君に伝えたくて、これを書いている。

何かクリエイティブな気分になったから書くわけじゃないんだ。

いわばメモ代わりだと思ってくれたほうが、これから告白めいたことを書くわけなので、気持ちが楽でいい。

だから、まあ、気楽に読んでくれ。

さっき、自転車をこいで自宅に帰る夜道、バーで飲んだビールと、職場で食べたチョコレートがゲップでまじりあいながらのど元にこみ上げた。

ああ、いやな感覚だ、ととっさに思った。

だって、そうだろう?胃の中でまじりあった異種のものが、口の中の味として再現されるんだぜ?いいわけない。

でも、チョコレートとビールって、まじりあうとオロナミンCドリンクの味になるんだな。

それはたぶん、胃液の味が隠し味になって、チョコ+ビールがオロナミンCドリンクの味わいみたいになったんだ。

経験は経験でしかない。真価は、ことが起こったそのあとで、初めて評価されるものなんだ、って気付いたわけ。

だから、今までの思い出の中で、これは最悪だ!みたいなものを思い出してみた。

君との顛末も。

思い出してみたけど、これは最悪!と思えるほどの最悪でもないし、どれもこれも、過ぎてしまえばいい思い出だ。

そんなことを、ゲップがもとで思ったのだから、さっきのゲップは一種の奇跡なんだろう。

たとえ話が汚くてごめんね。

君とのことがひどいものだったから、いままでずっと思い出さないようにしていたけど、たぶん、怖かったんだ。

でも、もうそろそろ思い出してもいいころ合いかな、と、さっきのビールの件で思ったんだ。

何が悪いとか、どっちが悪いとか、そんなことばっかり考えていたけど、もうどうでもいい。君と過ごした時間は、素晴らしかったよ。ありがとう。







「べきである」というセンテンスを、使うまいと思いながら、思いながらも使いたくなる心裡。
「べきである」を使うべきか否か。
心情は使いたくないが、それ以上に訴えたいことがらがある以上、使わざるを得ないのが実情である。


 

 

息子が3歳になった。

2歳になったばかりのころと今との大きな違いは

良く喋るようになったことだろう。

どこで覚えたのかそんな言葉・・・なんて、世間でよく聞く様なことが、自分の息子にもたくさん当てはまる。

少しづつ文字も読めるようになり、いずれ、自分の考えを、より具体的に表現できるようにもなるのだろう。

何を考え、どうしたいのか、語り合えるその日が待ち遠しい。

 

 

年を食って何が変わったかって?

そうだな、涙もろくなったかな。

たぶん、愛するものが増えたからだろう。

愛するものってのは、結局、自分なんだろうな。

時間とともに、自分は増える。

自分が増えると、かかわることすべてがかわいくなって、

どうしようもないことに涙もろくなるんだよ。

これは何のプログラムだろうねえ。

 

 

 

 

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明けましておめでとう。
明けない年はありませんね。

安定の尻尾ばかり追い求めた結果、自分らにはもう時間が無くなっていたなんて笑い話にもならない。
「生きる」という事は「リスクを覚悟する」ところから始まると思う。
少なくとも思い出だけは残る。


玄関で靴を履こうとかがんだ瞬間、胸ポケットに入れておいた水晶の結晶がタイル地の床に落ちて割れた。
綺麗な金属音が響いた。
割れた水晶はいくつかの破片になり、それぞれが太陽の光を反射し、七色のスペクトルを放射してキラキラと光った。
彼女はその一部始終を見ていた。
何か言うかな、と思ったが、彼女は何も言わなかった。
その日は海に行ったのだが、デートの最中彼女は殆ど話をしなかった。
浜辺に座り夕陽の沈む海を眺めながら、気が付くと彼女は静かに泣いていた。


その水晶は海外で鉱物の採掘をしている友人からもらったものだった。
懇意にしてもらっている僧侶にその石を見てもらったら、まだ幼い小人が住んでいるというお告げを頂いた。小人はたまにいたずらをするだろうけれど、あなたを好きだと言っている、と僧侶は教えてくれた。
俺は小さな神棚を作り、水晶を祀った。
僧侶に言われたとおり、小人の好みそうなお菓子をお供えした。

「小人さん、遊んで欲しいかな」

水晶を透かして眺めながら、彼女はとても優しい顔をしていた。
わたしが一人で部屋に居るときには出てきてね、遊んであげるからね、と語り掛けて、そしていつまでも空中に透かして見ていた。
それから彼女は何かにつけて水晶片手に小人さんとお話をしていた。
彼女曰く、それは決して独り言ではなく、小人さんとのお話なのだ。
風呂に入っては小人を排水口に流し、橋を渡れば橋の真ん中あたりで川に突き落とし、バーに出かけるとグラスの中に溺れさせた。

「あんまりいじめると小人さん、出てこなくなっちゃうよ」

「いじめてるんじゃないわよ、遊んであげているの」

「なんでいつも溺れさせようとするんだ?」

「小人さんは泳ぎが下手なんだって」

「それじゃ死んじゃうよ」

「大丈夫だよ、だって小人さんは魔法が使えるんだよ」

「でも、いくらなんでも風呂の排水口に流すのはかわいそうだろ」

「うわー!って流されてくるくる回りながら排水口に吸い込まれていくんだよ?ちょーかわいくない?」

「それ、かわいいのか?」

「かわいい子には旅をさせなくちゃ。広い世界を見て、海まで流されたらきちんと帰ってくるんだから。ちょっとした旅行よ。もし海まで遠くて、一人ぼっちで川にぷかぷかと浮かびながら星をかぞえるのも飽きちゃったら、泣きながら飛んで帰ってくから心配してないわ」

「帰り道が分からなくて帰ってこれないかも知れないじゃないか」

「大丈夫よ、水晶のおうちはここにあるんだから。お土産にお魚を持って、ちゃんと帰ってくるわよ。だから明日あたり晩御飯はお魚ね」

「じゃあ、小人は喜んでるの?」

「あたりまえじゃない!喜んでるよ。小人さんとあたしは超なかよしさんだもん」

「じゃあいつか、小人をつれてみんなで海に行こう」       彼女とはその後間もなく別れた。何が原因だったのかよく分からないが、小人が居なくなってしまったのも、その原因の一つだろうか。




夢を見た。



もうろうとしててごめん、ざっと話すとこんな感じだ。


長谷川のオヤジが残した古いアルバムは戦時中のものだった。
陸軍将校。

皆が整列する写真。



いつの間にか写真の中にいた。

白黒ではなく現実の風景は美しいカラーだった。

そこにはとても若い長谷川のオヤジが居て、オヤジというよりも同級生の様だった。


夜、空襲警報が鳴る。
南方の島の様な田舎道を、たくさんの人が荷物をまとめ逃げてゆく。

軍人たちが皆を誘導している。
火の粉がとぶ。

そこでその風景は白黒写真にもどり、長谷川のオヤジは、もとの老人となって目の前にいた。
オヤジは、昔進駐軍たちが戦争の首謀者を探していた頃、人里はなれた場所で将校たちを斬首し、その首を道に晒して、責任をすべて「首」になすりつけようとしたか何だかの、誰も知らない歴史を語った。

俺は興奮した。
その景色に中にさっきまで居たんだ。

総天然色の戦時下の、むちゃくちゃな時代の田舎におれは居たんだ。

戦争責任は将校たちにあるんじゃない。将校たちは身を呈してたたかったんだ。


生き残りは今や主張らしいこともすることのない老人だった。

真実は彼らとともに滅びようとしていた。 
人生なんて短いな、と思った。
平安な世の中なんて、ほんとは無いんだな、と思った。

よく寝た。7時から11時半までの4時間半。
4時間半でいい旅をしたよ。

いつどんな「今」だって、いずれモノクロ写真の風景画に変わる。
今を大切に生き、伝えるべきことは伝えなければだめなんだって、誰だっけ・・・
誰かも言ってたな。


恭子の夢は山羊を飼うことだった。山羊なんか飼ってどうするのか尋ねると
「チーズを作るのよ」。
山羊を飼う人はたくさん居る。沖縄に行けば、人間の数ほど山羊が居るだろう。それは、山羊を食う文化がそこにあるからだ。でも、山羊の乳が欲しくて山羊を飼う人は、俺の身近には存在しない。だって、山羊の乳を買えばいいだけの話じゃないか。
それを聞いた恭子は「あんた、分かってないわねぇ」とでも言いたげに、眉間にしわを寄せる「困ったふう」の顔で微笑んだ。
「じゃあ、山羊のお乳って、どこで売っているの?」


俺は彼女の「困ったふう」の笑顔が好きだった。それがなんでだかずっと分からなかったけど、彼女が居なくなって、分かった気がする。彼女との情事の思い出は、どんなプレイをしたか、とか、何回イッたとか、忘れてもいい様なことを鮮明に思い出させる。それは、濃密な、特別な時間だった。とりわけ、彼女の「困ったふう」の笑顔・・・裸にされ、緊縛された彼女は、抵抗出来ない状況で最も感じる部分を触られて、気持ちいいのと恥ずかしいのとで「困ったふう」の照れ笑いをした。
それから彼女の「困ったふう」を見るたび、俺は密かに勃起した。
俺はあの「困ったふう」を見たくて、彼女と会っていたのかも知れない。



チーズを作る理由は?
別に本気で「チーズを作る理由」が知りたかったわけではない。チーズの話など、どうでも良かった。話が尻切れトンボになるのが嫌だったから、いわば、その先の話題に繋がる材料を探していたのだ。
だが、期待とはうらはらに「その先に繋がる」材料など見つからなかった。
「チーズが好きだからよ」
「それだけ?」
「うん、それだけ」
「じゃあ、チーズを買ってくればいいんじゃないか?」
「それって何が楽しいの?じゃあ、セックスをする理由は?子供を作るため?そうじゃないでしょ?」
そしてまた困ったふうの笑顔。




あれはスポーツスターだ。たぶん70年代のものだろう。クラッシックバイクのくせに、信号ダッシュの素晴らしさは流石のトルク太だった。それもせいぜい120キロ、良くても130キロまでの話で、高回転の伸びはDOHCのZに分がある。俺は深夜の環七で、不意に俺をぶちぬいたハーレーを追いかけていた。
信号の相性が良ければ俺が軽くブッちぎるに決まっていたが、そのスポーツスターは160キロを越えてなお加速の衰える事は無かった。
くそぅ、こいつイジってやがるな?一般公道を180キロで疾走する二人には、もはやお互いに感心が無いとは言えなかった。何をどうイジれば、こんなポンコツOHVが160から加速するのだ、前を行くニクいあいつの股下から、プッシュロッドのガチャガチャいうエンジンノイズが伝わってくる。
ままよ、とこれ以上回らないところまでアクセルをねじ上げた。高回転の伸びで、まだまだ優位を予感したのは、俺のZだって伊達にいじっていない、ということだ。メーターは200キロの目盛りを越えて更に伸びた。
すれ違いざまにハーレー野郎をちらと見ると、フルフェイスの後ろからはみ出たロン毛が、鞭打つ様に背中を叩いていた。


扱い辛い70年代の、しかも何処ぞをいじってあるハーレーを、まさか女の子がブン回しているとは驚きだった。
信号待ちの度にフルフェイスのシールドを上げるが、その中にバッチリとキメたアイシャドウのまなざしが、まるでディズニー映画に出てくる魔女の様であり、長いつけマツゲが「これでもか!」とばかり天に向かって反り返っていた。    
「姐さん、イケてるねぇ」
何度目かの信号待ちのとき、たまらず声をかけた。彼女は一瞬俺を見たがすぐに目線を前方に据えて
「関係ないでしょ」
と、クールを装った。
「あんた速いよ。名前は?」
応えないだろうと思ったら、意外にもあっさり「ヨーコ」と教えてくれた。
「ねえヨーコ、どこいくの?」
「あんたがついてくるのをあきらめるところまで」
わざと俺をムカつかせようとしているのか、そうじゃなきゃ相当スカした姐ちゃんだ。
「俺、ヒデっての。ヨロシク」
名乗り終わる前に彼女は、少しだけタイヤを鳴らしロケットダッシュでスタートした。


車がいれば、それはパイロンだ。深夜で車の少ない時間帯でも、180キロを越える猪突猛進なら、僅かに走る車さえ大きな障害物だった。
俺のZは70年代のか弱いフレームだ、高速走行をすると、車をかわすたびにヨーイングが出て不気味だったが、それよりもショベルのスポーツスターのハンドリングの方が更に不安定だろうな、と思った。
それをヨーコは見事に押さえ込んで乗りこなしている。
突っ張っているばかりじゃない、本当のクールを久しぶりに見た。
「ねえ、怖くないの?」
たぶん大田区のどこかの交差点だった。
シールドを上げた奥のまなざしがこちらを横目で見ていた。
「あ?そりゃこっちのセリフだぜ?あんたのハーレーはどんなフレームしてンだよ」
「フレームはノーマルよ。スタビだけ着けてるけど」
スタビライザーはガチガチに硬くしてあるのだろう、そうじゃなきゃハーレーのフレームでドゥカティの様には走れっこない。それなら、彼女の腕力はいかばかりのものか、推して知るべしだった。
そのとき、誰かが俺の左腕を掴んだ。黒い人影だった。
ヨーコも黒い人影にハンドルを抑えられていた。
「はい運転手さん、エンジンを切って車を路肩に寄せて」
交通機動隊だった。ミラーを見ると、黒いRX-7が赤灯も点けず、すぐ後ろに停車していた。俺たちはバトルの最中、交機の覆面をぶち抜いていたのだ。俺は一旦キーをオフにしエンジンを止めた。気取られないようにキルスイッチをオフにし、路肩に寄せるフリをしながらキーをオンにした。黒い人影は俺を誘導していた。
瞬間、キルスイッチをオンにし、セルボタン一発でエンジンを掛けると、アクセルを全開にした。まるでボクサーのパンチさながらの速さでその場を離脱、タイヤが鋭く鳴った。交機の野郎が俺の左の二の腕を掴もうとしたが、Zのトルクに適うことなく、俺は奴の腕をすり抜けた。
あとで見たら、腕に引っかいた跡が残っていた。



ヨーコ、あのときは置いてけぼりにしてゴメンよ。
でも確かに、キミが予言したとおり、キミの行くところまで俺は一緒に行けなかった。
あのとき、キミは警官に腕を抑えられながら、逃げていく俺の後姿を見送っただろう。背中にガルーダと書いてあったのを覚えているかい?なんて卑怯なやつ、と思ったかい?
でも、それは言いっこなしだぜ。お互い、分かっててやってたんだから。
あの時の俺のバイク、あれ、盗まれちゃったんだ。だから今の俺は翼の折れたエンジェルならぬ、翼の折れたガルーダなのだ。
キミはまだハーレーに乗っているかい?

俺たちはクラゲの様だ。ウミウシでもナマコでもいい。
水っ気たっぷりの、実に軟らかい不安定な肉体だ。
ひとたびアスファルトに転がれば、このゼリーみたいな体はどんどん削られ、いとも簡単に消失する。
つまり、股の下に高速回転する恐ろしいおろし金を感じながら、それでも俺たちはバイクから降りようとしない。
例えば、0.1秒の不注意で強固な壁面に激突する事だってあるだろう。バイクはフロントフォークをくの字に曲げるだろう。俺たちはといえば、脳みそや内臓をぶちまけながら、無残にグチャっと潰れるばかりである。
肌にまとわりつく蚊が、瞬間たたき潰されるのと何ら変わらない。そうなるのが嫌だから、俺たちは命の限り、何万枚もの壁をかわし続けなければならない。


バイクの整備をしていると、ネジやワイヤーで指先を、腕を傷付ける。火の落ちたばかりのエンジンが、エクゾーストパイプが、俺たちの柔らかいところを焼く。肉の焼ける臭いが漂う。プラグ点検で感電する。仲間だと思っていた鋼の塊は、決して馴れ合う事はない。水っぽい、軟らかい俺たちと相容れない事実を、俺たちを傷付ける事で主張しているのだ。あんたらは俺にまたがって悦に浸っているけどな、チャンスさえあれば振り落として叩きつけてグチャグチャにしてやるぜ。もしバイクに意思があるなら、きっとそんな風に思っているに違いない。


俺たちは猛獣をなだめすかし、高速回転するおろし金の上を無目的に疾走する気違いだ。迫り来る壁をかわしながら、なんとか命を繋いでいる気違いだ。
その破天荒な生き方が快感だから走り続ける愚か者。
つまり、バイクは麻薬だ。俺たちは最低のジャンキー野郎なのだから、世間様の欲しがる様な人並みの幸せを主張しちゃいけないのかも知れないぜ。
理不尽だと思うなよ、世間様の知らない、最上の快感を知る権利だけは持っているのだから。