本日5月5日は、ハンス・プフィッツナー(1869-1949)の140回目の誕生日です。ちなみに今年は没後60年でもあります。

 今日の、特に日本では、あまり人気のない作曲家の一人になってしまっていますが、私としてはもっと聴かれるようになってほしいと思っている作曲家の代表的な人です。「最後のロマン主義者」とか「遅れて来たロマン主義者」というように言われることが多いのですが、時代としての、あるいは時代思潮としての「ロマン主義」ではなくて、人間にとっての根源的で普遍的な「ロマン主義的なるもの」を徹底的に追求した作曲家であると思っています。

 この人の音楽について書かれた最も的確な(ちょっと難解かもしれませんが)文章を引用したいと思います。


「……しかし、彼の音楽を「保守的」の一言で葬り去るには、彼の音楽はあまりに美しすぎる。なるほど、数多く作曲された歌曲は地味で暗いものがほとんど。諦念や回顧、挫折や憧憬といった、ロマン主義的自己陶酔、自己弁護が横溢していて、今日の聴衆には理解されがたいのかもしれない。その管弦楽曲も派手なところなどみじんもなく、ひたすら地味に鬱々と進んでゆく。しかし、室内楽のいくつかにはそのような晦渋さを超えて天空を飛翔するような、突き抜けた美しさ、明るさが垣間見られる。歌曲や管弦楽曲、オペラにも、それらをじっくり聴きさえすれば、聴くものの心を捉えるような切ないとさえいいうる美しい瞬間に出会えないわけでもない。

 クラシック音楽のモダニズムにかげりが見えはじめて久しいが、わたしたちはそろそろ、プフィッツナーの音楽に見られるような晦渋さのヴェールの向こうでほの白く光るロマン主義的音楽の余韻に耳を傾けてもよい頃合いだと思う。その表情は思いのほかに過激である。ロマン主義は、実は今なお超克などされてはいないのではないか? 前衛の陰に隠れて密やかに息づく彼の音楽は、そのような思いを確信へと導いていくれる。……」

                            (宮下誠・著『20世紀音楽 クラシックの運命』光文社新書)


 最も代表的な作品はオペラ『パレストリーナ』ですが、これはとても馴染みにくい作品です。引用した宮下先生の文章の中にもあるように、室内楽のいくつかが、ほとんど知られていないようなのですが、この人の音楽の魅力に触れるのには適していると思います。


アレグロ・オルディナリオ~マーラーを中心としたクラシック音楽のことなど

プフィッツナー/室内楽曲集(4CD) icon 左矢印HMVへ


 このCDは4枚組みなのですが、ケースと中のジャケットにカスパー・ダーヴィト・フリードリヒの素晴らしくぴったりの絵が使われています。この絵を見るだけでもこのCDは手に取る価値があると言っても言い過ぎではありません。

 


引用した宮下先生の本。

20世紀音楽 クラシックの運命 (光文社新書)/宮下 誠
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