はじめに

 みなさんこんにちは、本野鳥子です。今回も、十二国記の再読をしていきたいと思います。短編集「丕緒の鳥」の最終回「風信」です。十二国記再読の第一弾はこちらから。未読の方はネタバレご注意ください。一番下に、「丕緒の鳥」の短編の感想の記事がまとまっています。それでは今回も、はるかな十二国記の世界を訪れることにいたしましょう!

 

「風信(「丕緒の鳥 十二国記 5」所収)」小野不由美(新潮文庫)

 予王の治める、慶国。王命により、女性は国を追い出されることとなった。しかし、逃亡せずに、外には出られないとはいえ、家の中で平穏な生活を送っていた蓮花一家は、ある日突然、空からやって来た空行師に襲われる。戦火から逃れるため、慶を出ようとする旅のさなか、王の崩御が告げられ、蓮花は暦を作る官吏たちの下働きとなって暮らしていくことになった。争乱がたえない、時代の変わり目の慶に生きた一人の少女の物語。

 

 確かに民は、たとえ戦のさなかでっても、日々の生活を送らなければならない。ならばそれを、誰かが支える必要がある。民がきちんと暮らしていけるように手を貸す。それは決して英雄的な行ないではないけれども、確実に必要だし大切なことであるのは間違いない。

 王がめまぐるしく代わる慶にも、民はいた。上から降ってくる横暴に唇を噛んでこらえながら、それでも必死に生き抜いてきた人びとがいた。陽子の活躍を描く「月の影 影の海」では見えなかった、慶の実情が、身近に感じられる。私はきっと、十二国の世界に行ったとしても、蓮花のような一介の民に過ぎないだろう。だから、蓮花が前向きになったことが嬉しい。慶が、そんな風に笑顔で人びとが暮らせるような国になることは、本当に喜ばしいことだと思う。

 

 失ったものは、永遠に戻らない。それでも、蓮花は周囲の人びとと暮らすうちに、忘れていた幸せを取り戻したのだ。人は、どんなにどん底に突き落とされても、また前に進んでいける、強い生きものなのかもしれない。

 

 決して華々しくもなく、強くもなく、国の政治を動かす力など持っていない、ただ一人の少女。けれど、彼女の姿は、私たちにそんな、とても大切なことを教えてくれているように感じた。

 

おわりに

 というわけで、これで「丕緒の鳥」は読了です。以下、「丕緒の鳥」の短編の各リンクです。

丕緒の鳥 落照の獄 青条の蘭 風信(この記事です)

 短編集なので分けて書いてみましたが、一話ずつ分けるのもなかなか不便なので、「華胥の幽夢」は一つの記事にまとめようと思います。次回は、「図南の翼」です。お楽しみに。