俺たちはクラゲの様だ。ウミウシでもナマコでもいい。
水っ気たっぷりの、実に軟らかい不安定な肉体だ。
ひとたびアスファルトに転がれば、このゼリーみたいな体はどんどん削られ、いとも簡単に消失する。
つまり、股の下に高速回転する恐ろしいおろし金を感じながら、それでも俺たちはバイクから降りようとしない。
例えば、0.1秒の不注意で強固な壁面に激突する事だってあるだろう。バイクはフロントフォークをくの字に曲げるだろう。俺たちはといえば、脳みそや内臓をぶちまけながら、無残にグチャっと潰れるばかりである。
肌にまとわりつく蚊が、瞬間たたき潰されるのと何ら変わらない。そうなるのが嫌だから、俺たちは命の限り、何万枚もの壁をかわし続けなければならない。


バイクの整備をしていると、ネジやワイヤーで指先を、腕を傷付ける。火の落ちたばかりのエンジンが、エクゾーストパイプが、俺たちの柔らかいところを焼く。肉の焼ける臭いが漂う。プラグ点検で感電する。仲間だと思っていた鋼の塊は、決して馴れ合う事はない。水っぽい、軟らかい俺たちと相容れない事実を、俺たちを傷付ける事で主張しているのだ。あんたらは俺にまたがって悦に浸っているけどな、チャンスさえあれば振り落として叩きつけてグチャグチャにしてやるぜ。もしバイクに意思があるなら、きっとそんな風に思っているに違いない。


俺たちは猛獣をなだめすかし、高速回転するおろし金の上を無目的に疾走する気違いだ。迫り来る壁をかわしながら、なんとか命を繋いでいる気違いだ。
その破天荒な生き方が快感だから走り続ける愚か者。
つまり、バイクは麻薬だ。俺たちは最低のジャンキー野郎なのだから、世間様の欲しがる様な人並みの幸せを主張しちゃいけないのかも知れないぜ。
理不尽だと思うなよ、世間様の知らない、最上の快感を知る権利だけは持っているのだから。