1986年12月20日公開、男はつらいよ第37作。
昨年の1月に寅さんのDVDマガジンが隔週で発売開始されてから、少しずつ映画の感想などをブログに書いてきましたが、この半年ほど他の趣味が忙しくて中断しておりました。今日は発売を待ち望んでいた第37作「幸福の青い鳥」が発売になったので、これまでは刊行順にアップしてきたレビューの順番を飛ばし、特別に最新刊の解説を書いてみたいと思います。
なあ、さくら。
俺らはあの娘に“幸せ”ってヤツを
手渡してやりてェのさ。
上のセリフは劇場公開当時のパンフレットに書かれていた、この映画のキャッチコピーです。長渕ファンの私にとってこの作品は、4年前の年賀状にも上のセリフを流用して使ったほど思い入れの深い作品です。
(年賀状のマドンナはキャンディ)↓
本作のマドンナ志穂美悦子さん(島崎美保役)は、寅さんがこれまでのシリーズで何度となく旅先で出会っては親交を結んできた、坂東鶴八郎一座の花形女優・大空小百合(芸名)の成長した姿、という役どころです。
その坂東鶴八郎(後の中村菊ノ丞)が他界していたことを旅先で知った寅さんは、旧炭住にあるという座長の実家を訪ねます。そこにはかつて、一座の花形女優だった座長の娘が1人で暮らしていたのでした。
この旅回り一座は、第8作「寅次郎恋歌」、第18作「寅次郎純情詩集」、第20作寅次郎頑張れ!」、そして第24作の「寅次郎春の夢」と計4回登場しているので、過去の作品を全て観てからこの「幸福の青い鳥」を鑑賞できたなら、より一層この作品を深く理解できると思います。
座長の実家のシーンでは、美保がその昔、下田の小さな芝居小屋から傘をかざして寅さんを旅館まで送って行ったという懐かしい思い出話が語られます。寅さんはこの時、送ってきた大空小百合に「ほんのちょっとだが、皆さんで一杯飲んでくれ。」とお金を渡したのですが、千円のつもりが間違えて五千円渡してしまったというエピソードは、第8作の冒頭のシーンでしっかり確認することができますから、この37作を観たあとにでも、ぜひレンタルして観てほしいところです。
寅さんの映画は、この第8作が公開された1971年から「幸福の青い鳥」が公開された前年まで、毎年お正月と夏休みの年2回ペースで新作が作られていましたが、1986年の夏に山田洋次監督が「キネマの天地」という映画を撮影していたことから、この年は寅さん映画が1本しか作られませんでした。映画の中では寅さんからの電話を受けたさくらが、「どうしたのよお兄ちゃん、1年間もご無沙汰よ。」と言うシーンがあって、思わず頷いてしまいます。
たった1人の肉親の父親を亡くし、「幸福の青い鳥がほしい。」と言う幸せ薄いマドンナに寅さんは、たまたま啖呵売で売れ残っていた青い鳥を手渡して勇気づけました。
ちなみに、過去の作品では関西弁で話していた大空小百合が、なぜ九州出身の設定に変わったのか?過去の作品では寅さんのことを「車先生」と呼んでいた大空小百合が、なぜ今回は「寅さん」と呼んだのか?そして、これまで4回も会っていたはずなのに、寅さんの四角い顔をなかなか思い出せなかった大空小百合が不自然だ!など、いろいろツッコミどころはありますが、それでもファンにとっては長渕剛が出演しているだけでOKなのです。細かいことは言いっこなし、寅さんに怒られちゃいますね。
※ と、このすぐ上までのレビューは、今回の「幸福の青い鳥」が発売になる前の先週末に書いたものでしたが、先ほど買ってきたばかりのDVDを再生してみてビックリ、立川志らくが解説映像で全く同じことを話していました(パクられた?)。
寅さんは毎度のようにマドンナに惚れていたのですが、美保に好きな男がいるとわかった瞬間から、若い2人の後押しをしてくれました。
「お前はあの男が好きだし、あいつはお前に惚れてるよ。」
寅さんの器の大きさと深みを感じます。
マドンナの志穂美悦子さんとゲスト出演の長渕さん(倉田健吾役)の2人は、この映画の共演がキッカケで結婚したと言われていますが、この映画が公開される前の6月7日から8月16日まで、TVドラマの「親子ゲーム」でも共演していたので、むしろドラマがキッカケだったかもしれませんね。
長渕さんにとって、志穂美悦子さんとの結婚はとても嬉しかったようで、全11回のドラマ放映が終わった直後、テレビ朝日系の「徹子の部屋」に出演した彼は、自分の音楽に対する考え方やライブへの取り組みなどを語っていましたが、番組が終わりに近づいたところで、自分から「僕、寅さんに出るんですけど。」と映画出演の話を突然切り出します。
それを聞いた黒柳さんは、すかさず「マドンナはどなた?」という質問をぶつけます(知ってるクセに)。本人の口から「マドンナは志穂美悦子さんです。」と言わせたところで、当時の週刊誌に書かれていた2人の噂について鋭くツッコミを始めるのですが、結婚についてゆっくり考えたいとハッキリ語る長渕さんが実にカッコイイのでした。
映画の中では、とらやの面々が上京してきた美保の就職について話し合っていたところへ、たまたま地元のラーメン屋さん(上海軒)が出前を届けに来るシーンがありました。人手が足りなくて困っているという主人(桜井センリ)の言葉に美保は、その場で「このおじさんのお店でもいいんだけど。」と働きたい自分の気持ちを伝えます。
「つらいんだぞお前、ラーメン屋って!知ってんのか?」と声をあげる寅さんに、「うん。私、前に中華料理屋で働いとったことがあるの。」と答える美保。そして、(その屋号はもちろん九十番ラーメンでしょ)と、心の中でつぶやくロゴホリック。
(このフリ、キラーパス↑)
そういえば展覧会に落選した健吾の作品は「心象風景」というタイトルでしたが、長渕さんの90年代に発表されたアルバムのデモテープにも、同じタイトルの曲がありましたね。このあたり、長渕ファンならピンと来たはず(ニヤリ)。
ところで、美保が就職した柴又駅前(参道からは線路の反対側)の上海軒のシーン、九州のとんこつラーメンを主人に作ってみせているところへ3人の客が入ってきます。その3人のうち真ん中にいるのが、寅さんファンにはお馴染みの備後屋と呼ばれる男。実はこの人(露木幸次さん)、映画の装飾と小道具担当なのですが、男はつらいよのシリーズには何度も役者として登場しています。
そして、寅さんの紹介で上海軒に若い女性店員が入ったことを知った備後屋が、隣にいた板前風の舎弟に、「おい、ニュースだ、行け!」とみんなに知らせるよう走らせるのですが、「上海軒に寅さんの恋人がいるぞ!」と柴又中にふれ歩くこの若い男は、当時22歳の出川哲朗さんでした↓
この他にもクレジットには名前が載っていない有名人と言えば、エンディングの芦ノ湖のシーンで寅さんが啖呵売をしていたところを通りすがる有森也実(特別出演)の仲間のうち、白いコートにピンクのマフラーをしている女性がエド・はるみさんだと言われています。
寅さんの映画は、公開前に作られた予告編の映像と本編では同じシーンでもテイクが違ったりすることも多いので、それらを観比べてみるのも楽しいのですよ。この「幸福の青い鳥」の予告編は、2週間前に発売されたDVDマガジンVol.38(男はつらいよ第36作・柴又より愛をこめて)の巻に収録されているので、この機会に全巻揃えてしまいましょう!
最後に、映画の中で2回登場するハーモニカのキーですが、1回目の公園のシーンはC、そしてお正月に諏訪家の二階で使われたハーモニカはAだと思われます。どちらもクロス奏法という息を吸う音をベースに演奏する難易度の高いテクニックなので、簡単そうに聴こえるメロディでも再現するのは難しいです。長渕ファンならぜひ練習を重ねて、オフ会でも披露できるようにしておきましょう。
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