーの拡大と普及につとめている。」


 上に引用した紹介文にもあるように、このクヮトロ・ピアチェーリは非常に意欲的なプログラムで活躍しています。

 今回、宗次ホールにデビューということで大いに期待しています。そして、ぜひ名古屋でもこれからショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全曲演奏会を実現させていただきたいと思います。

 そのためにも、名古屋および近郊にお住まいのショスタコーヴィチ・ファンだけではなく、室内楽ファン、いや、熱心な音楽ファンの方は5月31日に宗次ホールに集まってホールを一杯にしましょう!


 ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第2番は、第2番という若い番号から初期の作品と思われがちですが、ショスタコーヴィチは弦楽四重奏曲というジャンルに対しては非常に慎重だったために第1番が書かれたのが1938年(あの交響曲第5番の次の年)なのです。

 第2番は、作曲時期としては第二次世界大戦末期、交響曲第8番と第9番の間に書かれた、作曲家として円熟の域に達したショスタコーヴィチならではの特徴に満ち溢れたきわめて充実した大作です。他の作曲家の交響曲を1曲聴くぐらいの満足感が得られること間違いなしです。

 この曲が聴けるということだけでも、このコンサートは十分すぎるぐらいにありがたいものなのですが、コンロン・ナンカロウ(1912-1997)の弦楽四重奏曲第1番が聴けるというのもたいへんに貴重なことだと思います。

 ナンカロウという作曲家は、自動ピアノを使っての不思議な世界を作り上げた(というか、変な世界にのめりこんでいった)、わけのわからない人として知られていますが、それらの自動ピアノの世界に取り付かれる前の「普通」の音楽は、何とも不思議な温かくて優しい、でも、ケージ以後にしかあり得ないような世界を創り出しています。たぶん生でお聴きになるとかなりの人が病み付きになる音楽であるのではないかと思います。

 そして矢代秋雄(1929-1976)です。

 1929年生まれですから、今年が生誕80年という記念の年です。今回演奏される弦楽四重奏曲は1955年(ちなみに私が生まれた年です)に作曲されたもので、20世紀の日本の音楽を考える上で極めて重要な作品だと思います。


 そして会場が、あらゆる面で素晴らしい「宗次ホール」!

 

 これを聞き逃したら、きっと後悔します。


なお同じプログラムでの演奏会が5月30日(土)王子ホールでも行われます。

 お問い合わせ先:,東京コンサーツ 左矢印HPへ

 (03-3226-9755)



 本日5月5日は、ハンス・プフィッツナー(1869-1949)の140回目の誕生日です。ちなみに今年は没後60年でもあります。

 今日の、特に日本では、あまり人気のない作曲家の一人になってしまっていますが、私としてはもっと聴かれるようになってほしいと思っている作曲家の代表的な人です。「最後のロマン主義者」とか「遅れて来たロマン主義者」というように言われることが多いのですが、時代としての、あるいは時代思潮としての「ロマン主義」ではなくて、人間にとっての根源的で普遍的な「ロマン主義的なるもの」を徹底的に追求した作曲家であると思っています。

 この人の音楽について書かれた最も的確な(ちょっと難解かもしれませんが)文章を引用したいと思います。


「……しかし、彼の音楽を「保守的」の一言で葬り去るには、彼の音楽はあまりに美しすぎる。なるほど、数多く作曲された歌曲は地味で暗いものがほとんど。諦念や回顧、挫折や憧憬といった、ロマン主義的自己陶酔、自己弁護が横溢していて、今日の聴衆には理解されがたいのかもしれない。その管弦楽曲も派手なところなどみじんもなく、ひたすら地味に鬱々と進んでゆく。しかし、室内楽のいくつかにはそのような晦渋さを超えて天空を飛翔するような、突き抜けた美しさ、明るさが垣間見られる。歌曲や管弦楽曲、オペラにも、それらをじっくり聴きさえすれば、聴くものの心を捉えるような切ないとさえいいうる美しい瞬間に出会えないわけでもない。

 クラシック音楽のモダニズムにかげりが見えはじめて久しいが、わたしたちはそろそろ、プフィッツナーの音楽に見られるような晦渋さのヴェールの向こうでほの白く光るロマン主義的音楽の余韻に耳を傾けてもよい頃合いだと思う。その表情は思いのほかに過激である。ロマン主義は、実は今なお超克などされてはいないのではないか? 前衛の陰に隠れて密やかに息づく彼の音楽は、そのような思いを確信へと導いていくれる。……」

                            (宮下誠・著『20世紀音楽 クラシックの運命』光文社新書)


 最も代表的な作品はオペラ『パレストリーナ』ですが、これはとても馴染みにくい作品です。引用した宮下先生の文章の中にもあるように、室内楽のいくつかが、ほとんど知られていないようなのですが、この人の音楽の魅力に触れるのには適していると思います。


アレグロ・オルディナリオ~マーラーを中心としたクラシック音楽のことなど

プフィッツナー/室内楽曲集(4CD) icon 左矢印HMVへ


 このCDは4枚組みなのですが、ケースと中のジャケットにカスパー・ダーヴィト・フリードリヒの素晴らしくぴったりの絵が使われています。この絵を見るだけでもこのCDは手に取る価値があると言っても言い過ぎではありません。

 


引用した宮下先生の本。

20世紀音楽 クラシックの運命 (光文社新書)/宮下 誠
¥1,050
Amazon.co.jp

本日4月22日は、若くして癌で逝ってしまったイギリスの偉大なコントラルト、キャスリン・フェリアー(1912~1953)の誕生日であったことを、緑の錨さん の記事で思い出しました。


この人が短いキャリアの中で遺した録音には、バッハやヘンデルの素晴らしい演奏や、シューマンやブラームスの名唱、そして、ブリテン(作曲家自身がこの人を想定して作曲したという)の名演もありますが、なんと言ってもこの人の名前と強く結びついている曲は『大地の歌』でしょう。
ある年齢以上の方の中には、ブルーノ・ヴァルター指揮のヴィーン・フィルのもとでこの人が歌った1952年録音のレコードでマーラーに出会ったという人がたくさんいらっしゃると思います。
数あるマーラーの録音の中でも多くの人をマーラーに導いたという点では一、二を争うレコードではないでしょうか。
そのオリジナルのLP(London-LL625/626)です。

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さらにこの人の歌ったマーラーとしては、1951年のアムステルダムにおけるクレンペラー指揮の第2番のライヴがあります。20年以上眠っていたものが、収益を「キャスリン・フェリアー 癌研究基金」に寄付するという条件で著作権の所有者から許諾が出て、LP化が実現した時は本当に感動的でした。(Decca-D264D2)

ソプラノパートを歌っているのはジョー・ヴィンセント、あのメンゲルベルク指揮の第4番で歌っている人です。


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これらは現在は次のような形でCDになっています。


Mr.Mの雑記帳

『大地の歌』ヴァルター/ヴィーン・フィル icon   左矢印HMVへ


Mr.Mの雑記帳

交響曲第2番/クレンペラー/コンセルトヘボウ icon  左矢印HMVへ

また、フェリアーのマーラーの録音には、近年になってようやく聴けるようになったたいへんなものがいくつかあります。その中でも特に重要だと思われるものを次に二つ挙げます

交響曲第3番と『亡き子を偲ぶ歌』。
まず、サー・エイドリアン・ボールト指揮の交響曲第3番です。これは、1947年11月29日のBBCによる放送録音です。このCD、今日までに市販されたこの第3番の演奏の記録としては最も古い日付のものであるという点でも貴重です。


Mr.Mの雑記帳

交響曲第3番/ボールト他 icon 左矢印HMVへ


また、クレンペラー指揮による『亡き子を偲ぶ歌』は、1951年7月12日のコンセルトヘボウでのライヴ。先に挙げた第2番と同じく、マーラー没後40年の年の演奏です。

そして、最後にもう一枚。


Mr.Mの雑記帳


『大地の歌』バルビローリ/ハレ管弦楽団 icon 左矢印HMVへ


冒頭が欠落していたり途中にもいろいろときずがあったりと、問題のある貧弱な録音ですが、バルビローリの『大地の歌』となれば、マーラーに惹かれる人は聴かずにはいられないのではないでしょうか。