”インプロはキャリアをつむほど下手くそになる”

ちょっと暴言っぽいけど、あながちハズレでもないと思う。

私が考えるインプロとは・・・
「見えない未来に対して策を講じたり、先を考えたりせず、
 今、この時を観じて、他のプレイヤーお客様と共有する」

さて、ここで問題なのが
キャリアを積んでいくと、
いろいろな経験によって、やはり無意識のうちに
策を講じていたり、先を考えていたりする。
それは、過去にやったインプロによる
成功した時のイメージや、失敗した時のイメージが
なんらか影響しているからかと思う。
そのため「今、ここで起きていること」に対して
フィルターがかかってしまう事があり得る。

さて、そこで初心者となると
そんなイメージは一切ないから
純粋に「今、この場」を感じる事ができる。
もちろん、見えない未来に飛び込んだ経験がないから、
その飛び込む勇気が大事なのだが。。。。

さて、ここで、ふと考えた。
つまり、初心者でも
見えない未来に安心して飛び込める状況を用意すれば
キャリアのあるインプロヴァイザーよりも
より純粋に「今、ここに」飛び込める。

もちろん、キャリアを否定をしているのではない。
でも、キャリアだけではインプロの優位は語れない。
むしろ、キャリアがある分、
常に新鮮な発見を得なければ、
それはインプロではなく、予定調和となってしまう。

普段の通勤の景色を
退屈と思うか、刺激的と捉えるか、
なんか人生を楽しく生きる術をインプロからも教わった感じだ。

インプロは、
演劇経験が浅い人でも舞台に立つことができる【ツール】ではある。


実際にインプロショーでは、
人生初舞台がインプロのショーである人も多い。
サンフランシスコでは
”Sunday Player"という、通常は舞台とはまったく無縁だが
日曜日にステージに立つプレイヤー達もいる。

それだけ、インプロが作る空間というものは、
観客にとっては魅力的である。


ただ、ここで大事なのは
”インプロさえすれば、観客が喜ぶ”という誤解の罠に
はまってしまう恐れがあるということである。


たしかに、インプロでつくられるシーンには
エネルギーや笑いや楽しみがある。
インプロのワークショップは
ほんとうに参加者のエネルギーに満たされているのが多い。


しかし、ショーとなると、”観客”の存在は不可欠である。

やはり、【舞台の上から立って、お客様に伝える】という部分を
演者がちゃんと意識していないと
インプロのショーとしては成立しない。


とはいっても、
【舞台の上から立って、お客様に伝える】といっても
そんなに特別な技術やスキルを得ないと
舞台の上に立つ資格がないというわけでもない。

ただ、これらの技術に少しでもケアすれば
さらに観客の方々と共に、魅力的な空間にいることができる
ということである。


では、ケアの仕方だが、
それこそ事細かく書くと、
演技論そのものになってしまう。

なので、簡単なモデルで考える。


簡単なモデルとは
「演技技術」を【入力】・【処理】・【出力】と分解してしまう。


空間や詩情を把握する感覚や、セリフや実体験を記憶する【入力】 。
キャラクターと状況を理解して、感情を励起する【処理】 。
そして【出力】にあたる部分が
「言葉」と「声」と「身体」の3要素である。


【舞台の上から立って、お客様に伝える】時に
これらのモデルがどのように機能していて、
どれがうまくいっていなかったか?

こう考えるだけでも、
次につながる気づきを得られる。


「見えない未来に向かい続ける」インプロでは、
どうしても、無意識のうちに安全である【自分の癖】に頼りたくなる。
しかし、【自分の癖】に頼りすぎると、
それは予定調和になっていく傾向がある。


なので、常に、稽古で、ショーで、
自分の癖に気づくべく、
これらのモデルで自分をケアしてみませんか?

過去のメモを掘り返していたら、
以前、大学の後輩の芝居観に行った時のメモがでてきた。


新人公演の初通しを観に行った時のメモ。

そう、新人である。
大学に入って、初めて演劇をはじめた人達のお芝居。

しかも初通し。

いろいろな事が演者の中で起こるのがみえた。


それはつまり、
演劇を知らないインプロバイザーがよくやりがちな事でもある。

舞台を観ながら、彼らからいろんな事を学んだ。

「何が私たちを不自然にしていくか」


なまじかキャリアを積むと、
変な技や癖で誤魔化すことをおぼえてしまうだけに、
この点を教えてくれる彼らこそ、本当の意味で先生である。


間違っても
「何故できない!」とか「下手くそ」と非難してはいけない。
できないのは初心者にとっては当たり前。誰だって初心者を経験している。
また、彼らは初心者を恐ろしく上手にやっている。
下手くそなんかでは決してない。
これは誉め殺しや当てこすりではなく、
真剣にそう思っているし、感謝している。


・セリフ、行動の後に感情がついてくる。
 実際は感情があるから、セリフ、行動が出てくる。
 そして、その感情を励起するものが何かを感じる必要がある。
 インプロでいえば、アイデアの後に感情がついてくるようなもの。
 実際は感情とかに押されて、目の前にあるものに反応して、
 アイデアが出てくるのが、spontaneous(自発的)なインプロである。


・「殴る」「蹴る」などのアクションは、
 「殴る側」よりも「殴られる側」がリアクションすることで見せる。
 なので、殴る方は相手がリアクションしやすいように
 大きくタイミングをとりやすいように見せる必要がある。


・2人が舞台の上で会話しているシーンになると、
 舞台下手(観客から観て左側のエリア)に立つプレイヤーは、
 つい右足を出してしまい、観客に背中を向けてしまっている。
 そうすると、顔が客席側から見えづらくなり、表情まで見えなくなる。
 プレイヤーにとっては不自然でも、
 できれば身体を前に開いて観客に見せた方がいいし、
 いい演技をしていても伝わらないのではもったいない。


・シーンとシーンのつなぎめの処理を丁寧にしないと、
 いきなり「ブツッ」と観客の緊張が切れてしまい、
 それまでに高まっていた舞台への集中や高揚が
 また振り出しに戻ってしまう。


・手にしている小道具が、その人にとってどのようなものかによって、
 その扱い方(距離、力、バランス、速さなど)をいい加減にすると、
 観客はすぐに役者の嘘と見破ってしまう。


たしかに、インプロには正解はない。
正解とは、
「あるべき姿」と「いまある姿」が合致したものである。

しかし、インプロには「あるべき姿」はない。
「その場、その瞬間」で、「在る」ものは変化し続ける。

だから、インプロには正解はない。


しかし、「あるべき事」は変動しても、「やるべき事」はある。

それは、観客とともに在ること。

そのためにも、観客の想像力をスムーズに働かせるための仕事は

舞台の上の演者であるインプロヴァイザーは心がけるべきだと思う。


だからこそ、自分の力に慢心せず、

初心者からも大いに学ぶことが必要がある。


だって、はじめてインプロを観る観客は、

まぎれもなく最強の初心者なのだから。