はじめに
みなさんこんにちは、本野鳥子です。今回も、十二国記の再読をしていきたいと思います。新潮文庫では第六巻となる、「図南の翼」です。今回はネタバレないとは思いますが、未読の方はご注意ください。初回の「魔性の子」はこちら。それでは、今回も、十二国への旅、お楽しみあれ。
「図南の翼 十二国記 6」小野不由美(新潮文庫)
舞台は恭国。富豪の末娘として育ったお嬢様、珠晶は、王になろうと昇山のために家を飛び出す。騎獣である孟極を連れ、王を選ぶ麒麟がいる、黄海は蓬山へ向かって、長い旅が始まる。
珠晶は、これまで、十二国記のシリーズの中では端々に登場してきたが、景王陽子や、延王尚隆などと比べれば、あまり活躍の場は多くない。台詞があるのは、「風の万里 黎明の空」ぐらいだったような気がする。しかし、この巻では個性の強い主人公として扱われているのだ。十二国記の主軸となっている、陽子と泰麒の物語からは、一歩引いた位置にいる彼女でさえ、王の登極にはこのような生き生きしたエピソードが準備されている。そういう意味では、十二国記の神髄ともいえる、設定の細かさが良く現れている巻なのかも知れない。
それにしても、珠晶の12歳とは思えない賢さと、子どもらしい溌剌とした性格が両立されているのには舌を巻く。十二国記の登場人物は、みんな文章から声が聞こえてきそうなほど、しっかりと息づいていて、今しも彼らが現れるのではないかという錯覚すら覚えてしまう。
そして、利広と頑丘である。何を隠そう、私が十二国記で二番目に好きな登場人物は利広である。ちなみに一番は延王だ。ともかく、飄々として、謎めいている利広には、惹かれずにはいられない。無責任なようでいて、頑丘に向かって
「―私は私なりに課せられたものがある。昇山の者を守る剛氏と同じように。そしてそれは、酔狂で投げ出すことが許されるようなものじゃないんだ。どんなものにせよ、課せられたものというのは、そういう性質のものだ。違うかい?」
なんて言ってしまう利広は、柔なようでいてしっかりした芯があることも、確かに感じさせてくれる人物だ。この二人に振り回される頑丘が、少し可哀想になってくるぐらいだ。
生き生きしたキャラクターと、とかく波乱に満ちた展開に、読むのをやめられない。外伝的立ち位置の作品ですら、これほど引き込ませてくれる十二国記は、読んでいて本当に楽しめるシリーズである。
おわりに
というわけで、「図南の翼」でした。次回は、「華胥の幽夢」です。またのご利用、お待ちしております。最後までご覧いただき、ありがとうございました!